第12話 配信ギルド始動!


「き、緊張しますね。ゴーシュさん」

「始める前はあんなにノリノリだったのに。ミズリーがそんなだと俺まで緊張するぞ」

「だって私、こういうことするの初めてですし」

「そうなのか?」

「勉強はしていましたけど、いざ本番となるとやっぱり……。あ、でもゴーシュさんとなら怖くないです。いつかゴーシュさんと一緒にって思っていましたし」

「そうか」

「じ、じゃあそろそろ……」

「そうだな、始めるか」

「はい。よろしくお願いします、ゴーシュさん」


 互いに言葉を交わし合い、ゴーシュとミズリーは頷く。

 そして――。


「それじゃあ、配信スタートです!」


 ミズリーが元気よく言って、微精霊を介した配信を開始させた。


「ど、どうも皆さん。ゴーシュ・クロスナーです」

「私はミズリー・アローニャです! この度、ゴーシュさんと配信ギルド《黄金の太陽》を立ち上げまして、今日は記念すべき初配信となります!」


【初見ですー。こんにちはー】

【何この娘、可愛くね?】

【また新しい配信ギルドか。最近増えたなこういうの】

【伸びるかどうか、見てやるか。クックック】


【オッサンと美少女とか、どんな組み合わせだよw】

【もしかして親子ですか?】

【なんか新規の配信にしては人多くね?】

【な。なんでだろうな?】


【ちょっと待て! この人、大剣オジサンじゃねえか!】

【うおー! 大剣オジサン、ギルドやるんか!?】

【友達に知らせてくるわ】

【誰やねん】


【まだ知らん人もいるんだな】

【拙者、昨日の別の配信を見ていた者でござる。ファンになり申した】

【この女の子は誰? こんな美少女と配信コンビ組むとか羨ましすぎるんだが】


【同時接続数:988】

【同時接続数:3589】

【同時接続数:7919】


 ゴーシュとミズリーが配信を始めると多くのリスナーたちが集まりだす。

 新規の配信だからと興味本位で訪れた者、モスリフでのゴーシュの配信を見ていた者、金髪の美少女ミズリーが映し出されていたから覗いた者。


 関心がどこに向いているかはそれぞれだったが、はっきりしていることがあった。


【おい、ちょっと待て。同接数ヤバいぞ】

【同接10000!?】

【ファーw】


【新規で開始早々10000超えってそんなことある?】

【あるぞ。歌姫のメルビスちゃんの初配信が確かそんな感じだった】

【あれは歌を歌ってからヤバかったな】


【同時接続数:10749】


 立ち上げたばかりのギルドが配信をしても、普通は同接数3桁がいいところである。


 今やっている配信はゴーシュとミズリーが立ち上げた配信ギルド《黄金の太陽》の名義を用いている。

 つまり、ゴーシュがモスリフの地で配信していたものとは別名義で、そこまで人が集まることはないだろうと思われたのだが。


(ど、どど、どうしましょうゴーシュさん。なんだかすごくたくさん人がいますよ!?)

(これは予想外だな。まあ、打ち合わせ通りいこう)

(り、了解であります!)


 リスナーたちには聞こえることのないよう目配せしながらゴーシュとミズリーは頷き合う。


 今、ゴーシュたちはある建物の中にいた。

 そこはギルド協会から紹介された物件で、ゴーシュとミズリーが立ち上げた新ギルドの活動拠点となる建物である。


 荷物の移動や、今後どういった配信を行っていくかの打ち合わせを済ませた後で、ゴーシュたちは初の配信を行うことにしたのだ。


 かつてこの世界では、動画配信が広まる前は荷運びや薬草採取といった、依頼を遂行することによって生計を立てるギルドが多かった。


 しかし、今やこの世界は動画配信が人々の興味を集める文化として根付いている。


 そのような世界でギルドを運営するにあたって重要なのは何か――?

 それは、より多くの人間から注目を集めることである。


 例えば魔物討伐にしても、配信をしながら行うことで多くの人々から注目を集めることができる。

 注目を集め、その実力が認められればより多くの依頼がギルドに寄せられるのだ。


 歌を歌う、秘境を探検するなどでも良い。

 多くのリスナーを集められるギルドとなれば、大手商会から広告宣伝の依頼が舞い込むこともある。


 つまるところ、ゴーシュとミズリーが行っている初配信は、人々から注目を集めるための第一投というわけだ。


「それでは早速ですが、俺たちのギルドについて紹介させてもらおうと思います。それじゃあミズリー、アレを」

「はい、ゴーシュさん」


【ギルドの自己紹介ってことか】

【基本やね】

【拙者はミズリー殿のことがもっと知りたいでござる】


【どんな配信するのかも聞きたいな】

【それな】

【大剣オジサンの剣術講座とかやってください。絶対に見ます!】


【ダンジョン攻略とか良いんじゃね? 大剣オジサンがどれくらいできるのか見てみたい】

【A級ダンジョンとか行っちまえよ】

【いきなりA級は草】

【《炎天の大蛇》みたいな迷惑系配信ギルドじゃないといいが……】


 リスナーたちが思い思いの感想を投げる一方で、ミズリーが用意していた大布を取り出す。


 配信ギルドを行うにあたって注目を集めることが必要。

 では、注目を集めるために重要なことは何か?


 動画配信オタクであるミズリーが導き出した答えはズバリ、「インパクト」である。


 リスナーに初配信でインパクトを与えるためには、分かりやすくどのようなギルドかを伝えることだ。

 そのためにゴーシュとミズリーは、ギルドとしての目標スローガンを大布に書いてお披露目しようと準備していたのである。


(それじゃあ、ミズリー)

(お任せください、ゴーシュさん。バッチリ決めてみせますよ!)


 ミズリーは畳んだ大布を両手に持ち、ドヤ顔で構えた。


「俺たち《黄金の太陽》のギルドが目指すもの、それは――」

「じゃじゃん! コチラですっ!」


【ん?】

【ん?】

【あれ?】


 大布が広げられ、配信画面にはミズリーの得意げな顔が映し出される。

 しかし――。


「ミズリー、逆、逆!」

「あっ! ご、ごめんなさい! 逆さまでした!」


 こともあろうかミズリーは大布を逆に広げてしまっていたのだった。


 いそいそと大布を畳み、ミズリーは赤面する。

 しかし、そんなミズリーの姿を見てリスナーたちは微笑ましいと思ったようだ。


【朗報。金髪美少女、ドジっ子だった】

【ドジっ子属性、推せる】

【はい可愛い】

【なんだこの可愛い生き物】


【いいぞ。もっとやれ】

【ドヤ顔で逆に広げるミズリーちゃん】

【くそかわ】

【驚いてもらえると思ったんだろうなぁ。確かにある意味驚いたがw】

【視聴確定】


 リスナーたちが予想外の方向に熱狂する中、ミズリーは気を取り直す。

 そして、今度は恥ずかしそうに大布を広げていく。


「あぅ……。これが私たちのギルドの目標スローガンですぅ……」


 ミズリーが広げた大布に書かれていたもの。

 それは【見てくれた人を笑顔に! 配信ギルドでナンバー1を取ります!】という文字だった。


 本来であれば、カッコよく決まるはずだった目標スローガンのお披露目だったが、赤面しているミズリーの破壊力の方がリスナーたちには響いたようだ。


【ごめん、ミズリーちゃんが可愛くて頭に入ってこないw】

【推します】

【は? 尊すぎるんだが】

【それ以上はやめておけ。死人が出るぞ。尊すぎて】


【これは期待の新星w】

【この子と大剣オジサンのタッグ、最強では?】

【もう既に笑顔になりました。ありがとうございます】

【配信ギルドで一番か。確かに素質あるわw】


 流れるコメントに恥ずかしくなり、ミズリーは大布に隠れるようにして顔を隠してしまう。


(仕方ない。引き継ぐか)


 そんなミズリーを見て苦笑しつつも、ゴーシュはある発表をすることにした。


「えー。ここに書かれているように、俺たちは皆さんに笑顔を届けつつ、配信ギルドの頂点を目指します。もちろん、生半可なことではないと思います。そこで、少し早いですが、次回の配信について告知させていただければと」


【お?】

【もしかして、大剣オジサンの魔物討伐とかですか?】

【何やるんだ?】


 リスナーたちのコメントを横目に、ゴーシュは一つ咳払いをして、そして告げた。


「次回、俺たちは王都近郊にあるS級ダンジョンを攻略しようと思います」

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