第8話 SIDE《炎天の大蛇》破滅に向かって


「畜生畜生畜生っ! 冗談じゃねえぞ! あんな魔物と戦っていられるか! 逃げるぞお前ら!」


 王都外れの洞窟、中級ダンジョンにて。


 ギルド長アセルスを始めとした《炎天の大蛇》の面々がダンジョン攻略配信と称し、配信を行っていた。

 しかし、突如として現れた危険度A級の魔物――フレイムドラゴンに遭遇し、今は撤退を余儀なくされている。


「うおっ!?」


 と、我先にと走っていたアセルスを魔物の攻撃が襲う。背後から現れたウルフ型の魔物によるものだ。

 その攻撃がアセルスに直撃することはなかったが、鋭い爪に斬り裂かれそうになったアセルスは後ろにいたギルドメンバーに怒号を飛ばす。


「おい、後衛組は何してやがった!? 魔物に不意打ちされてんじゃねえか!」

「そんなこと言ったって、いきなり現れたんだから対処しようがないッスよ、ギルド長!」

「くそっ、今は逃げるのが先決だ! 配信も一旦止めるぞ!」


【何だ何だ。今回も企画達成できてねえじゃん】

【悲報:《炎天の大蛇》、落ちぶれる】

【まあ、フレイムドラゴンじゃ仕方ない気がするが。アレ、危険度A級の魔物だろ?】

【でも、ちょっと前までもっとサクサク魔物討伐してなかったか?】

【魔物倒せねえならダンジョン配信やめろ。迷惑系動画でも流してろよ】


【ギルドメンバーがえっちなコスプレ着てる配信動画アップしています♪ 興味のある人は見てみてね♪】

【荒らしまで湧く始末】

【↑変な広告動画が流れてきたでござる。どうやったらえっちなコスプレとやらを見れるでござるか?】

【騙されててワロタw】


【はー、半年くらい前からこんな調子だよなこのギルド】

【半年前、何かあったっけ?】

【ここのギルド長が誰かクビにしてなかったか? それが原因じゃね?】

【思い出せん】

【今見てきたらその動画、運営に削除されてたぞw 誰がいなくなったかもう分からんw】


【一人クビにしたくらいでそんなに変わるかよ】

【分からんぞ? その一人が超有能だった可能性もある】

【もしそうだったとしたら追放したアセルスはめっちゃ無能じゃん】

【調子乗ってるからこうなるんだよw】

【まあでもこのギルド、迷惑系の配信はまだ伸びてるからな。そっちで食っていけば何とかなるだろ】


 ブチッ――と。


 《炎天の大蛇》のギルド長アセルスは、流れるコメントを横目に、微精霊との交信を解除して配信を終わらせた。


 不意打ちを受けた魔物から息も絶え絶えで逃げ切り、膝に手をやりながら悪態をつく。


「くそっ……。俺がゴーシュを解雇したのが原因だと? そんなこと、あるわけねえじゃねえか!」


 アセルスは苛立たしげに洞窟の岩壁を叩いた。

 荒れたその様子に、同行していた他のギルドメンバーも今は関わらないでおこうと決める。


「そうさ……。このところ、ちょっとばかし不意打ちを食らうことが多くて調子が出てねえだけだ。さっきも新種のフレイムドラゴンに出くわすなんて、不幸としか言いようがねえしな」


 独り言を続け、アセルスは平静を保とうとする。


 なお、アセルスが一見して逃げることを決めた魔物を一太刀で倒してしまった人物がいるのだが……。ついでに挙げれば、その人物は半年前までギルドのメンバーだったわけなのだが……。

 そのことを知らないアセルスは、顔を上げて鼻を鳴らした。


「フン、まあいいさ。無理に魔物を討伐しようとしなくても、最近は他の配信が好調だしな」


 最近――というよりも半年前、ゴーシュの追放配信を行って味をしめたにすぎないのだが、アセルスの企画した配信で良好な数字を記録しているジャンルがあった。

 それが迷惑系動画と呼ばれる配信である。


 ――有名配信者のプライベート情報を暴露するもの。

 ――ある飲食店にクレームを突きつけ、店主の反応を面白おかしく笑うもの。

 ――礼拝者の信仰を試すと言って、王都の教会の近くで場違いに騒ぐもの。

 ――ギルドメンバーの女性に露出の多い服を着させ、街中を歩く男性の反応を隠し撮りするもの。等々。


 フェアリー・チューブの運営を行う組織に削除されることもあるのだが、手っ取り早く人の注目を集められる配信としてアセルスの中ではお気に入りのジャンルだった。


「今の配信市場は注目を集めることが正義だからな。他人に迷惑をかけようが知ったことか。古臭い魔物討伐の配信に頼らなくたってウチのギルドはまだまだ上に行ける。新しい流行をこの俺が作り上げてやるぜ!」


 アセルスはニヤリと笑ってそんなことを呟くが、その危険性を指摘してくれるギルドメンバーはいなかった。


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