No.1 全日本直前(2)《伶菜》

 そして、翌日の公式練習が始まっている。


 女子は午後の一番最後ですぐにペアのショートプログラムが行われるんだ。

 わたしはショートのプログラムをジャンプ抜きで行っているときに、清華せいかちゃんはトリプルアクセルを跳んでいた。


 その次のグループの練習を見ていたときに、ステップを踏んで丁寧に滑ろうとしているのがわかるんだ。


「清華ちゃん。本気だな」


 それを見て周りはやっぱり警戒しているみたいで、ほとんどが強気の構成で滑ろうとしている。


 特に紫苑しおんさんとかはトリプルアクセルの他にも後半に得点源となるジャンプを予定していることも知っている。

 でも、去年いた選手とかのなかで引退したりして新しい選手が出場していたりしている。


「うわ……紫苑さんの迫力すごいね」

「確かにね。休養する前と比べて高さと幅が出てるもんね。すごいわ」


 音楽を流して滑っている紫苑さんは力強い振付で滑ろうとしているんだよね。

 そのなかで友香ゆかちゃんは衣装を変更して初めて滑る姿を見た。

 公式練習が終わってからペアと男子ショートのプログラムはとても楽しみにしている。


「あ、こっちだよ~!」


 ペアは今年複数組のエントリーがあって、表彰台を争うことができるんだ。


 現世界トップのカップルである「まいしょう」こと、伊藤いとう舞香まいか田中たなか翔太しょうた組。

 カップル結成三年目ではあるものの勢いのある「あやしゅん」こと、早場はやば文花あやか深澤ふかざわしゅん組。

 今年カップル結成したばかりの「みなしょや」こと長谷川はせがわ美浪みなみ小林こばやし翔也しょうや組。


 どのカップルも個性が異なるからプログラムのジャンルがあまり被ることがないんだ。


「いやあ。舞香ちゃんと翔太くんたちの技はすごいよね」

「迫力があるし、かなり貫禄があるよね」

「そうなんだよ。というかさ、文花ちゃんたちトリプルツイストリフトがすごい」


 文花ちゃんを上空に投げられて、俊くんがキャッチして氷の上に下ろす技――ツイストリフトを確認している。

 特に上空に投げられたときに三回転するトリプルツイストリフトの完成度が去年より上がっている。


 その後にサイド・バイ・サイドのトリプルルッツに変更しているのを見ると、文花ちゃん自身のジャンプなどの技術が上がっているんだろうなと考える。


「というか今シーズンのプログラムもバレエなんだよね」

「ショートは変更しいよ。本人たちがしっくりしてきないみたいで」


 いま六分間練習をしているときに着ている衣装も私服みたいで、何かミュージカルを経験するかもしれないと考えているかも。


 最後に黒と青の衣装を着ている美浪ちゃんと翔也くんがスロージャンプでトリプルサルコウにチャレンジしているみたいだ。

 美浪ちゃんは一度ペアからシングルに専念していたんだけど、再びペアを開始したことは前向きに考えているかもしれない。


 その間に六分間練習が終わって一番目が文花ちゃんたちだったので、リンクに残されて演技を始めるのを待っていた


『一番、早場文花・深澤俊組、聖橋せいきょう学院中高スケート部・聖橋学院大学』


 文花ちゃんは白いシャツにジーンズのスカートに黒レギンス。

 俊くんはスカジャンみたいな上着に黒いシャツとズボンで、高校生みたいな服装をイメージしているのかも。


 パンフレットに書かれてあるのは『ハイスクールミュージカルより』、アメリカの高校をテーマにしたミュージカルドラマだ。


 そのなかで選ばれた曲に乗せて笑顔で滑っていくのがかっこいい。


 最初のトリプルツイストに勢いがあって、その次にあるサイド・バイ・サイドの距離を保ってのトリプルルッツはきれいに降りている。


 ペアスピンをしているときにうれしそうな表情を見せながら滑っていくんだ。


 最初は流れてくる曲に乗せてアメリカの高校生を演じているのに、とても自然な笑顔で二人は授業を受けたりするパントマイムが入る。


 そのなかで俊くんの演技もノリノリでときどき入るダンスシーンがかっこいい。

 夏休みが来たシーンで流れる曲に乗せて、ステップシークエンスが始まると文花ちゃんの笑顔がこちらを見つめているのがわかる。


 そこからリフトを始めて、基礎点が低いリフトが規定されているらしい。


 でも、それでも難易度なんて関係ないのに体幹をかなり鍛えてないとできないやつだ。

 文花ちゃんを下ろすときに一度体を側転させてから、氷の上に着地させている。


「すごい! 文花ちゃんの体幹えげつないね」

「うん。すごいよね」


 勢いに乗せて文花ちゃんを氷と触れるスレスレの位置まで倒れて円を描くように回るデススパイラル。

 滑ってきたスピードが活きていて、歓声が上がっているのがわかる。


「夏合宿のときより上手くなってる!」

「カナダでときどき練習してるみたいだし、ペアってみんなで練習するのっていいよね」


 二人の勢いは止まらずに息を合わせ方もピッタリで、スピンが終わるタイミングも合っているからきれいに見えるんだ。

 最後のスロージャンプを降りてから拍手が起きて、最後のポーズをしているのが見えてうれしそうな顔をしているのが見えた。


「すごい。バレエじゃなくてもかっこよかったね」

「バレエじゃなくて、こっちの方が好きなんじゃないかなってくらいに」

「本当にそれはすごいと思う」


 文花ちゃんはバレエの他にもストリートダンスとかも習っていたと聞いているし、このミュージカルやダンスナンバーの方が振り切っているように感じていた。


 二人は自己ベストを叩き出して次のカップルを待つことにしたのだ。


『二番、長谷川美浪・小林翔也組。アイスパレス札幌さっぽろ


 二組目は今年結成したばかりのカップルだけど、ペアの経験者だった美浪ちゃんを翔也くんと組んで再びペアに戻ってきたんだ。

 二人とも二十歳歳だったこともあって珍しく年齢差の無いカップルだなと考えていた。


 流れてきたのは『シング・シング・シング』のメロディー、思わず手拍子が鳴りながらこちらを見つめているのがわかる。

 最初にサイド・バイ・サイドのジャンプ、ダブルツイストリフトにペアリフトをきれいに行っている。


 でも、少しだけステップシークエンスの後にあったスピンを始めたときに転倒してしまったけれど、すぐに立ち上がって踊っているのがわかる。

 そんななかでスピード感とさわやかさが魅力的な二人で、息がぴったりな動きをしているんだ。


「美浪ちゃんと翔也くんすごい完成度あるね」

「やっぱり経験者だね」


 そして点数は転倒したことが影響しているけれど、順位は文花ちゃんの方が上だった。

 最後にペアの王者である舞香ちゃんと翔太くんが王者の風格を見せて暫定一位になっていたんだ。

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