No.3 決断(1)
十一月から十二月に変わってクリスマスの装飾が増えてきた。
それを見てしまうと全日本選手権が近くて、とても焦ってしまうなと思うのはスケーターあるあるなのかもしれない。
まだまだ三週間くらいあれども不安になってしまう。
大学の授業の合間を縫って練習をすることが増えたのにも慣れたきたある日。
すでに東日本インカレは終了していて東海林学館でインカレに出る七級メンバーは全員インカレに出ることが決まった。
それと
「あ、
「ごめん、遅くなって」
「良いの。三限遅かったし」
「それな~、明日から、大阪帰るんよ。だからノート見して」
「良いけど、どうしたの?」
「
「わかった。早く行ってあげて」
「うん。またね」
そう言うと大きなスーツケースを片手に急いで駅の方へと向かった。
三限が終わって四限が心理学入門Ⅱという科目に出るために一号館へ急いでいくことにした。
学校内でレンタサイクルが置かれてあるのでそれを有効活用することがたまにあるんだ。
今日は時間も余裕なので歩いていくんだけど、六号館からはちょっと離れているので駆け足だ。
心理学科に所属している
「あ、
「おはよう。そっち、授業終わった?」
「うん、あと五分くらいだね」
「授業終わったら練習だよね?」
「そうなる。あ、日本文学概論さ、休講のお知らせあったよね?」
「あった! めちゃくちゃ急だったわ」
そんな話をしながら大講義室には多くの学生が増えてきている。
四限の授業のほとんどは教養科目として履修している学生がほとんどだ。
清華ちゃんは教養科目のなかでも学科の必修だった気がする。
授業を聞いていると、スポーツ心理学を履修する条件に加わっていることを知れてよかったと思う。
いつか履修予定だとそうなるかもしれないけれど、前期の先生とほぼ一緒だったので評価方法は知っている。
今日の授業は四限までで終了したのは午後五時、ちょうど中高生がリンクに集まる時間だ。
これから
それと着替えとかしないといけないから更衣室には早めに行かないといけない。
そんなことを考えながら西武線の各駅停車に乗って、数十分で東原市駅に到着した。
帰宅時間が重なっていることもあってかなりぎゅうぎゅう詰めにされてホームに降りた。
人波に流れながら階段を降りることにして、清華ちゃんが先にトイレの方に向かって歩いていくのが見えた。
わたしは後ろの方から歩いていくことがあったんだけど、いきなり後ろから押されてしまった。
周りに人がいなくてそのまま階段を正座のままスライディングして、派手に膝からこけてしまったんだ。
同時に右足首をひねったと思うし、痛みがだんだんと出てきているのがわかる。
派手な音だったし、清華ちゃんが不安そうに駆け寄ってきた。
「うわっ! 痛っ……」
「友香ちゃん⁉ 大丈夫」
「いや、右足首ひねった。痛くなってきた」
アスファルトに転んだけど、膝と手はかすり傷で済んでいる。
清華ちゃんにはそれを伝えてから、同じ電車に乗っていた
「友香ちゃん、どうしたの⁉ え、ケガした?」
「足ひねったって」
「それじゃあ、俺が肩を貸すから、千裕くんはすぐに
「わかった」
「よし、行こうか」
荷物を清華ちゃんにお願いしてもらって、すぐに清華ちゃんと佑李くんに肩を貸してもらって歩いていく。
まだ足がズキズキと痛み始めているし、かなり痛みがひどくなっているような気がする。
東原スケートセンターの建物に行くと、大西先生と医務室から
「あ、広瀬先生」
「大丈夫? 駅でこけたって聞いたけど」
「階段の中腹、上から四段目から正座みたいに滑り落ちて」
「今すぐ医務室に行こう。とにかく場合によっては病院ね」
その言葉に背筋が凍って、冷や汗がダラダラと流れてくるのを感じた。
医務室で靴と靴下を脱いで、ジーンズの裾をある程度まくる。
足は少し腫れていて今年の三月にねんざしたときと似ているけれど、腫れ方が若干ひどいかもしれない。
わたしはそれを見てヤバいかもしれないということを知った。
「清華ちゃんたちは練習してて。とりあえずアイシングとかをしておくからね」
「はい」
次に膝とかの擦り傷の手当てをしてもらって、今日はすぐに病院へ行くにした。
近所にねんざを診てもらっている場所があるので、そこでお願いすることにした。
スポーツ整形外科の先生は丁寧に見てもらって、ねんざの箇所はこの前と同じだっていうことを言われた。
そのあとに二週間の安静を言われて、グランプリファイナルの出場の可否を聞いた。
「グランプリファイナルはどうですか?」
「確か来週だよね……あ~ちょっと厳しいね。安静にしても、そのあとから練習は痛みもあるかもね」
「わかりました。コーチとも相談してみます」
そのまま湿布などを処方してもらってから、東原スケートセンターへ戻った。
「どうだった?」
「この前と同じ場所で、今回は二週間の安静です。ファイナルは厳しいと言われました」
「うん、悔しいけど欠場して全日本に照準を合わせよう」
「はい」
大西先生はケガを悪化させることはいけないと考えていたのかも。
自分も悔しいけど全日本に向けて練習のために治していこうと思った。
スケート連盟から正式に自分のグランプリファイナル欠場が発表されたのはそれから数日後だった。
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