No.2 飛躍(2)
ショートの結果が前半まで出ている。
暫定一位はベルギーのベラ・ヤンセンスちゃん、二位にはイタリアのマリア・ロッシちゃん、三位にはアメリカのレイラ・スカーレットちゃん。
ベラちゃんの得点は60点台の後半を出しているので、上位へのボーダーラインが高くなっているのは明らかだった。
今年の世界選手権で上位に入ってくるかもしれない子だなと感じていて、観客たちも発見されていると思っているみたいだ。
その後に六分間練習がスタートしているの見えて、選手たちはリンクの中央で一直線に並んで立つ。
滑走順に並ぶと選手紹介があってからは練習がスタートした。
それからはトリプルルッツ+トリプルトウループを跳んでから、あちこちで声援が聞こえてくるのがわかる。
ノービス時代、東京開催だったNHK杯でフラワーキッズになったりしていたことがある。
緊張感とかにビビりながらリンクサイドで見ていたことを思い出していたんだ。
その後に
足のケガを考慮してルッツを単独で入れているみたいだったけど、今日もその構成みたいだったはずだ。
「
「はい、ルッツとフリップは大丈夫です」
六分間練習になると丁寧に滑れることができるかも。
色とりどりの衣装を着ている選手たちが滑っていく。
同じ構成になっている選手たちよりは高くしたいと思うし、それはみんな一緒だと思う。
「大丈夫?」
「はい」
残り一分というアナウンスが聞こえてきてからは勢いに乗せて、スピンの確認をしていくことを確かめていきたいと思っている。
今日はアレン・ローレンスさんが振付師として来てくれていて、何人かのキスクラに座っているみたいだった。
「アレンも来たね」
「久しぶりだね! ユカの『冬』を見に来たよ」
「はい」
アレンさんもコートを着ているけれど、とてもうれしそうな表情をしているんだよね。
長いお付き合いの振付師さんになっているんだよね。
リンクを出るとすぐに楽しそうな姿をしているようで笑顔になっているのがわかる。
「ユカ、緊張してる?」
「え、まあ。少し」
「大丈夫。君のプログラムは毎回いいものになるから」
わたしはその言葉を聞いて少しだけホッとしてしまうけど、アレンさんと話していると緊張感が解れてくる。
いつもできるだけ自分と一緒に良いものを作ろうという気持ちが合うのは良い。
今シーズンのプログラムは新しい自分として滑ることができればいいと思っているんだ。
ビバルディの『冬』はたくさんのスケーターに使われているから、振付も編曲も少しずつ変わっているのを選ぶことができる。
主に第二楽章を使っているから、ゆったりとしたカウチで滑るようなことが多いかもしれない。
体を動かしてからは滑走順を待つために待つことをしているのがわかったんだ。
「友香ちゃん。そろそろ行こうか」
「はい」
「行きましょうか」
靴を履き替えてからリンクサイドに入る。
前のフランスの選手が終わって得点が出るのを待っているようだった。
心臓がバクバクと速くなってきているのに、先生たちがうなずいてハイタッチをしてくれる。
「楽しくね」
「はい」
その後に流れてきたアナウンスには気にせずに滑っていく。
『十番、
英語も同じようにアナウンスがあってから拍手と歓声が聞こえてくる。
わたしは気持ちを落ち着かせて、リンクの中央にあるスタート位置で立って待っていたんだ。
シーンとした会場内のなかで注目がこちらに来ているのがわかる。
それがとても怖いという気持ちが徐々に大きくなっていく。
最初に流れてきたメロディーに乗せて最初のトリプルルッツ+トリプルトウループをまず跳ぶ。
タイミングもよく高さと幅が出ていた会心の出来のジャンプだったのでうれしい。
余裕に降りれてからきれいに降りることができて、拍手が聞こえてくるのがわかる。
ホッとできないけれど最初の得点源であるジャンプを跳べた。
色んな感情を表現しながら滑っていくけれど、そのなかに厳しい冬の振付が多くなってきているんだ。
まだプログラムの前半じゃないことがあってからは丁寧に滑るのに、一気にスピードに乗っていく。
緊張で手が震えているのに気が付いた。
衣装のスカートがバタバタとはためくのを感じながらスピンをしているんだよね。
冬の精霊のなかできれいで軽やかなステップシークエンスが始まって、最初のターンから入る。
このプログラムのなかで一番の見せ場で、残りのジャンプが二つあるのに体を大きく動かさないといけないの。
それがとても厳しくて何度もアレンさんにダメ出しを食らいながら振付をするときに言われたんだよね。
後ろ向きで右足のツイズルからの前を向いて曲がってからのイナバウアーをしてから、左足でツイズルをしてから跳びあがってスピンに入る。
最初に座った姿勢、その後に軸足じゃない方を軸足の膝裏に挟み込んで、立ち上がって回転して終わる。
最後に残っているジャンプ二つを滑っていくことにしている。
足がパンパンになっているのは知っているけれど、がんばらないといけないと思う。
ダブルアクセルを跳んでからは次に加点がつく最後のジャンプにトリプルフリップを選んだ。
歓声はジャンプを跳ぶたびに起きて、笑顔で滑りきることができたんだ。
キス&クライに座ると得点がすぐん発表される前に待つことにしたんだ。
流れてきた音楽が途切れて、アナウンスが聞こえてきた。
『金井さんの得点、70.88。現在の得点は第一位です』
「うわ。一位だけど……厳しない? 点数」
「確かに、中国杯より加点も少ないですし」
取材をしている間にもモニターで流れてくるアナウンスを聞いて気が付いていた。
今シーズンのNHK杯は採点が厳しいみたいで他の選手もいつもより低めの点数になっている。
紫苑さんも中国杯より二、三点低い得点で納得がいっていないような気がしていた。
ショートは暫定一位に紫苑さん、二位にわたし、三位にベラちゃんが入った。
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