No.4 夏の閃光(4)

 三泊四日の長いようであっという間だった夏合宿が終わって、筋肉痛を耐えながらスケートリンクで滑っていた。


 着ているのはレギンスにスケートリンクのスタッフジャンパーを羽織った姿だ。

 男子高生が制服姿でビュンビュン飛ばしたりして、かなり派手にコケているのが見えた。


「大丈夫ですか?」

「ありがとうございます……すみません」

「危ないですよ。あんなに飛ばすのは、他の利用者さんたちも巻き添えもあるので」

「はい」


 それを言いながら他の先生たちに任せることにして、わたしは他の監視をすることにしたの。


「あ、伶菜れいなちゃん。こっちのカウンター業務をお願いします」

「はい」


 靴を履き替えてカウンター業務もたまに行うんだけど、今日は他の大学生たちが休みなので待つことにしたんだ。


「すみません。大人二名で」

「はい。こちらの券売機で入場料と貸靴をご利用する場合も同様にお願いします」

「ありがとうございます」


 それを聞いてから貸靴ではなく大人スケーターの人たちだったんだよね。

 入場料のチケットの半券をもらい、数を確認していくことにしていく。


 実は高校卒業してからスケートリンクのスタッフを募集しているのを見て、スケートリンクでアルバイトしたいと運営の人に応募してみたの。


 バイトを始めたきっかけは自分の使えるお金をもう少し持っていたいという気持ちだった。

 それで主にクラブの貸切と大学の練習がない日にシフトを入れてもらっている。

 シフトはまちまちだけど、今日は四時間くらいの短時間だ。


 あと三十分くらいなので我慢して待つことにしたんだけど、すぐに知っている子がこっちに来たのが見えたんだ。


「あ、バイトしてるね」

万里加まりかちゃん。合宿お疲れ様」


 たちばな万里加ちゃんは千裕ちひろくんの一つ下の妹、同い年の大学一年生で遠海とおうみ大学のアイスホッケー部で通っている。

 つい最近まで合宿で見ないなと思っていたんだけど、久しぶりに見たなと思っている。


「あれ、その子って噂の子か」


 スマホで動画を見せてくれたのはとてもかわいい女の子の写真だった。

 千裕くんと万里加ちゃんに妹が半年前に生まれたことを知ったときは驚いた。


「うちを生んだとき十九歳になったばかりだから。よく頑張ったなと思うんだよね」

「納得したかも。かなり若いなって思ってたんだ。名前って聞いてなかったな」

「ああ、遥加はるかだよ。うちと千裕と考えたんだ」

「良い名前だね」

「これでスケートかホッケー始めたら面白いけど」


 それが現実になるのはまだ誰も思いもしなかったんだけど、年の離れた妹に万里加ちゃんは溺愛しているみたいだ。


「妹ができたのはうれしいよ。お姉ちゃんになれたもん」

「良いよね。お姉ちゃんって呼ばれるの」

 そんなことを話して手を振って万里加ちゃんが自主練習を行う準備を始めていた。

「それじゃあ、幸田さん。お疲れ様」

「お疲れ様でした。それでは行きます」


 わたしはシフトが終わってからは自分も自主練習のために着替えを行う。


 最初にスケート靴を履いて柔軟をしてからは、スケーティングの練習を行うことにしたんだよね。


 リンクに入ると勢いに乗って滑り出していく。

 これから試合が多くなるから、自分がワクワクしている。

 頑張って全日本へと進みたいと思っている。

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