#1 シニア1年生《伶菜》

No.1 初めての部活(1)

 大学に入学して一か月以上が経ってオンライン授業も慣れてきた頃。

 今日は緊張していることがあって、急いで東原スケートセンターから練習着の上からジャージを羽織って東伏見ひがしふしみのアイスアリーナへ行くことにした。


「あれ? 伶菜れいなちゃん、クラブの練習はお休み?」

「うん。大学の部活に行ってくる」

「今日はハシゴするんだね」


 スマホで時刻表を確認しつつ、新しいことが話しているかもしれないと考えている。

 電車に乗るのは本当に久しぶりで高校の通学路だったのに、一か月以上乗っていないことに気が付いてしまう。

 この時間帯だと帰る人の方が多いのか、何となく違和感しかないと感じる。


 わたしは稲生いなせ大学の通信制課程へ入学してしばらく経つけど、初めてスケート部の練習に参加するんだ。

 通信制課程の学生は練習拠点の関係上、合流することができないんだけど……可能だったら部活に参加することになる。


 駅に到着すると稲生大学のジャージを羽織っている子たちがいて、こちらをチラチラと見ているのがわかってびっくりした。

 それからこっちを見て話しているのが見えてハラハラしてしまう。

 わたしは連絡と取っている人とメールを送ろうかと考えていたときだった。

 そのときに一番年上の男性がこちらへ小走りで来てくれたんだ。


幸田こうださんだね、通信の健康福祉学科の」

「はい。お世話になります」


 その後に部長のような人がこっちに駆けてくるのが見えた。

 わたしはそれを見て驚いてしまったんだけど入部式について簡単に打ち合わせをさせてもらった。


「家がすぐそこなので……東原駅なんで可能ですけど。場所がわからないです」

「わかった。高田馬場たかだのばばで待ち合わせ」

「はい」


 それから荷物を持って練習を始めることにしたんだ。

 そして、一年が先輩の前に立って自己紹介をすることになったんだ。

 男子が三人、女子三人の六人が入部することを決めたみたいだ。


「それでは一年生は名前と学部学科、特技と目標についてお願いします。先輩も同様です」

「はい」

「それじゃあ、じゃんけんで最初から時計回りに」


 じゃんけんをすると背の高い男子が手を挙げて先輩たちが拍手をしている。


北野きたの悠生ゆうきです。人文学部教育学科にいます。今年でジュニアラストなので、悔いの残らない演技をしたいです」


 北野悠生くんが京都から稲生大学へ入学してきたことは知っていたんだ。

 その隣にいるのは知っている子で安心していた。


加藤かとうれいです。人間情報学部スポーツ学科にいます。ケガの無いように練習したいです」

市川いちかわさらです。学科は右に同じで、今年は全日本に出たいです。よろしくお願いします」


 その後に自分の出番が回ってきて少しだけドキドキしているときだった。

 わたしは少し深呼吸をしてから話しかけてきてくれていたので、すぐに話すことができているのが話している。


幸田こうだ伶菜れいなです。人間情報学部健康福祉学科です。来シーズンからシニアデビューなので全日本へ行きたいのと……通信制なのでの練習には参加できないですが、がんばって技術を磨きたいと思います」


 それを聞いてざわめきがあったけど、驚いてしまった。


「初めまして。平林ひらばやし流美るみです、人文学部西洋史学科でインカレに出ることが目標です」

「えっと……浅川あさかわ春香はるかです。人文学部国際交流学科で、スケートは五歳からやってます」

清水きよみず航大こうだいです。理工学部物理学科で、スケートの経験はないですが……よろしくお願いします」


 初心者の子が三人と六級の子が二人、他七級という形で分かれている。


「それじゃあ、七級の子はすぐに行こうか~」

「は~い。すぐに行きます」


 それからウォーミングアップは済ませてきているのでリンクに入って、ジャンプを跳ぶことにした。

 最初にリンクで足慣らしをしてからトリプルまでを順番に跳んでいくことにしたんだ。


 わたしは最初にシングル、ダブル、トリプルと回転数を上げていくと、最後に得意のルッツまで跳び終えた。

 それを聞いてからはとても楽しそうな姿をしているんだろうね。


「幸田さんってルッツまで跳べるんだね」

「はい。ここ一、二年で跳べるようになりました」

「伶菜ちゃんって高校二年まで五級とかだったもんね」

「そうなんだよね」


 それを聞いて驚いている人が多いけれど、さらちゃんが補足してくれるけど負けないぞって気持ちが芽生えているみたいだ。

 わたしのジャンプはいつの間にか跳べるようになったものではないと思っている。

 ダブルアクセルが跳べなくて、トリプルジャンプもあまり成功率が低かったんだ。


「今年も東日本で待ってるよ」


 わたしはすぐに曲かけをお願いしてフリーだけを掛けてもらうことにしたんだ。

 最初に流れてくるメロディーに乗せて、楽しく滑って行ければいいなと考えている。


 ジャンプは抜きでステップと繋ぎのレベルを上げていくような形の方がやりやすい。

 元からこの練習法だったこともあってなのか、ダンス重視の練習をとても楽しいんだ。

 スピードを調整しながら人の合間に入らないように考えながらなので、とてもエッジワークと動体視力が試されそうになっている。


「すごいね。伶菜ちゃん、エッジワーク」

「ステップは今シーズン落としたくなくて。最低でレベル3を目指している」

「ステップ上手いけどねぇ、伶菜ちゃんは」

「そうかなぁ。周りが上手い子が多いからね」

「そうだよね~。強化選手の一覧、見た?」


 最近、日本スケート連盟から各競技での強化選手が発表された。

 そのなかで同じクラブの金井かねい友香ゆかちゃんと星宮ほしみや清華せいかちゃん、神崎かんざき佑李ゆうりくんとたちばな千裕ちひろくんがシニアでは選ばれている。


 特に驚いたのは特別強化選手という強化選手のトップクラスのメンバーに清華ちゃんがいたことだった。


「清華ちゃん、ついに連盟の目に留まったかって思ったんだけど」

「そうだよね。ちょっとびっくりしたけど、全日本と四大陸で結果残してるしね」


 清華ちゃんは去年の全日本で三位、今年に入って二月の四大陸選手権という国際大会で優勝したからかもしれない。


「でも、それくらい期待してるんだろうね」

「さらちゃんだって、行けると思う」

「去年も全日本は行けてないから、いい加減行きたい。お姉ちゃんも引退してるし」


 さらちゃんのお姉ちゃんのりらちゃんは大学を卒業と同時に引退したんだ。

 それ以降はさらちゃんが地元から通いながら練習をしているんだって。

 ちなみに彼女の実家は船橋ふなばしになので大変そうだなと考えている。


 それぞれプログラムの通し練習をしているみたいで、次は一つ上の河野こうのかおるくんが通しを行うみたいだった。

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