第9話 学園の日々④ ミツキと昼食
校舎から出て真新しい二階建ての建物に入る。
一階は通常の食堂。普通の学園生用の食事処。物凄く混雑している。
二階は、丸テーブルが余裕を持って配置されているカフェ形式。公爵の家柄以上でないと利用できない場所だが、シャルとユーヴェと勇者の俺は問題ない。
ミツキは……。『男爵令嬢』と言っていたので見つかると都合は悪いはずなのだが、本人が気にしている様子は微塵も見られない。この二階は、さすがに昼休みの時間帯でも空いている。
俺たち四人は、厨房前で各々好きな物を注文して、奥のテーブルに陣取った。
騎士ユーヴェイン。肉厚のステーキ。流石に現役の騎士職だけあって絞った体躯なのだが、食欲は旺盛だ。
第十一王女、シャルロット。シーフードの炊き合わせと果物ジュース。加えて本日のデザートの木苺のプディングを二つ。お洒落な外見に合わせているのかいないのかわからないが、食事も洒落た感じ。
勇者の俺。パンと肉野菜のスープ、サラダ付き。このバランスが実は一番美味しいと思っている。貴族出身ではない市井の人間なので、これが性に合っている。
そして男爵令嬢のミツキ。教室で口にした通りの三色ソーセージに、パン、コーンスープ。
四人で教会の女神様に感謝の祈りを捧げてから、ワイワイとした賑やかな食事が始まった。
「ミツキさん。見かけの寄らず……庶民派ですね」
「私、庶民派じゃなくて庶民だから。というか、このバランスが実は一番美味しいと思っているの」
「庶民なのですかっ!」
ガーンと、シャルが衝撃を受けたという様子で驚いたという顔をしている。
「庶民詐欺じゃないんですか? それは」
「なによ、庶民詐欺って?」
「王女様が、私は庶民の為を思っている庶民の味方です! とかいう寓話的ななにか、ですか?」
「王女様は貴女でしょう」
「あ。違いました。女王様! ミツキ女王陛下様です!」
「なに、それ?」
「ミツキさん、年若い女王様にしか見えないじゃないですか。なんというか、国の都合で即位した絶対権力者みたいな」
「酷い言いようね」
綺麗な仕草で食事を進めているミツキだったが、シャルの言葉をそれほど酷いと思っている様子はない。
「殿方たちはどう思います? ミツキさん、王女様? 女王様?」
シャルがユーヴェを見て返事を要求する。黙々と肉を食べていたユーヴェだったが、うーんとうなってから言葉を絞り出す。
「王女様はシャル。何も責務がなく、自由があって勝手気ままという状況。ミツキさんは……女王としての権力もあるんだが、同時に責めも追っている……感じがする。ただの空想だが」
「勝手気ままとは少し酷い言いようですね」
シャルが不満だという声を上げた。
「将来ユーヴェの奥方になったら勝手もできなくなるんですから、今だけ少しだけ勝手でもよいと思うのですけど? よくないのですか?」
「いや、シャルを責めてるんじゃなくて……その……」
藪蛇だったようだ。余勢を買って責め立てるシャルと防戦一方のユーヴェを置いて、ミツキが俺に話しかけてきた。
「私、そんなに女王様感があるかしら。何というか……そんなに『偉そう』?」
そのミツキの言葉に、ミツキを見る。いつも通りに綺麗で美しい。優美で高みにいて、それでいて愛嬌も見せてくれる。でも……。何と言おうか迷ってから、音にする。
「確かに偉さというか、深さがあるとは思う。でもそれはミツキの長所で、シャルにはシャルの朗らかさがあるように、ミツキにはミツキの生まれ持った特徴があって……」
「あって……?」
「俺は、それは……」
「それは?」
「素敵だと思う」
俺を見つめるミツキの顔が桜色に染まった。同時に、ミツキは辱めを受けて気分を害したという素振りを見せて音にする。
「嘲弄禁止! 女の子を揶揄って虐めるの、邪悪だわ!」
「なんで褒めたのに怒るの!? いや、決して揶揄ったり虐めたりしてるわけじゃなくて……その……」
こちらも藪蛇だったようだ。
ミツキが畳みかけてくる。
「ハルト! ずるいわ! 卑怯!」
「いや、そういう意図は全然なくて……」
シャルとユーヴェが割って入ってきた。
「ミツキさんとハルトくん、二人で雰囲気つくってますね。まだ食事時間中。夜ではありませんよ」
「ハルトもハルトだが、ミツキさんも容赦がないな」
俺とミツキは同時にバツが悪いという顔をする。
「まあ。ミツキが本気で怒ってるわけじゃないのはわかっていたんだけど」
「まあ。ズルいとか虐めてとかは本気じゃないんだけど……」
しばしの沈黙のあと、四人、顔を合わせて笑い合った。
互いの距離を縮めながら、俺たちの初めての食事会は、にぎやかに進む。
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