第2話 相模国・平塚
夜明け前に目が覚めると、
起き抜けで頭が働かないまま、式をつかみ取ると中を確認した。
「えっ! うっそ!!!」
思わず大声が出て飛び起きると、
「なんだよ、こんな早くに騒々しい……」
「だって……だって!
木ノ内の式を差し出すと、優人は面倒くさそうにそれをみた。
「……ん?
「俺が聞きたいよ! 賢人と一緒にって、なんでだよ!」
「それを俺に言われてもな。賢人も
思わず布団に包まって悶絶した。
無理を押しても本所まで行けばよかったと、今さら思う。
「起きろよ、翔太。もう出ないと
「あー、もうなんか……あーもう! なんだよ賢人~」
「ケンのヤツは
「……秩父?」
秩父と聞くとイラっとする。
基本的に
どこの家に何人の子がいて跡取りは誰か、使う符術はどんなものか、その中でも得意とするのはなにか、など、比較的緩く情報を交換し合ったりしている。
そうやって自分たちの符術を高めている節もある。
符術を使っているはずなのに、どんな術式なのかわからないし、総領以外の情報も皆無に近い。
ただ、少し前にどうやら跡取りの候補が三人いるらしいと聞いた。
三人とも容姿がいいらしいという噂があって、誰もが興味を示しているのが気に食わない。
どんだけ使えるかもわからないし、翔太を含むほかの符術師たちや
そう思っているはずなのに、翔太自身も気になって仕方がない。
「ついでに光葉のようすでもみてきてくれたらいいのに」
「ケンにそれは無理ってものだろう?」
優人が笑う。
急かされて支度を済ませ、主人から弁当を貰うと、見送られながら宿をあとにした。
昨日までは浮かれた気分でいたけれど、今朝は妙に足が重い気がする。
「本当に翔太はわかりやすいヤツだな」
歩みを進めながら優人は苦笑するけれど、翔太はどうにも複雑な思いを拭い去れないでいた。
余計なことばかり考える自分を煩わしいとも。
悶々としながらひたすら歩き、気づいたらいつの間にか
優人に言われて請負所を覗いてみると、このあたりではもう野犬の案件は出ていなく、代わりに狸や狐の退治依頼が少しだけ出ていた。
「小さい案件だけど、翔太、どうする? 請けるか?」
「んん……けどこのあたりで稼いでるヤツらがいたら、なにもないってのは困るんじゃないか?」
「それもそうか」
「
請負所を出て川の土手に腰をおろし、宿で貰った弁当を食べながら地図を眺める。
このまま
川を渡るのに少しばかり手古摺ったものの、おおむね予定通りに平塚までたどり着いた。
「この辺も案件は少ないのかな?」
請負所の扉を開くと、正面の壁には何件もの依頼書が貼りつけてある。
思わず優人と顔を見合わせた。
「戸塚や藤沢じゃあほとんどなかったのに、やけに多いな?」
「依頼がはけていないのも気になるねぇ……どうしたんだろ?」
見れば受付のカウンターに人の姿がない。
普段はどこへ行っても、一人は女性が待機しているのに。
翔太は奥を覗き込むようにしながら「すみませーん!」と声を張り上げた。
返事とともに依頼書らしきビラを胸に抱えた女性が出てきた。
笑顔は他所の請負所と変わらないけれど、若干、困ったような表情だ。
「それってもしかして、今貼ってある依頼書とは別口?」
「……そうなんです。急に増えて……人手もなかなかなくて……」
「一般にも開放している依頼だよね?」
翔太の問いかけにうなずいた女性は、手にした依頼書をカウンターに広げてみせた。
案件はほとんどが狐と狸だ。
畑を荒らしたり、人を驚かせて怪我をさせることはあっても、目くじらを立てほどまでいつもならいかない。
農家のかたたちで処理してしまうことも多くあるというのに、この件数の多さはなんだ?
「とにかく、数が多いんです。それから田畑を荒らすだけじゃあなく、家畜を襲ったり、時には人さえも……」
「えぇ……そんなこと、滅多にないのに珍しいねぇ……」
「難しい案件じゃあないので額も低いですし……」
受付の女性曰く、最近、
「とりあえず、すぐに櫻龍会へ連絡して派遣を呼んで。半分は俺たちが請け負うから」
ザッと依頼書を確認して、同じ地域に出る案件だけを集めると、優人と一緒に請負所を出た。
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