第3話 荏原郡・北品川
夜が明ける前に
空が明るくなっていくと、潮が引いたように野犬たちの気配が薄れていった。
「こんなに気配が消えるものか? ヤツら一体どこへいってるんだろう?」
「さあな。どのみち暗くなれば出てくるんだ。深追いする必要はないだろう?」
きっと眠いんだろう。
かく言う
早々に宿を取り、
夕食までは起こさないでくれるように頼んで、すぐに眠りについた。
目が覚めたときにはもう夕方になっていて、窓の外は茜色に染まっていて奇麗だ。
優人がまだ眠っているようだから起こさないように外へ出る。
宿の仲居さんに声をかけて、最近のこの辺りの治安を聞いてみた。
「危ない
夕飯の準備のために運び込んでいる食器を持ってやり、色々ときいてみた。
どの仲居も、確かに野犬は多いけれど妖獣は見ないし出たのも聞かないという。
「……となると野犬を率いてる妖獣はどこにいるんだ?」
宿を出て街道沿いの店を冷かしながら、翔太は今夜のことを考えていた。
目指す神社はこの街を出たらすぐで、妖獣がいるならすぐそばにいなければおかしい。
「
人型に切った紙に『犬』と書き、街はずれまで来てそれを飛ばした。
続けて数枚を飛ばし、くまなく探るも、今のところは野犬たちの気配がない。
「
式神を解いて、翔太は大きくため息をついた。
探索は苦手じゃないけれど、
「……縁となにが違うってんだよ」
懐から出した人型の紙をみつめて考えるも、違いがよくわからない。
力量が違うからだとは思いたくなかった。
縁は翔太の二歳年上だけれど、櫻龍会に入ったのは同じ時期だから同期といえる。
そんなヤツは他にもたくさんいるけれど、優人と
いつもビクビクして挙動不審で、気の弱さが全身からにじみ出ているけれど、良く見れば整った顔で、ひそかに女子に人気があるのも気に入らない。
だからといって、嫌いかというとそんなことはなく、意外と話しやすいし嫌味なことも意地悪なことも言わないから、言ってみれば好きな部類には入る。
「縁の
さすがに
念のため、
それから日が完全に落ちるまで、街なかの女の子たちに声をかけまくり、この近辺に出る獣や妖獣がいないか、聞いて回った。
もちろん、自己アピールも忘れずに。
出てくる話しは宿の仲居さんと同じで、最近出る野犬のことばかりだった。
「翔太、どこに行ってたんだよ?」
宿に戻ると優人はもう起きていて、部屋の座卓には既に夕飯の準備がされていた。
「ちょっとな。街なかでこの辺りの状況を聞いてきたよ」
「そうか」
「やっぱり野犬が最近多い、ってくらいしか聞けなかった」
本当ならここで優人に妖獣の情報を聞かせたかったのに、式神で探れなかったと話すことができなかった。
カッコつけるワケじゃないけれど、優人には『できない』をなるべく言いたくない。
『できない』を絶対に『できる』に変えてからいいたいと思っている。
「まあ、今夜、
「そりゃあ、そうだろうけどさ」
「そのときは翔太、ソイツに
「もちろん!」
そう答えつつも翔太としてはイマイチ満足できない。
一日でも早くもっとうまく式神を使えるようになりたいのに。
クサる気持ちを持て余しつつも、今できる最大限のことはしなければならない。
腹ごなしをしてから、優人と二人でもう一度地図を眺める。
神社までの道を頭にしっかり叩き込み、支度をして宿をでた。
「先に古龍に挨拶くらいはしておきたいな」
「そうだねぇ……俺も結界を広めにとらなきゃいけないかもしれないから、話しくらいは通しておきたいかな……」
そうは言っても古龍ほどの妖獣が、訪ねていったところで翔太たちを相手にしてくれるだろうか?
翔太は使い魔を持たないけれど、こんなときにはいれば良かったかも、と感じる。
ただ、言い換えればこんなときでなければ、必要としないということだ。
位の高い妖獣と、ほんのわずかな時間、話しをするためだけになら必要とはいえないだろう。
「
「櫻龍会はその辺は抜け目がないからな。もう話しが通っている可能性もある」
「とすると、主の妖獣を待たせるわけにはいかないし、早く行こうか」
街はずれから神社へと、翔太と優人は駆け足で向かった。
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