青の密度

晴れ時々雨

👟

また一人、青い水の中を下降していく。

沈降と言うのかもしれない。見えない海底に向かって誰かが沈んでいく不安感は、心地良さのちょうど限界にある。

その沈む人がリュックをしょっていたので追いかけた。水中の浮力に抗いながら下降する速度は、私の推進力で追いつくのはたやすかった。

その人は男で、リュックは空だった。底に穴があいていた。ふと、カラもアクも、空という漢字を使う、と思った。ヒトははなから水中を考えに入れていない。水なしでは生きられないくせに水に取り囲まれると生きていられない。水は透明に見えてぎゅうぎゅうに詰まっている。思うに、水の透明の密度はヒトが生きるには耐え難く、空気の密度はまだ平気なのだ。けれど、空気の透明の密度に耐えられなくなる日を迎える者がいて、その者は海へやって来て沈潜するのだ。どこが底なのかわからないほど低い海底を目指して。だいたいは途中で気を失う。しかし稀にそうでない者も現れる。私のように。馴染めなさそうなところに馴染んでしまう哀しいもの。消えようと思っても消えられない。もう世界のどこにも、初めてや新しいことなどないのだ。自分の身に起きていることをそう感じられないくらい、私は水に馴染んでいた。新鮮な出来事を発信したくても、空気のないところで為す術を持たない私にはどうしようもない。ただここで少しでも先んじた者として、これから降ってくる物に対してちょっと興味を持ってやる。

リュックの中身は石だったろう。彼はそれ以外靴しか身に着けていなかったから、たぶん水底を歩くつもりだったのだ。こういう人とは話をしてみたかったが残念だ。彼は地上の生物っぽく普通に死んだ。彼から靴をいただく。彼のアイデアを拝借する。まだ先の見えない海底を散歩しようと考えるのは希望なのだろうか。

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青の密度 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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