背唇の女
晴れ時々雨
💋
ドアが閉まるなり服を脱ぎ去り、愛しあって間もない若い恋人たちのようにすぐに抱き合う。「ねぇみて」最近背中が痛むという。背中にできた発疹が熱を持って膿み、ひどく腫れていると。その患部の進度を確かめようとすると僕に逢いたくなるのだそうだ。「どうなってる?」僕は腫瘍の周りの皮膚をそっと撫でながら「確かに成長していると思う」と言った。彼女によれば、それは瘡を装った唇なのだという。この頃は特に痛みが激しく、もしかしたらもう少しで喋りだすかもしれないと慄いている。「ねぇ抱いて強く。厭な考えがよぎるの。最近あなたに逢いたくてたまらない。後ろの口が喋るのはどうでもいいの。でも喋ったら、おなかが空くんじゃないかしら」恐れにわななきながら僕の腕に飛び込む彼女の体をさする。宥めるために恐怖に火をつけて燃やす。津波のように押し寄せる不安を嘆く唇に手で轡をする。大丈夫だよ。しみひとつない背中に口づけをする。
背唇の女 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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