ある日森の中

晴れ時々雨

🚧🔨⚠

山の奥の、薮を分け入ったところに着くと男が一人いた。暗闇の中サングラスに鉢巻姿で、渋い色合いのチェックのネルシャツにハンティングベスト、カーゴパンツの脛にゲートルを巻いた男は地下足袋を履き、何やら棒状の物に寄りかかるようにしていたところを、私を見つけそこから立ち上がった。

「はい来たー。ダメー」

吸っていたタバコを口の端に寄せてそう言い、手にした棒状の物を点滅させて振った。

私は息せき切って担いできた同僚の死体を担ぎ直した。やばい見つかった。なんでこんなとこに人がいるんだよ。私を批難の目で見る男が振っているのは、交通誘導灯だった。

「あんたね、埋めにきたんだろう。でもね、ここはダメだよここは」

男はこの状況を訝しむどころか、埋めるのを禁じてきた。

「いるんだよねー。誰もいないと思って死体を埋めにくるやつがさ。もうちょっと手前に看板でも出したいところだけどいかんせんそんなわけにもいかないでしょ、こればっかは。死体ヲ埋メルベカラズ、なんてな」

私は状況が飲み込めず呆然としていた。男は短くなった吸いさしを指で弾き飛ばし、誘導灯を強く振った。誘導灯はがしゃりと音を立て、先端を伸ばした。

「これかっこいいだろ。誘導灯と警棒を足して二で割った俺サマ仕様の棒なのさ。さ、帰り帰り」

それでも疲労もあって、まだ呆然としている私に、男は畳み掛ける。

「わかる必要もないけどさ、俺はお前さんみたいに人気のないとこに死体を埋めに来るのを辞めさせるオツトメをしてんだよ、わかる?あーわからせようとしちゃったよー、俺って親切」

しかし男の声はでかい。深夜の森林では、よけい人間の声というものは異質に響き、今更ながら誰もいないはずの辺りが気になり始める。

「だーれも居ないってぇ、だーれも!お前さんと俺、だけ」

そう言いながら特殊警棒をガシャンガシャンと伸縮させ、口だけで笑った。

「失せな」

私は死体をいったん下ろしたかったが諦め、もう一度担ぎ直して踵を返した。

とんでもない事態になった、と思ったが、同僚を殺した時点でそれは確定していたし、こうなったら海へ行こうと車のエンジンをかけた。

あの誘導灯機能付き警棒は足して二で割ってないだろ。海へ行ったら大丈夫。そんな念仏を作った。

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ある日森の中 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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