エステティシャン・カリンの異世界転生物語

あんとんぱんこ

第1話

「お疲れ様で~す」

「お疲れ様~。カリン、今日『KISS』のライブだよね?」

「そ~なのぉ~!日々皆さまを癒してきた私の疲れが、今日やっと!浄化されるの~!」

「テンション高いねぇw」

「そりゃ、そーよ!カイトのソロ、イオリとショータのデュオ、ショータとシンスケのデュオ、三曲が今日お披露目なんだも~ん!!マジ神!!」

「最押し、ショータだっけ?青いもんねぇ…今日の服」

「そっ。バッグ・ウチワ・タオル・Tシャツ・ライト、推しカラーのフル装備!待っててね、ショータ!カリンが今会いに行くよ~!」

「お疲れ~。楽しんでおいで~」

「いざ、出陣!じゃね~」


意気揚々と街を歩いて電車に乗り、会場最寄りの駅に降り立つと、人人人…

分かっちゃいたけど、激混みMAX。

辿り着かねば…この戦場を駆け抜けるのだ、カリン!ショータのために!


ププ~     キ~~    ドカ~~~ン


最後に見たのは、『KISS』のラッピングバスのライトでした…



私、死んだわ。確定だわ。だって、周り全部、真っ白だもん。

『KISS』のライブが~!ショータの新曲が~!

なんでっ!なんで死ぬのよ!私~!!!

悔やんでも悔やみきれない…クッソ~!!!!

「えっとぉ、大丈夫です?あまりにも叫んでるから、怖いんですけど…」

「誰?叫んでた?ごめんね。ってか、ここどこ?ライブ会場に帰らせてください!」

「あ、俗に言う女神ですぅ。叫んでましたぁ。転生の門の前ですぅ。そして、無理ですぅ」

「あ、やっぱ死んだんですね。転生するんですね。嫌ですっ!ライブ行きたいです!」

「無理ですよぅ。これからあなたは、新たな人生を歩むんですぅ。あんまり悔いを残さないで下さいぃ。転生先に影響出ちゃいますぅ」

「無理です!後悔しかないっ!悔いを残すなというなら、ライブに行かせて!」

「だから、無理ですってぇ……あ?…あ、でも、ちょびっとだけなら見せていいって。今、上からお達しがあったので、少しだけお見せ出来ますよぉ?そしたら、素直に転生してくださいねぇ?女神とのお約束ですぅ」

「全部じゃないのかよ…でも…でも…わかった!素直に転生する。だから、ショータを、ショータの歌を!」

「わかりましたぁ。どぉぞぉ」



んで、ここはどこよ。今度は、真っ暗よ…ゆるゆる女神め…結局一曲しか聞けなかったじゃないか!別の悔いが残るわっ!全く…

手をにぎにぎしても、首を横に動かしても、動いてるのに何にも見えない。

マジココドコ?お腹空てきたし…眠いし…でも、お腹空いた~!


「あらあら、カリンちゃん。お腹空いたのかな?よしよし、泣かないで。すぐにあげるよ~」

良い匂い…甘くて。あぁ、自然とお口開いちゃう。

なんだか安心感…お母さんに抱っこされてるみたい…

ぱくっとしてゴクゴク…あれ?これ、ミルクじゃね?

私…転生…したんだった…ってことは、今の声は母親で、今飲んでるのは…お乳か。

は~い。カリンちゃん、頑張って大きくなりまぁす。


「おかぁしゃん、おかたトントンしましょ~。おくびもナデナデしてあげまーしゅ」

「カリンちゃん…ありがとう。お母さん、凄くうれしいわ」

トントン…トントン…ナデナデ…ナデナデ…

「エリンさん、カリンちゃんは優しい子ねぇ。いい子だわ」

「そうでしょう?お義母様。可愛くって優しっくて賢くって、そして、可愛くって…まるで女神様の生まれ変わりの様な子なんです」

お母さん、ほめ過ぎです。でも、喜んでもらえてるなら嬉しい。

少しでも、2年半育ててもらった恩返しになってたらいいな。

そう言えば、前世の私もお婆ちゃんの喜ぶ顔でマッサージ師になることを決めたんだっけ…後でこっちのお婆ちゃんにもトントンしてあげよっと。

「カリンちゃん、お婆ちゃんにもしてくれる?」

「いいよ~。おばあしゃんは、モミモミ?トントン?いたいいたいない?」

お子様用語でなるべく可愛らしく、元がアラサーのヲタクだとバレない様に…

「モミモミもできるの?カリンちゃんは凄いわねぇ」

ニコニコと女三人笑いながらの親バカ&婆バカ&素でおバカさんそうな感じのお茶会も、私の成長と共に会話に入れるようになって楽しくなってきた。


思えばこの世界に生まれてから2年半、いろんなことが分かってきた。

お母さんはエリン24歳、元中級冒険者で魔法使い。子持ちに見えない中々の細身美魔女。

お父さんはショーエン26歳、元最上級冒険者で剣士。少し前の大規模魔物討伐の功績を認められて、冒険者組合の長に抜擢されて引継ぎのためにテンヤワンヤの大忙し中。そう言えば、最近顔を見てない…私の中のイケメン栄養素が尽きそう…

お父さんのお母さんであるハイリお婆ちゃんは50歳、元貴族でお爺ちゃんと駆け落ち婚の猛者。

因みに、お母さんの両親とお父さんのお父さんは既に他界していた。

お母さんにはお姉ちゃんがいるらしいけど、会ったことは無い。

そして、私はカリンちゃん2歳、やっと少し滑らかに口が動くようになった元アラサー女児。

この世界は、剣と魔法の何ともファンタジーな世界。でも、地球によく似た感じに成り立っていたりする。食べ物、乗り物、物の名前や発音や使い方が似てるものが多い。

リンゴはリンガだし、オレンジはバレンジだし、自転車あるし、動力が化学的な感じじゃなくて魔力ってだけで自動車みたいな魔動車あるし、冷蔵庫に洗濯機にシャワーにドライヤーにコンロに上下水道、テレビは無いけど古いレコード的な蓄音魔道具あるし、携帯電話みたいな通信魔道具もある。

お陰様で、馴染みやすいっちゃ馴染みやすい。

因みに文字は、見たことも無い摩訶不思議文字。これから勉強することになるんだろうなぁと、思っている。

更に因みに、この世界、アイドル的な存在は大体冒険者だったりするらしい…

歌って?踊って?私に推し活させて~!と、ちょびっと?思っている次第。

とりあえず、この世界で私がやることは健やかに生きる事!しか、今のところ無いんだよねぇ。

ゆるゆる女神さまも、なぁんにも言ってこないし、説明的なことも無かったし。

よくある異世界転生テンプレ的なことも、なぁんにも無かったし。

どうなることやら…まぁ、しばらくはのんびり子供らしく、幸せを目一杯掴んでいこうかな。うん、そうしよう。


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