庶民K

夏生 夕

旅はペンより易し

最近、

小説を書いている。


このサイト投稿の一番はじめで触れるような話題な気がするが、そうならなかったのは、ひとえにわたしの筆不精のせいだ。「最近」と言えるほど書き進められていない。

現に、今書いているこのページだって当初の目標からずいぶん遅れて書きだした。

この遅々とした進行がわたしのものぐささを語っている。



ところでわたしの創作活動は、基本スマホに支えられている。

文明の利器、スマートフォン。どこでも手軽に書けて、消せて。

もちろん今のわたしのように新幹線の中でだって。


数日前に会社から突然「休め」を言い渡され、その日のうちにチケットを取った。こんな風に思いつきのように計画したのは初めてじゃない。なんならそういった体験を物語として書き起こしたこともあるくらいだ。

突如として未開の地へ、たった一人で足を踏み入れるという高揚感が好きだ。おかげで筆もノるというものだ。

嘘です、そんなこたなかった。


列の後の方から聞こえるビール缶を開ける音、ここら一帯の座席に充満する弁当の匂い、前方から迫り来る車内販売。気が散る。

でも羨ましくなんてない。

もちろんわたしの手元でも綺麗に泡が昇る琥珀が揺れているからだ。ほら捗ってない。



少し前に、とある作家の方の講演を拝聴した。

返ってくる答えは分かっていたようなものだが、せっかく匿名だったので聞いてみた。

「『よし、これで良い』と文章を仕上げられる判断基準とは」。

先生は至極当たり前のような顔で天を仰いだ。


「締切があるから切り上げられるだけで、そうで無ければどこまでもいつまでも書き直すだろう。」


やや自嘲気味な微笑みに滲み出る複雑な感情が見え、いっそうこの先生が近く遠く感じた。

その点、他者に決められた期日の無いわたしはどこまでもいつまでも直せてしまう。どうせそうなるなら、酒でも飲んでちょっとばかし、ええいままよと勢いを付けることも必要に思える。さもなくば今取りかかっている物語なぞ永遠に終わらない。

少なくとも今の微酔いで、このページを終わらせる目安は守れそうだ。



見知らぬ土地が近付いてきた。

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