希望の光と学園生活 〜幼馴染と過ごす魔術学校の3年間〜
とみね
序章 村での記憶
目が覚めるとまだ外は暗かった。大体4時ごろって感じか?おかしい。自分で言うのもなんだか俺は寝坊しかしない。そんな俺がこんな早くに起きるわけがない。
「まぁとりあえずこんな早起きすることなんて今日で最後だろうから朝の村でも散歩しようかな」
俺の住むこの村は人口百人にも満たない王都の郊外にある小さな森の村だ。だけど俺はこの村での暮らしに満足している。米は美味いし野菜も美味い。月に二度ある肉の配給だってある。自然と触れ合えるのも特色だろう。
俺は自分の部屋のクローゼットから服を取り出し黙々と着替え始めた。
「よし!今日も一日頑張るぞ!」
とりあえず親友のソラの家に向かうことにした。しっかり者あいつのことだ、朝早くから起きて朝食の準備でもしてるだろう。ソラと俺は赤ん坊の頃から遊んでいる。いわば親友というやつなのだろう。常にあいつの隣には俺が居るし、俺の隣にはあいつがいる。そんな関係だ。だから俺とソラは喧嘩を一度もしたことがない......ないよな?俺は記憶力がいい方じゃないからわからないな。今度ソラに聞いてみようと思う。
「おーい!ソラ!遊びに来たぞォォ!」
すると家の中からドタバタ聞こえてくる。その数秒後にドアが開いてソラが出て来た。
「お、おはようレン。その....どうしたのこんな朝早くに?レンってこんな早起きだったっけ?」
どうも困惑した様子でこちらを見てくるソラ。それもそうだろう。いつも朝の作物採取に遅刻してくる奴がこんな朝早くに自分の家を訪ねて来たんだ。驚かない方がおかしい。
「よっ、おはようソラ。俺もビックリだよ、こんな時間起きるなんて。だからこれを機に朝の村を散歩しようと思って。案外悪くないかもな、まだ目が覚めていない村の風景も」
「そうでしょ?それでなんか僕に用?何か用事があって僕を訪ねて来たんでしょ?」
「いや、特にはないけど?」
「え?」
「え?」
「じゃあなんで僕の家に来たのさ!」
「お前なら確実に起きてると思って。迷惑だったか?」
「まぁ別に迷惑じゃないけど、とりあえず上がってって。お茶でも出すよ」
俺はソラのお言葉に甘えて家に上がることにした。ソラの家は比較的大きく、村でも一位か二位を争うお金持ちだ。
「あらぁ〜レンちゃんじゃないの〜。こんな朝早くに珍しいわね〜。くつろいでいってねぇ」
この人はソラの母で俺の初恋の人だ。
「おはようございますメイさん。いつも裏庭を貸していただきありがとうございました」
「いえいえ、子供の成長を応援するのが良き大人というものです。あの時はビックリしましたけど意思は固いようだから、私レンちゃんとソラのこと応援するわね」
俺たちはメイさんに無理言って裏庭で剣術の修行をさせてもらっている。なぜそんなことをするかというと、かの有名なモルデント魔術兼武術学園に入学するためである。入学に必要な条件は試験でゴブリンを討伐することで、そのためにも今のうちに剣の修行をしている訳だ。
「そんなことより母さんハルヒは?まだ寝てるの?」
ハルヒ。ソラの妹さんだ。昔っからやけに俺にちょっかいをかけてくるやつだ。正直好きじゃない。
「そうねぇ、まだ寝てると思うわ。残念だわぁ〜。ハルヒ、ここ最近レンに会えてないって騒いでたのに....」
あのハルヒがか?毎回会うたびに暴言を吐かれ蹴ってくるあのハルヒが?
「——母さん、それ言って良かったの?」
「あ.....」
長い間沈黙が生まれた。
「レンちゃん!今のは聞かなかったことにできる!?できるわよね!?だってレンちゃんはいい子だものねぇ!?」
「そ、そうだよレン!レンがまずこんな朝早くに目覚める訳がない!これはきっと夢だよ!だから忘れてね?」
「無理」
そう、無理なのである。何せインパクトが強すぎるから。そうかぁー、あいつ俺のことが好きであんなことしてたのかぁー。そう考えると少し可愛いかもしれない。元々メイさんだって村一番の別嬪さんだったって親父から聞いたことあるし、ソラだって俺からみてもかなりの美形だ。そんなやつの妹だ。ハルヒだって美人だ。いや、今の年齢だと愛らしいって言うのが正解なのか?とりあえず俺はハルヒのことを意識し始めてしまったのだ。
「なぁソラ。あいつに今日2人っきりで王都にデートでも行かないかってレンが言ってたって言っといてくれ」
「え!?レンもハルヒのことが好きなの!?」
「あらぁ〜。若いっていいわねぇ〜」
「もう入学試験は明日だろ?入学すれば寮生活が始まって家に帰ることが出来なくなる。ならせめて最後ぐらいはちゃんとした思い出を作ろうと思って」
そう、モルデント学園は寮制度で入学すると卒業するまで学園の外に出れなくなり、手紙でしか連絡が取れなくなってしまう。あいつのことだ散々俺にいじわるをして来たのに今更遊びに誘う勇気なんてないだろう。
「分かったよレン。レンが本気なら僕は止めないよ。どうかハルヒをよろしく」
「私からもお願いね。レンちゃん」
何を勘違いしてるのやら。まだ俺がハルヒに婚姻を申し込むなんて一言も言ってないのに。
「わかりましたメイさん。ハルヒのことは僕に任せてください。」
「あ、そうだ。明日試験なんでしょぉ?じゃあ今から最後の剣のお稽古したらどうぉ?」
「それもそうだね母さん。レン今から一戦どうかな?」
「お、いいぜソラ。今日こそ勝ち越してやる!」
俺とソラの戦績はお互いに50勝だ。今日勝ったやつが勝ち越せるって訳だ。俺とソラは裏庭に移動し互いに使い古された木剣を握った。
「この剣を握るのもこれが最後なのか。そう考えると剣の練習を始めて3年間の集大成がこの一戦ってわけか」
「そうゆうことになるね。だから今日僕は本気で行くよ!」
「いつも本気だろ!」
俺たちの戦いの火蓋が開いた時ソラの後ろの木々から太陽が顔を出す。綺麗だなぁ。そう見惚れていると。ソラの速く正確な一撃が顔に迫る。
「——フッ!」
それを俺はなんとかギリギリで弾く。単純な力勝負でなら俺の方が上だ。俺はすかさず追撃をかける。木剣を弾いたおかげであいつの腹は今がら空きだ。
「——そこだッ!」
「掛かったねレン」
「何!?」
がら空きだと思ったソラの腹は俺を誘い出すための罠だったのか。上で待機していた木剣を振り下ろす。だけどこんなことでやられる俺じゃない。振り下ろされる剣に対して剣で防御できないとみて剣を離し振り下ろされる手を掴み抑えることに成功した。
「へぇ。レンの割には凄い対応力だね」
「お前だってこんな隠し技持ってるなんてな。少し前の俺なら引っかかってたんじゃないか?」
「言ったじゃないかレン。今日は本気で行くって!」
俺たちは無呼吸で連撃を繰り出す。一瞬の隙も許されない。レンは弾き、ソラは受け流す。お互いのやり方で相手の剣を凌ぐ。掠りでもしたら勝負が決まる。
(やばいな息がもたなくなって来た。だけどソラだって同じはずだ。あいつが出ないならこっちが動く!)
俺は一瞬の隙を見逃さず鋭い一撃をソラに浴びせようとしたその時ソラは剣を離しさっき俺がやった技を真似やがった。
「おいおい。真似するなって」
「確かにここまでは真似だね。だけどこれはどうかな!」
するとソラは俺の手首を掴み、手が緩んだところで俺の木剣を奪いやがった。
「それは反則じゃないのか?」
「ルールなんて相手に剣を当てたやつが勝ち以外になんかあったっけ?」
「ねーよッ!」
俺は思いっきりソラのお腹に蹴りを入れた。俺はすかさずソラが離した剣を入手し、怯んでいるソラに斬りかかった。すると
「レ、レン!?」
そこにはおそらく起きたばっかりであろうハルヒの姿があった。
「ハ、ハルヒ?」
「お、ようやく起きたのかよハルヒ。お前はソラと違って寝坊助なんだな」
ハルヒは複雑な心境な顔で俺を見てきた。まぁ大体察しはつく。ここは一つ。
「なぁハルヒ。今日俺と一緒に王都に」
「まだ試合中だよレン」
「なッ...!」
ソラが振り下ろした剣は俺の頭に見事に命中し、ソラの勝ちで試合終了となった。
「痛ぇぇ!ずるいぞソラ!」
「ルールなんてないんでしょ?」
俺は反論する気がなかった。出来なかった。悔しい。だがこれも現実。
「ちょ、大丈夫レン?思いっきり叩かれたみたいだけど....」
「え?心配してくれるの?ハルヒ」
「は、ハァー!?そんなわけないでしょ。自惚れるのもいい加減にしなさい!」
こいつときたら明日俺はここを離れるっていうのにまだ正直になれてないのか。しょうがない。
「なぁハルヒ。」
「な、なによ。そんな改まった顔して....」
「今日俺と王都に二人で出かけないか?」
「は、ハァ!?あんたと二人きりで王都に出かけるって....それって....それって!」
「あぁ、デートだな」
その瞬間ハルヒの顔には思わず笑顔で溢れていた。ハルヒのこんな顔見てしまったら俺も笑わずにいられない。
「しょうがないわねぇ!行ってあげるわよ。光栄に思いなさいレン。」
「なんかその態度ムカつくからやっぱりいいや」
「嘘、嘘よ!行きます!いや、行かせてください!」
そう言いながら俺の胸に泣きついて来た。
「あのぉ〜、兄がいるこの場で妹とイチャイチャしないでもらえませんかねぇレンさん」
「勝者は黙ってろ」
「そうよ。ソラ兄さんは黙ってて」
「はい....」
こうしてハルヒと午後に噴水広場で待ち合わせ、王都に向かって歩き始めた。村から王都までは徒歩30分。馬車で行けば15分と言ったところだ。決して遠くはない距離だ。
「結構歩いてるけど大丈夫か?」
「あんまり甘く見ないことね。これくらいへっちゃらなんだから」
「無理だったらいつでも言えよ。おんぶってやるから」
「........れた」
「ん?なんか言ったか?」
「疲れたの!今すぐ私をおんぶって!」
何かの告白かよ。
「しょうがないなぁ。ほら、乗れ」
ハルヒはゆっくり俺の背中に乗った。あれ?ハルヒってこんなに重かったっけ?なにやら背中に柔らかいものが当たっている。やばい。これはやばい。
「お前、大きくなったな」
「どうしたの急に?そりゃあ年月が経てば背なんて伸びるでしょ?」
「そうだよな年月が経てば大きくなるよな。ハハ...なに聞いてんだ俺」
「変なの。けど」
するとハルヒはギュッと俺に密着して来た。
「そう、年月が経てば大きくなる。昔はこんなに背中大きくなかったのに....」
俺は背中の柔らかいものに意識を集中しながら俺はなんとか王都に辿り着いた。王都に来るのは何年振りだろうな。三年振りか?いや、深く考えない方がいい。今はこいつとたくさんの思い出を作ることを考えよう。
「じゃあ行くか」
「うん!私をしっかりエスコートしなさいレン!」
「はいはい、わかりましたよハルヒお嬢様」
こうして王都でたくさんのハルヒとの思い出を作りまた一日が終わろうとしている。明日はついにモルデント学園に向けてこの村を出る。明日を境に生まれ育ったこの村には当分帰ってはこれないだろう。そう思うと悲しくもあり、少しワクワクもしている。ずっと王都とこの村しか見たことがないから、他の場所はどうなっているかとても気になっている自分がいる。ソラも同じ気持ちだろうか。その夜、俺はなかなか寝付けなかった。
翌朝。目が覚める。いつもの朝....じゃない!
「今日は出発日だ!」
俺は急いでカーテンを開ける。すると....まだ暗かった。俺はほっとして出発の準備をした。愛用のバッグに必要なものを詰め込み玄関に向かった。
「この家ともお別れかぁ」
住み慣れた家。生まれ育った家。親が出稼ぎで居ないのが当たり前の家。色々な思い出が鮮明に蘇ってくる。
「——行って来ます」
俺は我が家を後にし待ち合わせ場所の噴水広場に向かった。そこにはソラがいた。
「ついに今日だね、レン」
「あぁ、じゃあ行くか」
俺たちは村の門をそろってくぐる。すると後ろからハルヒが走ってくるのが見えた。別れを言いにきたのか。
「ハルヒ。どうしたのレンにお別れ言いに来たの?」
「いや、そうじゃなくて....」
「じゃあどうしたの?」
「ねぇレン....」
「ん?」
「学園に行くのやめて....私と暮らさない!」
「え?」
「私、レンが居ないのなんて嫌だ!だから私とこの村で暮らそうよ!」
「ハルヒ、それは」
「ソラ兄さんは黙ってて」
「はい....」
「ねぇどうなの?レン。悪くない提案だと思うんだけど?」
ハルヒは今にも泣きそうな顔で俺に聞いてくる。だけど俺は決めている。母さんから聞いた一人の英雄の話を聞いたあの日から俺は決めている。たとえそれが作り話でも関係ない。
——俺は、皆を照らす希望になりたい。
「ごめんな、ハルヒ。俺はもう行くって決めてるんだ。寂しい気持ちにしてしまったのならごめんな?」
「バカ....」
「レンのバカ!こんなことになるなら...もっと....レンと向き合えばよかった....」
「今からだって遅くないよ。毎月ハルヒに手紙を送るよ」
「毎週送って....」
「じゃあ毎週送る。だから待っていてくれないか?」
「え?」
「学園を卒業したら君を迎えに行く」
「それって....」
「あぁ。その時は今度こそ二人で暮らそう」
その時ハルヒは嬉しかったのかこれでもかって程に泣き始めてしまった。
「うん!わかった。だから学園で浮気したら許さないんだから!ソラ兄さんどうかレンをよろしくね」
「う、うん!任せてよ。レンが浮気してたら僕がハルヒの分も説教するから!」
「俺はハルヒ一筋だから安心しろ」
「なら証明して」
「何をすればいいんだ?」
「口ずけ。ほら早く」
俺は人生で口づけなんてしたことがない。だからあんまり自信がないけど。
「あぁ。目瞑れ」
俺の唇にハルヒの柔らかい唇がくっつく。幸せだ。俺は今この村で一番幸せかもしれない。顔を離すと顔を真っ赤っかにしたハルヒの顔と奥で赤面しているソラがいた。なんでお前まで赤くなってんだよ。
「行ってらっしゃい。レン、ソラ兄さん。私、待ってるから」
「あぁ。それじゃあ行くかソラ、いや....相棒!」
「うん!」
こうして俺とソラは生まれ育った村を離れた。モルデント魔術兼武術学園に入学するために。
——皆を照らす希望になるために。
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