プロローグ〜慶士サイド〜
ぼくはキミがいればあとは何もいらないんだ。キミのいる世界に生まれ変わったとわかった時。
ぼくはキミを捜した。
約束したから。
あの日。
あの場所で。
キミと同じ世界に生まれ変わったら。
また会おうと。
ぼくはネタのように転勤の先々で『武蔵坊弁慶の生まれ変わり』だと言った。
そして。
キミを見つけた。
『水城明里』。
それがキミの名前。
ぼくの受け持つクラスに名前があった。
でも。
キミはまだ、あちらの世界に行ってなかった。
それから。
しばらくして。
おばあさんからしばらく休むという連絡が。
キミがあちらに行ったのはわかりました。
キミがあれを経験するのかと思えば心が痛みますが。
ぼくには何もできないから。
そして。
夏休み前。
キミは戻ってきました。
最初は霊力が定まっていないようで体調悪そうでしたが。
しばらくは休みがちでした。
ぼくはそんなキミに我慢ができなくなり。
『やっと見つけた』
そう呟いた。
キミは驚いていた。
「弁慶?」
あの頃のようにキミは呼んでくれた。
ぼくは囁くように言った。
「はい。キミの弁慶ですよ」
教師と生徒。
しかも受け持ちのクラスの。
学校にバレたらぼくは教師はできないでしょう。
それでも、キミのそばにいたいんです。
そう思って付き合って欲しいと言いました。
「そんなの今さら聞かなくても私は弁慶、あなたのモノ」と言ってくれた。
これが彼女を苦しめることになるとは思わなかった。
ぼくは女生徒と2人きりにはならなかった。
変な噂や勘違いされたら困るから。
ぼくがその場面に遭遇したのは偶然。
「アンタさ、一年のくせに生意気」
「そうそう。武蔵先生の迷惑も考えなさいよ!あんたなんかと釣り合うわけないでしょうが!」
「黙ってないでなんとか言いなさいよ!」
それから。
明里さんは生徒たちの気がすむまで何も言わずに耐えた。
それを見て明里さんを守る方法はこれしかない。
だから。
あの場所で記憶を塗り替えたいんです。
そして。
約束の日。
「慶士!」
「明里。待ちました?」
「全然!」
「じゃあ行きましょうか?」
「うん!」
明里の手を繋ぐとかなり冷えていた。
「全く。こんなに冷たいのに」
「私が楽しみで早く来ちゃっただけなの!」
明里。
キミはっ。
「ちょっ!?慶士!」
「誰も見てないですから」
「で、でもっ」
「じゃあ行きましょうか?」
明里の手を握り、平泉へ。
車で東北街道を経由して向かう。
「うわぁ、綺麗」
「喜んでもらえて嬉しいですよ」
「先に旅館に行きましょうか?」
旅館に荷物を置き、平泉の町を歩いてまわることに。
「明里。寒いですから、きちんと着込まないと」
「大丈夫だよ。それに寒かったら……慶士がぎゅってしてくれるでしょ?」
その。
上目遣い誰から教わったの?
「明里……」
全く。
無意識に煽って。
明里は頷いてくれるだろうか?
明里のために買った指輪。
サイズは大丈夫なはず!
キミのこれからを俺にくれると嬉しいな。
あの時果たせなかった約束を。
言えなかったセリフを。
ぼくのお嫁さんになってほしいと。
「楽しかった」
あのあと。
明里と平泉の町を散策してまわった。
あの頃のあの時の話をせずに。
楽しかったとはしゃぐ明里は年相応だと思う。
いや。
年相応より
少し?
いや、かなり幼く見える。
その姿がとても愛しくて仕方ない。
「明里。お風呂入る前に夜景見に行きませんか?」
「夜景?うん!行く」
しばらくして。
夕飯の時間らしく部屋に運ばれてきた。
「魚、すっごく美味しそう」
「明里に喜んでもらえて嬉しいです」
明里は食べる時は美味しそうに食べる。
見てるこっちが嬉しくなるように。
************
「明里、そろそろ行きましょうか?」
「うん!」
「……またそんな薄着で」
「えー寒くないよ!」
明里は寒いのに何故か着込むというのをしない。
「せめて、これ着て」
せめて。
セーターぐらいは着て。
明里が風邪引いちゃうから。
旅館から歩いて15分。
目的地に着いた。
「うわぁ!慶士、きれい」
そこは街を見渡せるぐらいにきれいだった。
「喜んでもらえて何よりです」
「明里。大切な話があります」
「何?」
「これを」
俺はジュエリーケースに入った婚約指輪を渡す。
「これって」
「そうです。明里、あの時はできなかったけど……」
「ぼくと結婚してほしい」
「……いいの?私、慶士のお嫁さんになって」
「あの時は頼朝殿がいたから言えませんでした。あの時も本当はキミを俺のお嫁さんにしたかったんです。明里、ぼくの家族になってくれませんか?」
明里は俺に抱きついて。
「返事は決まってるよ!私、慶士の家族になる!」
元気いっぱいに返事してくれた。
キミはこれからもぼくが守りますから。
そして。
明里の額に軽くキスした。
「額にだけ?」
「唇が良かった?」
ぼくがそういうと明里は恥ずかしいからか、ぼくの胸元に顔を埋めてきた。
「慶士の意地悪」
「明里」
明里の唇に軽くキスをした。
「明里。これ以上はお預け」
「え?」
「これ以上は明里のご両親に挨拶して、許可もらってから」
明里のご両親への挨拶が最大の難問なんですが。
「あんな人たちに挨拶なんかいいっ」
ほら。
明里はご両親が嫌いだから。
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