プラチナム本拠地にて

 神楽さんとの面談を終え、僕は神楽さんにプラチナムの本拠地について案内を受けていた。


 プラチナム。それはシロガネの秩序を維持するための組織だ。僕のように先生に任命された大人や、その先生を補助する生徒など様々な人間で構成されている。


「先生には一人補佐の生徒がつくことになっていましてね。もちろん福本さんにもつきますよ」

「そうなんですね。どんな子なんでしょう」

「この辺りで待っているようお願いしたんですが……」


 二人揃ってプラチナム本拠地の前できょろきょろと辺りを見回す。

 すると。


「こ、ここです!神楽理事長!先生!」


 少年にしては高めの声が聞こえてきた。声が聞こえた方に目をやると、ピンク混じりの茶髪に犬耳のようなはねっ毛が特徴的な可愛らしい雰囲気の少年が手を振りながらこっちに駆け寄ってきた。神楽坂高校の制服を警官風にアレンジした少年は、息を整えた後で軍人のような敬礼をした。


「はじめまして、先生!小生は月枝瑚白つきえだこはくと申しますであります!福本先生の補佐に任命された、神楽坂高校一年の生徒であります!よろしくお願いしますであります!」

「う、うん。よろしくね、瑚白」


 ずいぶんやる気に満ち溢れた子が来たものだ。僕は瑚白に手を差し出すと、瑚白は一瞬首を傾げ、はっ!という効果音が出てきそうなほど目を見開き、瑚白もまた手を差し出した。


「よろしくお願いしますであります!!」


 僕の手を握り、ブンブン振る瑚白。……心なしか瑚白の後ろに小型犬の尻尾が見えた気がした。


「それでは、後の案内は月枝くんに任せても良いでしょうか?親睦を深める意味でも、お二人で行動してもらいたいのですが」

「お任せくださいであります!」

「神楽さん、ここまでありがとうございました」


 瑚白と二人で去っていく神楽さんを見送る。神楽さんの姿が見えなくなった後で、瑚白に改めて向き直った。


「じゃ、改めて案内してもらえる?」

「はい!では小生についてきてほしいであります!」


 浮足立った様子で歩を進める瑚白の後を追う。


「瑚白はここに慣れてるの?」

「そうであります!福本先生の補佐に選ばれる前から、プラチナムのお手伝いはしていたであります」

「お手伝いは自主的にしていたの?頼まれてとかじゃなく?」

「そうでありますが……」


 瑚白は僕の意図が読めない、と言わんばかりに首をかしげてこっちを見ている。悪い意味で聞いたんじゃないんだよ、と前置きした上で僕は言葉を続けた。


「瑚白は偉いなって思ったんだよ。学業だけでも大変だろうに、自主的にプラチナムの手伝いをしてたなんて」

「そ、そんなことはないでありますよ!小生なんてまだまだ未熟な身で……」

「そんな謙遜しなくて良いよ。僕もシロガネにいた時期があるからわかるけど、先生の補佐って相当に優秀な生徒じゃないと選ばれないだろう?だから、瑚白のすごさはよくわかるんだ。素直に尊敬するよ」

「……」


 瑚白は呆気にとられたように僕を見ている。僕は何かまずいことでも言っただろうか、と謝ろうとしたけど、瑚白が先に口を開いた。


「福本先生は、不思議な人でありますね」

「え、そう?そんなにおかしなこと言ってた?」

「……大人が、年下の子どもに尊敬するなんて言ってるところは初めて見たであります」

「うーん、たしかにあまり言う人はいないかもね。でも僕は、大人だからこそ年下の子から学ぶべきだと思うよ。だって、現に瑚白みたいな尊敬できる子が目の前にいるんだからさ」

「……福本先生は」

「うん?」

「福本先生は……素晴らしい教育者であります!!」


 瑚白は一度顔を伏せたかと思うと、勢い良く顔を上げた。僕を一心に見つめるその瞳はキラキラと輝きに溢れ、尊敬してます!!という気持ちが顔にありありと書いてある。……なんというか、考えてることがわかりやすい子なんだな瑚白って。て、そうじゃない。


「いや、僕先生ではあるけど……教育者ではないでしょ?そういうのは教師として派遣されてる人たちの仕事って聞いてるし」

「それでも、小生たち生徒を見守り導く先生には変わりないであります!なんという幸運……!小生の担当する先生がこんなにも素晴らしいお方とは!これなら福本先生以外の先生がいない今のプラチナムも安泰でありますね!」

「ん?僕以外の先生がいないって……どういうこと?」


 そんな話神楽さんから聞いていただろうか、と記憶を探るけどやっぱり覚えがない。でも言われてみれば、不審に思う点ならあった。たとえば、今いるプラチナムの本拠地に大人を一人も見かけないとか。さっきから瑚白に案内してもらって本拠地の中を歩いて回ってるけど、そもそも人が少ない気がする。出入りしている生徒の数も少ない。


「福本先生はまだ存じ上げなかったでありますか?」

「うん、聞いてなかったな」

「そうでありますねぇ……。早いとこ耳に入れてほしい情報ではありますが、お疲れでしょうから明日改めてお伝えするであります」

「気遣いありがとう、瑚白」


 瑚白の案内を受けた後、本拠地近くの先生が寝泊まりする寮に連れて行ってもらい、そこで僕は瑚白と別れた。明日から、本格的に先生の仕事が始まる。それに備え、今日は早めに休むことにした。

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