第277話 白い流星

「あそこ、敵居るっぽい?」


終盤差し掛かりの手前くらい。

1人敵影のようなものを発見した。


『ん?ああ敵だね。ただちょっと遠いかも』


「まあ遠いよな。」


倒しに行くにはリスク満点。

流石に攻めようとは思わない。


「ただ結構動きに隙があるんだよな。どうにか出来ないかな」


うーんと頭を捻らせたが何も思いつかない。

さっさと諦めて別を探すべきかなと思ったが、


『1キルくらいだったら行けるんじゃないか?』


とlucusが言った。


「というと?」


『blancとendmのどちらかが敵を倒して、どちらかが確殺を入れれば1キルくらいなら持って行けそうだがどうだろう。流石に無理難題か?』


なるほど、そう来るとは思わなかった。

2人で1人を倒す。

しかも距離が遠いので多少攻撃を仕掛けてもあまり支障がない。


『行けます、私が頭を抜くので確殺は任せました。』


自ら難しい方を選ぶendm。

ちょっとだけ不安だったが、それも杞憂に終わる。


『よし!頼みました!』


まさかの一発で頭抜き。

俺は驚きつつもちゃんと確殺まで入れた。


この1キルも貴重なので大事にしたい。


『やばいね~どんどんこの2人がおかしくなってく』


『元からおかしいんだから今更言ったところでの話なんだがな』


「おい!」


『あはははは』


もはや雰囲気はランクマと同じ。

そう錯覚させてしまうくらいには緊張も無かった。


『あ、あそこに敵居るね。こっち来そうだけどどうする?』


『ん~そうだな。行くか』


lucusは行けると判断した。

なら俺らは攻めるだけの話だ。


「あ、待って奥の敵俺らに気が付いてるわ」


スナイパーライフルを構えている敵と目が合った。

その瞬間、俺が用意する間に敵は俺にスナイパー弾を放った。

間一髪で避けたが、若干油断していて危なかった。


『え、あ、ほんとですね。これむやみに攻めなくても良さそう』


後ろから撃たれる心配のないところに俺らは潜んでいる。

だから目の前の敵を考えるだけでいいのが楽だ。


「これあれだな。世界2位の奴らだな」


lucusが気が付く前に俺が気が付いてしまった。

現状世界2位が誰か。


まああまり意識もせず見ていたから今ふと思い出しただけ。




ヨーロッパ最強チーム。

リーダーがAQUAという世界最強の1角だ。

4人となったこのチームは、今や世界大会1位の候補チーム。

始まる前では一番最有力とも言われているくらいだった。


『うわ、スキンがぽい~!』


wartもちょっとだけ共感していた。

endmは、そうなのかな?くらいに踏みとどまっていた。


『うわまじか。これ下がった方が良くないか?』


一方lucusは冷静だった。

そりゃそうだろう、ここで負けたら確実に2位転落のようなもの。

ならこの勝負は避けるべき。


それに現状13キル、別にキル数もよほど少ないというわけではない。

まだまだ生きているプレイヤーが多く、もう少し生存したいところ。


ならこの勝負は避けるべきとなるはずだ。


「そうだな……どうする?」


一瞬俺らは身を引いた。

ここは冷静にならないとまずい。


『うーん、流石に厳しいのかなぁ』


wartまでもちょっと引き気味。


だが一人だけ意見は違う。


『いや、倒しますよ。なんでここで身を引くんですか?』


「そう言うと思ったよ」


俺は彼女がそう言うと信じていた。

正直俺の心の底もこのバトルを楽しみにしていた。

なのにここで引く?あり得ない。


世界2位を倒して世界1位にならないと価値も廃れるもんだ。


「行くか、いいな?」


『ああ、お前らが言うなら行くしかねえな』


『全力でぶつかるだけだよ!行こう!』


俺らは動き始めた、最強になるために。




『そこ敵!2人がこっち!』


wartの素早い索敵が入る。

隠れていたはずの敵が露わになるのは大きい。


『分かりました!こっちのこの敵は私が!』


endmはそう言って右側に付く。


『ああ、了解だ。wart、こっち行くぞ!』


『うん!』


3人がそれぞれ敵と対峙した。

そして俺が相手するのが…


「こいつはたぶんAQUAか…」


ヨーロッパ最強の女性プロゲーマーAQUA。

相手チームのエースだ。

使っているスキンが固定なため、界隈でもすぐ浸透されている。


俺は周りを見渡す。

特に誰も苦戦していない。

それどころか善戦で、割と早くに決着が付きそうだ。


「気合い入れるか…」


周りの事は置いとく。

今は目の前の事だけを考えた。


武器はサブマシンガンとスナイパーライフル。

一方相手はおそらく、スナイパーライフルとショットガン。


2人とも近距離武器なので、詰めて戦うことが理想とされている。


スナイパーライフルを使う………というのが残念ながら彼女には効きにくい。

予測不可能な動き、不規則の微動。

ただ1vs1でも弾を当てるのがかなり困難な敵だった。


長年の経験にだが、俺は彼女に絶対的に勝てる自信はない。

負けてもおかしくない、それくらいの考えすらある。


「ただ、ここは決めようか」


じゃあ言い訳していいという理由にはならない。

決め切るべき場所でしっかり決めて、優勝にもつれ込みたい。


『こっち倒したぞ!』


『私の方来て~!行けそうだけどヘルプ!』


『分かった!』


俺らが優勢、ただAQUAが居るということを考えればまだ優勢とは言えない。

この彼女に勝てるのは俺とendmだけだと思う。

wart、lucusじゃ厳しいと断言する。




行くか。



重い圧を背負って、想いを武器に込めた。

行くしかない。

サブマシンガンを握った、弾はしっかりマックスだ。






俺は姿を出した、彼女は時を待っていたのか攻めてこなかった。

ならばこちらから攻めるしかない。

俺は一目散に駆け出した。


一方彼女が持つのはスナイパーライフル。

頭を狙ったわけではなく胴体狙い。

ダメージ量よりも、俺が避けにくくする弾を選んだらしい。

流石だな。


ただ、俺には当たらない。

身体をねじりつつ弾を避けた。


そしてサブマシンガンの引き金を引く。


1発…2発…3発。

と数弾撃ち込んだタイミングで彼女は下がる。

ショットガンに切り替えるのだろうか。


それでも俺は攻め続ける。

姿が隠れた方向へ走り続ける。


『よし!私も終わりました~!』


endmの報告が微かに聞こえたあたり、

俺はAQUAと目が合った。


まるで微笑むような、でも表情などこのゲームには無いので気のせいだが。

俺は意表を突かれた。

ここなら彼女はそうする、いや、誰であってもそう出ると思った。

でもAQUAは分かっていた。


この状況ショットガンでは決め切れないんだと。


「ふぁ!?」


持っていたのはショットガン………ではなくスナイパーライフル。

流石に俺も変な声が出た。

あまりに詰めすぎたこの距離間。


いくらなんでも避けられる距離よりも近かった。


「まじか………」


彼女が放った弾は俺の頭を見事に貫通した。

驚きの声が届く前に、地面に倒れてしまったのは俺だった。


『え!?』


最初に反応を示したのはwartだった。

まさか死ぬわけないとでも思ったのだろうか。

だが流石にまだ実力は戻っていなかったのか、いやそれとも実力の差を埋められなかったのか。


見事なまでに圧巻された。


「ごめん……」


俺の声が声として出てくるまで、体感時間はとても長かった。

やってしまった、という後悔が常に頭にのしかかる感覚。

まるで時が止まったんじゃないかと思った。

結局変われてなかった、そう後悔する時間すらも余裕で生まれる。


無理だったのかな…………俺じゃ。









『私が行きます!!!!』


ただ時は動き出した。

当たり前のように、それはまるでいつものように。

誰かが死んだら誰かがカバーする。

そんなの常識じゃないか。


「ごめん!」


『大丈夫!私たちも倒せたから向かうね!』


俺は負けてしまったが、他は勝っている。

3vs1。

今までの構図とは違う。


人数不利な展開で勝つ、それは俺らにとってよくあること。

じゃあ人数有利から負ける展開はあるのか?

答えはNOだ。


勝つのが俺らだ。

どんな状況、それがプラスであろうとマイナスであろうと勝つのだ。







『私そっち行く!endm、お願い』


『了解です~!』


「すまん!ただ3発入れてるからちょっとだけ削れてる!」


『なるほどな、俺は後ろからendmに合わせて撃つわ』


『分かりました!行きますね!』


wartは彼女から少し身を引いた位置に居る。

援護に全てを掛けている。


『そこだ!頼む!』


endmの動きが出来るだけ簡単に、そして対面の戦いでより有利になるように。

lucusとwartが無言の連携をかましている。

いつまでもAQUAに有利は取らせないという意思すら見える。


『私、戦いたかったんです。あの日世界を知った時から…』


彼女が何を、そしてどの状況を指しているのか。

正直分からない、けれど彼女は本気だ。

何かを源とし、今覚醒している。

全てを圧巻するプレイヤーとして、ここに君臨している。


世界最強に成るものが、ヨーロッパ最強に負けるなんて状況あり得るのか?


「頼んだぞ…」


俺は誰にも聞こえないくらいの声でボソッと言った。

それとほぼ同時期に彼女は駆け出した。

剣を持った勇者のごとく、誰かを救う天使のごとく。




『やった~!!!倒しました!!!!』


彼女は勝ったのだ。

AQUAという存在に。

チームで勝てた、そう表現しても良い。


「ナイスすぎる!!!!」


俺は死んでしまったが、だからと言って3人が居る。

負ける状況なんてありえなかった。







『そこ行けそうですよ!』


俺が蘇生出来る状況は現れず、終盤のラストまで彼女らは3人だった。

でも動きはすべて滑らか。

lucusの指示が綺麗に効いていたよう。


『こっち!敵が1人しかいない!』


『だな、そっち行こう!』


残り人数も残りわずか。

勝利も目前のこの状況。

彼らは楽しんでいた。

普段やるランクマのように軽快に動いていた。


『よし!!倒しました!!!』


キルカウントは17キル。

マッチ順位はtop3確定。


『こっちだ、ついて来い!』


lucusが前を走る、その後ろを彼女らが動く。


『あそこに1パーティ、あとここがもう1パーティかな』


wartが残りの敵をすべて特定する。


『分かりました~!』


『って言っても流石に不利な場所すぎるな…1位はきついかも』


『いいよいいよ~!出来るだけ頑張れば!』


特にネガティブなこともない。

本当にいつもと同じだな。


俺はこいつらと長年一緒にやってきた。

本当にずっと楽しかった。

全員が個性豊かで面白かった。

時には言い合いになることだってあったけど、結局は仲が良いメンツだった。


4人、誰も欠けることなく俺たちはやってきたんだ。


『あ~死んじゃった!!どうだろ!』


『ん~ただ最後何キル持って行った?』


『一応2キルだけ…どうでしょうか』


3位、19キル。

試合が終わるのがドキドキだった。











第12試合が終了した。

俺らはずっと心臓の鼓動を感じ続けていた。

今や今やとモニターを待つ。

一言も交わさなかった。


全員が口を閉じじっと視線を一点に送る。





世界は変わったんだ。

また同じように回りだした。




モニターが映った。


優勝は白い流星だ。


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【後書き】

スクワッド部門ついに書き終わっちゃった。

長かったような短かったような……

まあ全然まだまだ続くんですが。


とりあえず大会終わって色々書きます!

VTuber回(本編の裏で行われているやつ系)

を書こうかなって思ってます。

最近書いて無くてちょっと書きたい!


あとは章を一旦区切るのもありかな~って思ってます。

5.5章でデュオ編を少しずつ書こうかなと……。


ちなみにですが、もしかしたらデュオ編に入るのが新年からかもしれないです!

そんくらいここ擦ります。


~報告~

星2500&星平均2.8達成!


今まで読んでくださった方本当にありがとうございます。

拙い文ながらここまでよく頑張りました!

これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!


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