第256話 つかの間の休息

『本当にお疲れ様です』


「そうだな~お互いお疲れ!」


バスを降りると目の前にはendm。

俺が出るのを待ってくれていたようだ。



戻ってきたのは自分たちの泊まるホテル。

大会1日目は無事終了した。


順位もまさかのトップ。

流石に1日目でここまで行くのは想定外。


ただ勝つことには変わらないのでまあ悪いわけじゃない。

lucusは、『明日の作戦どうしようか』と念密に練っていた。

司令官には引き続き頑張ってもらいたい。




今日の予定はほぼ終わったみたいなもの。

夕食と、その後会議?打ち合わせ?があるがそれくらい。

あとは全部自由時間だ。


「ということだが、何する?」


俺とlucusが泊まる部屋に4人全員が集まった。


『何する~!でもご飯までに時間結構ありそうだよ』


今は17時(現地時間で)。

夕食は19時から。

2時間もあるとなると、確かに何しようか。

自由に街を歩いても良いが、時間も微妙だしなぁ。


『作戦について1つ話したいことがあるんだが良いか?』


先ほどまでうーん……とうねっていた彼が口を割った。


『どうされました?』


『さっきからずっと、2日目の作戦を色々と考えてはいるんだが……どうしてもヘイトという壁から避けられなくて。もし初動で死ぬリスクを無くしたいならもう誰も降りていない場所に行くしかないんだ』


さてどういうことか詳しく聞いて見よう。


まず彼も俺と同じく今日1位になるのは想定外だったらしい。

どれだけ自分たちが強くなろうとも、世界という場から立ってみたらそこまで簡単には通用しない。

もしくは、慣れるまでが遅くなる。そういう認識だったらしい。


「まあそうだよな。俺もそんな感じだと思う。」


『だよね~実際初動で死んじゃった回もあったし』


だが、第5試合。

急に状況が変わったのだ。


『endmの無双クラッチ…これで全てが狂いだした。あ、いやendmが悪いわけじゃないぞ』


『え、わ、わたし!?』


彼女はなんで私が!?という顔をしているが、逆に誰が思い浮かぶ。


5試合目、彼女が動き出したのだ。

今まで抑えめだったアジア勢。

なんなら少し世界に対して劣勢だった。


けれど、白い流星所属の1人の少女が銃を持って最前線で走り出した。

世界大会の決勝という場で、こんなことを実行できるとは誰一人予測していなかった。

lucusですら、これはないだろうと確率を切り捨てたくらいだ。


『総合10位でのキル数28だっけか?あれがおかしかったんだ。』


これで周りのヘイトは少しずつ矛先を変えてきたらしい。

第6試合ではそれが証明される………はずだった。


『ただ、それよりもおかしくなったのが第6試合だ』


初動?中盤?まあ戦闘時にwartとlucusが倒されてしまい、

blancとendmが生き残った。


『あれは実際終わったと思いました。』


「まあ俺も最悪死んでもいいかなくらいにはなってた」


前試合で順位を大きく伸ばせたから、別に死んでもめちゃくちゃ痛いわけじゃなかった。


『俺もそのスタンスだった。ここがどこまで生きれるかというのを考えつつ、明日のことを考えていた。でも少しずつ考えている事と現実がずれだした』


彼の予想では、多めに見て5キルで7位とかだと思っていたらしい。

でも実際箱を開けてみるとあら不思議。


『お前らが1位、かつたくさんキルを取った。次の第7試合、先に言うが厳しい戦いになる。』


「そんなの分かってるって。それでも勝つのが大会であり、それでも勝てるのが白い流星だろ」


『そうだね!』


『ですね。』


第7試合、考えられることはたくさんある。

まず初動狩りに来る可能性。

これは簡単で、トッププレイヤーを潰すことでランキングを動きやすくする。

例えば2位のやつが、初動で1位を狩ったとする。

すると、1位のプレイヤーは何もポイントを得れないまま、その試合が終わるため2位以降の人らは1位を目指しやすくなる。


それ以外にも、逆に敵が近づかない可能性。

そりゃ、マッチで無双してたやつに遭遇されても負けるのが見えてるからな。

誰が突っ込むんだよって話。


『他にも、色々考えることが出てくる…………はぁ』


lucusは凄く大変そう。

まあ俺らが暴れまくったせいでもあるんだがな。


『良い意味で狂わされたな。最高の舞台で、もっと良い策略を考えないといけなくなった。』


『すみません。』


『謝ることじゃないよ、俺に任せろ』


戦術の貴公子、そんな彼がどこまで通用してくれるのか楽しみだ。


『というわけで、今日とは全く別の作戦を考えるかもしれない。』


『りょーかい!』


『分かりましたっと、この後どうします?』


「ん~そうだな。まあ自由に何かしたいことをすればいいんじゃないか?」


『まあそうしますか。今日の疲れをちゃんと取りましょ』


ということで解散した。

まあ特にここから重要なことでもあるわけもなく、会議まであっという間に時間は過ぎた。


その間俺は何してたかって?

普通に寝てた。


最初は雑談配信しようかなとか思っていたけど、明日の調子が狂ってもなんかなと思って素直に寝ていた。

lucusはずっとPCとにらめっこ。

どうやら明日のことについて深くまとめているらしい。流石だ。


女子2人組は知らないが、まあなんか好き勝手に遊んでそうな予感だ。




『ということで、明日も頑張って行きましょう!今日はお疲れ様でした!』


会議もすぐ終わった。

と言っても明日の予定を聞いていただけだが。


もし勝ったらという話も一応聞いていた。

いや、もし勝ったらじゃないな。勝つから聞いていたんだよな。


『じゃ、おやすみ~!』


wartはちょっと用事が!っと言ってお先に失礼した。

lucusはちょうどいい案が浮かび上がったのが、早々と歩き去った。


『皆さん戻るのが早い……』


「はは、だな。」


俺らもゆっくりと部屋に向けて足を動かす。


「まさか、ここまで上がれるとは、自分でも驚きだ」


『ですよね、案外世界って大したことないのかも?』


endmさん、それは世界全体を敵に回してますよ。


「いやそれはないな。まだ6試合残っているから油断も出来ねえ」


『まあそうですよね。勝っても負けても笑顔で居たいですよね。』


「だよな~その後のデュオ戦もあるし。」


スクワッド部門がどうなろうと、必ずその次の日にやってくる。

調子はあまり崩したくないな。


『あと2日間大会があるんですよね……頑張らないと』


「だな~って………あれ?」


『どうかしました?』


俺が不意に止まったせいで、endmは疑問な顔でこっちを向いてくる。


「いや、なんでも………」


なんでもないわけじゃない。

中心が吹き抜けとなっている渡り廊下を歩いていると、向かい側に見たことのある例の少女。


いや、面倒ごとになるし話しかけにはいかないかなぁ。


「それより、明日の調子は?」


『明日……うーん、良い調子であってほしい』


「当日にならないと分かんないよな~」


『そうなんですよね』


結局どれだけ前日に練習しようとも結局は当日の実力。

まあ体調管理も大事だが、運も味方につけたい。


『崩れてた申し訳ないです………』


「いや、大丈夫だよ。その時は…………」


『おい』


俺が喋ろうとしたとき、後ろから声を掛けられた。

聞き覚えのある声質、後ろを向けばやはりなとなるその顔、その服。


あれでも、さっき向かい側に居たような……。


『その少女がendmなのか?』


「ああそうだ」


『えっと…どうも初めまして、endmと申します。』


しっかり英語で返せる彼女も凄いが、それにはびくともしないかのように少女はづけづけと踏み込んでくる。


『へえ~会えてよかった、言いたいこともたくさんあったしね。』


言いたいこと……あ、待て嫌な予感が。

endmと共にその場を去ろうとしたが、


『言いたいこと?』


ああ聞いちゃった。

もう後戻りはできないよ。


『ええ。まず1人動きすぎ。何あれ、世界を舐めてるの?』


少女はお構いなしと畳みかける。

でも横に居る彼女はびくともしない表情。


『何も言わない気?それとも何も言えないの?自分がたまたま成功したから良いと思ってるでしょ、あんなの失敗したらどうしていたの』


endmは何も言わない。


『これだからアジアは落ちこぼれ。どうせ明日順位は落ちるんでしょうね』


アジアは落ちこぼれ…………か。

まあでも間違いではない。

どのゲーム界隈においても、大半は海外勢。

FPSなんか特に、アジア勢で人権があるものなど数えるくらい。


『明後日のデュオ戦楽しみにしてる』


「あれ、スクワッドは出てないんだ」


出ていると思っていたが、あれこのやり取りした気が。


『言ってなかった?私、スクワッドは嫌いなの。デュオだけが好き。』


「そっか、じゃ。endm行こ」


この場を早く去るべき。俺はそう思った。

彼女の腕を強引にでも引っ張るが、全く動かない。


「endm?」


『最後に立っているのは私たち。あなたには勝たせない。』


endmはそう言うと、歩き出した。

俺はやれやれとでも言うかのようにして歩いた。





しばらく歩くと、


『なんなんでしょう、あの少女』


そう言った。


「分からないな。結構深いところまで入ってくるのは気になるが」


『あんなの運営側に言えば一発でアウトだと思うんです。』


まあそうだな。

俺も初めて出会った時そう思ったぜ。


でもしなかった。


『でも言うわけない。blancもそうでしょう?』


「ああ」


たぶん俺らが言いたいのは同じこと。

やりたいことも同じ。


「実力で潰す、それの方がやりがいがあるからな」


『ですよね』


この一瞬、一時的ではあったがendmの雰囲気が変わった。


『絶対勝つ、それしかない』


「とりあえず明日の試合だな」


『うわー緊張してきます…』


まだ始まっていないのに早いなw


「とりあえず頑張ろうぜ。」


俺はグーを突き出した。


『ですね』


endmも俺に向かって突きだす。


もはや覚悟は決まっている。

この先何があろうと、何が待っていようと、どんな結末が俺らを包み込もうとも。

その運命に抗い、勝利を掴む。


『でも、明日本調子じゃないとやばいかもですね。lucusに申し訳なくなる』


彼は今もせっせと考えているのか。

本当にありがたすぎる。

今後なんかおごってあげようかな。


「本調子じゃなくてもいいじゃないか」


『でもそれじゃ、チームに支障が』


「良いよ。その時は、」


俺が本気で戦う。


それだけだ。


-------------------------------------------------------------------------------------------

【後書き】

blanc覚醒編 始動



よくまだですか?というコメ見ててずっとにやにやしてました。

作者自身も覚醒しているシーンを書くのが結構楽しくて大好きです。


章は変えるか迷ったんですけど、最初6試合が終わってるのでこのままで!




300万PV達成しました!!!!!!

詳しくは近況ノートで色々な思いを綴っています。

これからもよろしくお願いします!!

カクヨムコン10も始まりましたね。


ぜひ☆評価、フォロー、レビューなど作者のモチベに繋がるためお願いします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る