第101話 Choices lead people astray
「あなたには分かっていますよね?今の彼女に二つ人格が混在していることを。」
俺は静かに頷いた。
「彼女は今その人格をお互い認知していないだろう。だからこそ今はまだ落ち着いているんだ」
確かに彼女は最近おかしかった。
急に言動や行動がおかしくなることだ。
そしてそれが彼女自身では無い何かということにももちろん気が付いていた。
いや、何かではない。それすらも彼女だった。
そのことを俺は認めたくなかった。
だからこそ全て無かったことにしたかったのだった。
「もし、二人が互いに認知し、混乱状態に陥った時。
脳のパニック障害で植物状態にもなりうる。それくらいの深刻と直面していることを
分かってくれ。」
「俺に何かできることはあるんですか?」
「分からない。彼女の容態がどうなっているのかあまり解明できない。」
「症例が少なすぎる」
彼は少し悲しみながら、申し訳なさそうにそう言った。
「そうですか……………」
そう、彼女の症例はまれすぎた。
いわば、未知の病だ。
病に罹った方は世界中探しても数えられる程度。
だからこそ対処法しかなく、結果的には特殊的な手術療法しかないらしい。
だが、その手術療法が本当に正しいかすら証明されない。
それほどの症例だったのだ。
発生条件も不明。対処法も不明。病名もまだはっきりとしていない。
だからこそ俺にはどうすることも出来ず、また病院側からしてもどうもできない。
「一つだけ良いですか?」
ただ、1つ賭けてみたいことがあったのだ。
「なんだ」
「昔を生きた彼女と一時的に話すことは出来ますか?」
長い沈黙の時が流れた。
俺は黙って彼の目を見た。
長く、彼は考え、そして答えを出した。
「できる。というかさせてみせる」
そう彼の目は俺の期待を絶対に応えて見せようという希望だった。
帰り際に彼は俺に言った。
「さっき言っていたこの薬、実は海外で一度実証されていて、おそらく夜音ちゃんに
も使えるかもしれないと思う。」
そう言って渡してきた。
まさかもう準備しているとは流石に俺も思わなかった。
これほど準備が良いのは都合が良すぎる。
おそらく彼は前からこの件を見据えていたのだろう。
そして今このタイミングのためにずっと置いていたのだろうか。
そしておそらくこれに賭けるんだろう。
もちろん俺もこれにすべてを託した。
「先生。もしもの時、またよろしくお願いします」
「ああ」
そう言って先生とは別れた。
まだ空は夕暮れにも満たない青色だった。
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家に帰ってきたはいいが、どうしようか。
夜音はおそらく外で友達と会ってるんだろうか。
俺しか居ない家の中はとても静かだ。
そういえば、医者である彼はさっきこう言っていた。
「ただ、1つだけ言っておく。これは俺にとっての賭けだ。
後で俺が渡す薬の効果が出た時、すでに彼女は危険状態の可能性だってある。
それでも使うんだ。君に相応の覚悟はあるかい?」
もちろん俺もこれに賭ける。
もし効果が想像通りに出なかった場合、その時はまた考えよう。
ただ、この状況を一人で背負うにはあまりにしんどいと思う。
まず、夜音本人にこんなことをまだ明かせない。
聞いたときの彼女の顔を見たくないからだ。
あいつに聞くか。
唯一居る、俺の友達であり、夜音の親友。
彼女に話を聞きに行こうか。
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