第70話 肝心なことを……

「え、今、なんと…」


「だから、ネスイはプリームと同棲してるって話」


いや、なんで?

確かに同棲してると言われてもおかしくない。

だけど春陽にバレたのはなんでだ。

尚更プリームと分かったのもなんでだ?


「な、なんでそう思ったんだ?」


「え?だってプリームと住所隣じゃん。」


「あっ」


そうか。

よく考えたら住所は隣同士だった。


「しかも、皿が2枚以上常にあるの不自然だし」


「くっ」


春陽なら大丈夫だろうという考えがあだとなった。

住所という盲点がしっかり抜け落ちてしまっていた。


「まあ、とりあえずプリーム呼んでいい?」


「あ、はい」



なんか春陽が怖かった。





「あ、あの~」


「プリーム。ちょっと黙ろうか」


「あ、すみません」


俺とプリーム、机を挟んで春陽が座っていた。

春陽は腕を組んで、こちらをずっと睨んでいるようにも見える。


「とりあえず説明してもらおうか」


ここで逃げることは出来ないと俺は悟り、なぜプリームが家に居るのか。

そしてVTuberを始めたきっかけを語った。


「へえ。昔からの幼馴染なんだ。」


「うん」


「そしてとある高校に行きたくて2人でここに転校してきたと。」


「う、うん」


俺もプリームも春陽に逆らえない。

彼女が言ったことをひたすら肯定する。


「なるほどね…」


春陽は何か考えているのか、目を閉じて、腕を組んでいた。


「そして、VTuberを始めたきっかけはマネージャーの誘いだと」


「まあそんな感じだな」


説明すると長くなるが、ざっと説明するならこんなもんでしょ。



「プリームはこのことについてどう思うわけ?」


「え、えっと…まあ今楽しんでるならいっかなって」


「ネスイ、今どう思うの?」



「…楽しいよ。やってよかったと思ってる。」





「まあそれならいっか」


春陽は目を開け、笑顔に戻った。

何か頭の中で解決したようだ。


「HESKALもひどいね~。いきなり幼馴染を勧誘するなんて」


まあ確かに言われてみればって感じはする。

俺も急にVTuberになろうって言われた時は心底驚いた。


しかも準備万端だったし、流石に気が重かった。

結果的には良かったが失敗したならどうなってたのだろうか。


まあ失敗しないと信じてくれたから今につながってるのだが。



「でも、HESKALで救われた人も多いし、ネスイも結果的に楽しいなら…」


プリームも春陽もはっとした感じで暗い顔になった。


そして春陽は少しずつ語り始めた。


「私、学校行けなかったんだ。

 中学の時、自分は周りと違うみたいで、何か視線が怖くて。

 どうしようもなくて、ずっと好きな配信者の動画を見てて、元気をもらえてさ…」


「でも、ある日ふと思ったんだ。

 私も皆を明るくさせたいって。」


俺は何も言わず、静かに頷いた。


「その時HESKALの2期生募集が始まってたんだ。

 でも、VTuberなんて分かんなくて…すごい頑張ったの。」


「たぶん今までで1番頑張った。書類だってわかんないし読めない字だってあった。

 でも何よりも志願理由に私の想いをすべて書いたんだ。

 そしたら通ってくれて……」


少しずつ涙声になっていく。

春陽は何か思い出したのか。

目に涙を浮かべつつ、まだ話は続く。


「最初はやっぱり伸びなかった。

 それでも見てくれてる人が居たからこそ、せめて元気にさせようって。」


「そしたらここまで来ちゃったな」



「春陽はきっと、たくさんの人を救えていると思うよ。

 元気だし、ゲームもうまい。

 トーク力もすごくて、視聴者も皆喜んでるよ。」


「俺も見習わなければね……」


「ネスイを私ずっと応援しとくよ」


「そしていつか………………」


春陽の言葉はそこで途切れた。

思い出を振り返り、疲れたのだろうか。

そのまま眠ってしまった。




横を見ると、夜音も若干眠っているようにも見える。

いや、眠ってはいないだろう。

彼女はおそらく壮絶な記憶をたどろうとしている………



彼女のVTuberの志願理由。

それはプリームとは違った。


けれど彼女の志願理由は未だ彼女自身分かっていない。

いや、俺は分からせたくない。


またあの事件がよみがえり、そして俺の頭がそれを拒絶する。

彼女にとっては、何も起きないだろうが俺は精神的に少しずつ削れていく。


けれどこれを改善しようと俺は思わない。

俺の失態で生まれたものだ。

このまま罪を償いたい。





はあ………………

こういうことがあると、すぐ過去を振り返ってしまう。

俺の悪い癖だ。

何ごとも深くまで考え、リスクを考慮し、いわば杞憂的な思考へと辿り着く。


いつか、すべてが終わって、日常が戻らないかな……

そう思いまた記憶に蓋をした。









てかよく考えたら春陽は寝て、夜音も意識的が怪しい。


「あの~お二人さん…俺の家なんですが……」


そう呟いても、こいつらが起きる気配がない。

とりあえずマネージャーさんに写真を撮って、何もしないことを証明する。


そしてまあ放置しとけばいいかと思い、ソファでスマホでもいじっとこう。



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「あああ!!!!!!!!!」


「うお!?」


春陽の急な大声に、俺はびっくりする。

彼女は時計を凝視していた。

俺も時計をスマホで確認する。


11:46


「もう日が変わるじゃねえかああああ」


「んー。春陽どうしたの……」


「見てよ!時計の時間」



「んー…ああああああ」


夜音もすぐに目が覚めたようだ。


俺は絶対こいつらに絡まれたくないので影を潜めとく。


どうやら春陽は夜音の家で泊まるらしい。



(はあ。まあそんな気がしてきた)


起こすのもなんかかわいそうかと思い

ほっといた結果こうなった。


「俺も寝るかあ………………」



今日1日。

春陽とオフコラボできてよかった。

彼女の心境も聞けたし、俺も皆を楽しませるために頑張らないとな………………



あ、blanc……



一応休止宣言は出しているのだがもう2か月くらい放置だ。

流石に視聴者も心配してそうだ。




(明日配信やるかあ)




急遽雑談配信の枠を作り、さっさと寝た。

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