第10話 いつもの朝

『やったーーー!』


 一位の表示と、wartの叫び声が同時に響いた。


『お疲れ~!やっぱblanc化けもんだな』


 さっきの試合のラストプレイだろう。

 三人が立て続けにやられて、1vs2の状況となった。

 俺は一人でスナイパーで抜き、もう一人をサブマシンガンでごり押した。


 そんなに凄い事をしたわけではないが、クラッチしたのは事実だ。


『ですよね。blancさんが大会に戻るのを楽しみに待ってます』


 endmは期待しているような声だった。

 だが、残念ながら今のところはそうする気はない。


「まぁ、復帰したときにな」





『あ、順位上がった~』


 今回のマッチは結構上位勢が多かったので、ポイントも増えてランキングが上がりやすいのだろう。

 俺もついでにランキング画面を見る。



「あ、3位だ。」



 ちなみに世界3位だ。

 アジア順位は大きな差をつけて1位にいる。

 ヨーロッパや北アメリカの方がこのゲームが強いので、

 アジア順位はそこまで苦戦しない。


『おめでとうございます。』


『blanc、すご~』


『前まで5位じゃなかった?』




 三人からの祝言が飛ぶ。

 言われてみれば、最近5位になったばっかりだった。 

 まあ日ごろの成果だろう。

 

「よし、もう少しやるか~」


 ゴーグルを外して、近くにあった時計を見ると、

 23時あたりだった。


 明日は学校だが、体育が無いので徹夜でも多分大丈夫だろう。






「お疲れ!」


 俺はそう言って、ゲームを閉じてゴーグルを外す。

 時計は2時になろうとしていた。

 あれから、結構な数のマッチをした。

 どれも初動で生き残り最後の方まで戦った。

 ポイントも少し増やせてよかった。








 俺はすぐにベッドで寝た。

 けれど、朝は6時には起きないといけない。

 なぜなら…




「おっはよ~」




 朝から夜音が来るからだ。

 朝ごはんは俺が作らないといけないので、早く起きないといけない。






「夜音、自分で作れるようになれよ…ったく」


 彼女が学校でよく話してる友達にこの負担を聞いてほしいものだ。


「そうしたら、海斗のご飯食べれないし~」


 夜音は椅子について、「いただきます」と言ってから食べ始めた。俺も机を挟んで向かい合わせで食べ始める。




「んー、やっぱり美味しい!」


 彼女はよほど美味しかったのか、バクバク食べている。

 美味しいと言われて悪い気はしないが、自分で少しは作れるようになってほしい。




「はぁ」


 思わずため息が漏れた。

 この負担がのしかかった生活を作った両親を恨みたい。

 

 結局夏は帰らなかった。

 夜音は地元に帰ったようだが、伝言を渡されていた。


『冬は来い』ということらしい。


 流石に行くつもりではあったが、わざわざ言わなくても良いのにとは思ってしまった。


「どうしたの?ため息何かついて」


 彼女はご飯を食べ終わり、ずっとこちらを見ている。

 そんなに見られると食べにくい。

 俺は目をご飯に向けて、目が合わないようにする。




「私に相談してもいいよ?」


 彼女は一応相談相手に乗ってくれるが、今回に関しては乗るほどでもなかった。


「お前がご飯を作れば解決するんだけどな…」


 こいつは、ほぼ作らない。

 冷蔵庫にある食材も大体こっちの冷蔵庫に持ってくる。

 もう同居した方が節約になるのでは?と考えたが、社会的によくなかった。




「ははは…」


 愛想笑いをして、食べ終わった食器を持っていくために立ち上がる。

 俺は呆れ顔をしながら一緒に運ぶ。


「私が洗うよ。」


 俺は肩を押されて、少し後ろに引き下がった。

 珍しく手伝ってくれた。

 その間に部屋で学校に行く用意を始める。

 流石に行くタイミングはバラバラだ。




 夜音に興味がある人は多く、学年一の美少女というのも聞いたことはある。

 だから、俺と歩いていたら変な噂が流れるかもしれない。

 ご飯を人任せにして、たまにだけ手伝ってくれるやつに惚れる要素があるのか…?


 いや、容姿だろう。

 青色の眼で茶髪、ロングヘアで肌も白い。


 たぶんそういうところなのだろう。




「じゃあまた学校で!」


 夜音は洗い物を終わらせて家を出た。


 俺も、電気を消して、ガスの元栓の確認などをする。

 そして、マンションの部屋を出て、鍵を閉める。




 エントランスを出ると、若干暑さが目立つ。

 夏を抜けたとはいえ、秋でもないので暑い。

 汗が少し出ながらもゆっくりと歩いて登校する。



 今日の配信をどうするか考えていると、




「あ、海斗!おはよう」


 俺の高校で出来た一番の友達が後ろからやってきた。


 彼は早神 渚。

 学年でも運動神経が良いが、帰宅部だ。

 黒髪の裏には整った顔があり、女子のなかでも人気だ。



「おはよ」


 彼が追いついたと同時に再び歩き出す。

 一緒に歩き出して俺はあくびをしてた。




「眠そうだね」


 彼が優しそうな声で、心配してくれる。


「仕方ないさ、 4時間も寝てない」


 誰かさんが朝ごはんを作れるようになれば、もう少し簡単な料理に出来る。

 


「ゲームもほどほどにね」


 彼は俺がゲーマー兼配信者というのは知らない。

 けれど、一緒に何回か色んなゲームをしたことはある。

 念のためにバレないように垢は変えたが、


「そうだな」


 ちなみに隣が夜音ということも知らないので、最近の生活の全てゲームだと思ってるのだろう。










 俺は眠いなと思いながら、一緒に学校の門をくぐった。

 その日の授業はギリギリ意識を保てた。

 夜音に起こされなかったら寝ていただろう。

 

 起こす様子もクラスで誰にも見られてなかった。。


 ある意味この立ち回りって凄いなと思った。





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