冬休み

第37話 休みの予定を聞くのは遊びたいからに決まってるのに…

「只男は冬休みに予定とかってあるの?」

 終業式の日の朝、アリスが唐突に聞いてきた。

「そうだなぁ…クリスマスにはちょっと…」

「えっ!!クリスマス…誰かと過ごすの…!?」

「そんなびっくりしなくても…俺にだって予定くらい入ることはある。」

 アリスが明らかに困惑した様子でうろたえていた。

「思わせぶりなこと言ってるけど、こいつ毎年叔母さんのケーキ屋を手伝ってるだけだよ。」

 トイレから戻ってきた栄一がネタバラシをしてしまった。もう少し引っ張りたかったのに…

「言うなよ。珍しくアリスをからかってたのに。」

「…ただのバイトか。なーんだ、じゃあ恋人達の聖夜に誰かと過ごす予定が入ってるってわけじゃないんだね。」

 先ほどのうろたえた様子から一転、非常に明るい声でこちらが非リア充であることを確認してくる。

「誰かと一緒といえば、叔母さん夫婦と一緒とも言えるけど…」

「なーんだ、そっかそっか。」

「聞いてます?」

 人の話も聞かず1人で納得して考え事をしている。

「それってどこの店?」

「…嫌だよ。」

――これは、冷やかしに様子を見に来るやつだ。笑い者にされるのなんてまっぴら御免だ。

「まだ何も言ってないじゃん!嫌がる要素ないよね!?」

「絶対からかいに来るに決まってる…絶対教えない。」

「そうとは限らないじゃない。私だってクリスマス暇ってわけじゃないし。」

 今年転校して来たとはいえ驚異のコミュニケーション能力で今や友人だらけになっているアリスだったら、クリスマスに予定が入っていても不思議ではないか。

「それなら尚更教える意味ないじゃないか。」

「最寄り駅の前の歩道橋下にあるケーキ屋だよ。」

 また栄一が横槍を入れてくる。せっかく教えないで逃げ切れそうだったのに。

「ちょいちょいちょい!人が言わないようにしてるものを…」

「まぁまぁ、バイト中にアリスちゃんが遊びに来てくれるとか最高じゃん。」

 言われてみれば楽しみが増える気はするけど。

「あそこかぁ。まぁ、べ…別に、行かないけど!」

「聞くだけ聞いて来ないんかい。」

 結局アリスは何がしたかったのか。来ないなら来ないでいつも通り落ち着いて仕事をするだけだ。

 アルバイトの話はそこそこに、クリスマスに誰々はカップルで過ごすだのクリスマスケーキを独り占めしてみたいだの一通り雑談をしてアリスは席に戻っていった。

「栄一は今年のクリスマスはいつもと違うな。」

「まぁな。初めてのクリスマスだから色々考えてるけど。」

「リア充はいいなぁ。俺は今年も1人寂しくリア充のためにケーキ販売して、家族にチクチク言われる退屈な日になりそうだよ。」

「えっ…でも只男、さっきのは…いや、それが只男らしいか。」

 栄一が何か言おうとしたが、言葉を飲み込んだみたいだ。アリスが自分の席で手帳をチェックしている間に、栄一が小声で呟いてきた。

「只男は、どうでもいい時は予知かってくらい察しが良いのに、自分のことになるとてんで駄目だな。」

「それってどういう…」

 詳しく聞こうと思った瞬間、チャイムが鳴ってホームルームが始まってしまった。

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