第31話 遊園地の〆のアトラクションといえば…
「ここのワゴンのチュロスが美味しいらしいのよ。只男、一緒に買いに行きましょ!」
「このアトラクションも乗りたいんだけど、絶叫系なのよね。只男!行くわよ!」
「お昼はここでいいかな?只男と買いに行くから!2人は席を取ってて!」
「只男!あっちに…」
「只男!…」
「只男…」
アリスの行動があまりにあからさま過ぎて、栄一も長名も苦笑いしている。流石に微妙な空気になりそうなので、ここらへんで止めないといけない気がしてきた。
「只男、このアトラクションも…」
「…アリス、ちょっとトイレ休憩にしない?膀胱が爆発しそう。」
「爆発!?それならちょっと寄ろっか。」
トイレには栄一と長名を先に行かせてアリスを引き止める。
「アリス、長名も薄々勘付き始めてるから、ちょっと控えてここからは4人で回ろう。」
「嘘!?そんなに分かりやすかった…?」
「いや、まぁ、ちょっと…というか、だいぶ?すごく頑張ってくれてるのは伝わってくるけど。」
「そんなぁ…邪魔しちゃったかな…」
「いやいや、アリスを見て2人で盛り上がってたから逆に良かったんじゃないかな。」
「逆にって…」
トイレ休憩明けは絶叫系を避けて4人でアトラクションに乗り、その後土産を見て回ることにした。表面上は変わらず楽しそうにしてるアリスだったが、ふとした瞬間に顔が曇ることがあった。やっぱりさっきまでの空回りを引きずっているみたいだ。
「お土産っていっても、観光の時にも買ったし京都もあるしなぁ。」
「私は妹がここのキャラのグッズを集めてるから、それだけ買おうかな。」
「長名の妹みたいにこれ買ってきてっていうのがあれば楽だよな。」
「ここのキャラってさっき舞台で踊ってたアヒルみたいな子だよね?めっちゃ可愛かったから私も買おうかな!…って高っ!」
「これぞ観光地価格ってやつだな。」
「今日は食べ物買い過ぎてもう予算が…次に来るまでお別れかなぁ…」
2人きりにしよう作戦のために目に付く店々で買い食いしてたのが仇となってしまったみたいだ。
――今日は空回りしたとはいえアリスも頑張ってたし……これは、買ってあげるやつだよな。後で渡す機会があればだけど。
栄一と目配せし、アリスと長名を引きつけてもらってこっそり買いに行く。確かにUFOキャッチャーで100円200円で取れそうなやつにその10倍くらいの値段が付いている。観光地価格恐るべし。
土産物店を後にすると、集合時間まで後1つアトラクションに乗れるかどうかといった時間だった。
「そうだ!最後に絶対外せないのがあるんだった!皆こっちこっち!」
アリスに連れられて向かった先にはシンボルにもなっている大観覧車があった。
「これに乗らなきゃ今日は終われないよね!…ここも4人乗りのゴンドラもあるし…」
言いながら栄一と長名を2人にしたい気持ちを押し殺しているのがありありと出ている。流石にここは助け舟を出さないといけないところだな。
「そういえば!実はアリスと2人で話したいことがあったんだ。2人ずつに別れても大丈夫?」
「…そっ…それなら仕方ないね!あんまり気乗りしないけど、只男と乗ってあげようかな。」
「はいはい、気乗りしないのに無理してくれてありがとう。」
「それなら只男のためにも俺らも一緒に乗ろうか。」
「只男君が勇気出したんだもんね。」
あっちの2人は訳知り顔に微笑み合っていて何か勘違いしてそうだったが、首尾よく2組に別れることができたから良しとしよう。
「まさか只男がここでアシストするとはねぇ。よくやったわ。ここは1番ロマンチックになるスポットで時間帯もバッチリだからね。」
外を見ると夕陽が沈もうとしていて、確かに目を奪われるような絶景だった。しかし、アリスはその景色を見るでもなく、栄一達のゴンドラを盗み見ていた。
「そんなにあっちのゴンドラばっかり見てちゃダメだろ。あと、2人になりたいっていうのもあながち嘘じゃないっていうか…」
「なになに!?2人になりたいって…何かやらしいことでも考えてるの…!?」
「そんな訳ないだろ!その…今日アリス頑張ってたし…さっき欲しそうにしてたから…」
土産物店で買ったマスコットキャラのぬいぐるみを渡す。全く予想していなかったようでアリスは目玉が飛び出しそうな顔をしていた。
「嘘…只男が…こんな…嘘…」
「いやいや、驚きすぎだろ。」
「こんなサプライズびっくりするでしょ!めっちゃ嬉しい!大切にするね!」
「揺れてる揺れてる。」
アリスが飛び跳ねるから観覧車が止まらないか心配になる。
「君の名前はロナルドね!ミッケーのお友達!ふふっ。」
「その名前…ミッケーといいロナルドといい、どこかから怒られなきゃいいけど…」
そうして、観覧車の中で盛り上がっている間に一周し終わってしまい、栄一と長名の様子を窺うことも忘れてしまっていた。
観覧車を降りた後、照れ臭さからかアリスと上手く話せなくなってしまったが、栄一と長名もいまいち噛み合っていないように見えた。ただ、観覧車の中で何かあったのかを詮索するような野暮なこともできず、4人ともギクシャクしたまま宿舎に戻っていったのだった。
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