第19話 転校生の選んだ水着は…
青い空!白い雲!そして、真っ赤な太陽!
「海だー!」
電車を降りてすぐアリスと栄一は一目散に走り去ってしまった。荷物を放り出したまま。
「残されて荷物を運ぶ方の身にもなって欲しいもんだよ。」
「栄一君のはまだしも、アリスちゃんのはかなり大荷物だもんね。」
「こんなに、何を持って来てるんだか。」
同じく取り残された長名と汗だくになりながら4人分の荷物を運ぶ。
浜辺で丁度良く空いていた場所を見つけた時には、アリスと栄一はもう足だけ海に入って、はしゃぎながらこちらに手を振っている。青春を切り抜いたような尊い光景だ。まるでリアルが充実した人間にでもなったように錯覚した。実際は汗だくで荷物運びと設営をしているのだが。4人の場所の確保のため長名とせっせとビニールシートを敷く。
「そういえば、水着を買いに行った時もだけど、最近長名は栄一と仲が良いよな。」
「えっ!?いや、そ、そうかな…?仲が良いというか…そういうんじゃなくて…栄一君はよく話してくれるし、優しいから気を遣ってくれてるのかな…友達?そう!友達になったからかな…!」
「そうかそうか、友達ね。長名がそんなに早口で喋るのを初めて見た気がする。」
「もう!からかわないでよ!」
長名の反応から、栄一のことをまんざらでもないようだ。
――これは、完全に長名と栄一のフラグが立っているやつだ。全力サポートに勤しまねば。それにしても、いつからそんなに仲良くなったのか?
「幼馴染で何を楽しそうに話してるのかしら?」
準備が整うのを待っていたかのようなタイミングでアリス達が帰ってきた。
「そりゃあ、もちろん恋バナだよ。花の高校生だからね。」
「恋!?ち…違うから!そういうんじゃないから…只男君、からかい過ぎ。」
「ごめんごめん。長名が必死だったから、つい。」
「清香の恋バナ!?私も聞きたい聞きたい!」
「なんと!それは拙者も聞いておかねばならぬな。」
栄一まで悪ノリしてきてしまい収拾がつかなくなってしまった。
「もう、みんないいから。早く着替えて泳ごうよ。」
長名が何とかして話を逸らそうとする。
「そうね。せっかく水着を買ったんだから着てこなきゃね。あっちに更衣室があったから行こ!」
服の下に着てきた男性陣はとっとと水着になって、浮き輪を膨らませながら女性陣の帰りを待つ。
「じゃんじゃじゃーん。お待たせー。水着のお披露目タイムだよー。」
少し恥ずかしいのかアリス達がおどけながら帰ってきた。
長名は黒のパンツスタイルのビキニで、露出は控えめなデザインだがその控えめな所が長名らしい気がした。少し出ている部分を隠そうとしている仕草も含めて長名の良さを十二分に引き出すチョイスだ。栄一も隣で満足そうに頷いている。
アリスは結局、白のフリル付きのビキニを選んだようだ。長名と比べるとやや露出が多く攻めたデザインだが、例のビキニほどではなかった。あれではなかったことにほっとする一方で、実はもう1回見てみたかった気もして、何とも形容し難い気持ちに揺さぶられる。
「ああ、2人ともよく似合ってる。」
「またそれ。只男は試着の時からそればっかりなんだから。見せ甲斐のない男ね。」
「アリスちゃんは何着ても似合うから、只男君も本当のこと言ってるだけなんじゃないかな。」
「清香が言うならそうかな。そういう清香もとっても似合ってて可愛いよ。」
「うむうむ、両名とも拙者も太鼓判でござるよ。では、皆々様が着替え終わったということで、いざ、出陣じゃー!」
栄一が謎の掛け声とともに、馬のような謎の走り方で海へ駆け出した。栄一の奇行に一瞬呆気にとられたが、3人で目を見合わせた後吹き出しながら栄一を追いかける。その途中、アリスがやや速度を落としてこちらを振り返る。
「只男だけだから。あの水着を見せるのは。」
そう小声で呟いたと思ったら、風のように走り去っていった。さすがクラス1位の足の速さだ。そんなことよりも、アリスの発言の意図はいまいち掴み切れないが、多分あれだ、なんか良い感じのやつの…あれだ。
熱々になった顔を冷やすために急いで海水に飛び込むと、浮き上がり際にアリスが水をかけてきた。こっちの気も知らず、いつものように楽しそうにしている。アリスの笑顔を見ていると、あれこれ考えるのが馬鹿らしくなり、思考停止して今は海を楽しむことにした。
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