第11話 落ち込む転校生を迎えに行くのは…
「…それにしても、只男と長名ちゃんは幼馴染なだけあって息ぴったりだったな。これは足を引っ張らないように俺も気合を入れないとだ。」
「でも栄一君の方こそ中学の時から只男君と仲良しだったんじゃない?二人でお揃いのアクセサリー買ったりしてたよね。あの、剣に龍?が巻き付いてるみたいな…」
「こんなところで黒歴史を掘り返さないでくれっ…」
「…ところで、アリスちゃんちょっと遅いよね?」
しばらく3人で雑談しながら待っていたが、アリスはいつまで経っても帰って来なかった。
――小さくなってどこかに行って、いつまでも帰って来ない……これは、ショックを受けてへこんでいるのを誰かが迎えに行くやつだ。でないとアリスはいつまでも帰って来ない気がする。
「たしかに、誰か迎えに行った方がいいな。」
「それだったら、只男が行くべきでしょ。」
「なぜいつも俺に振る!?」
「そりゃあ、只男はアリスちゃんのお世話係だし、それにけっこうきつく言い争ってたから只男が傷つけたんだと思うんだよなぁ。」
言われてみれば、思い当たる節もなくはない。反論しようにも、痛いところを突かれてぐぅの音も出ない。こういう時の栄一は本当に頭が冴え渡っている。的確に相手の嫌がるところを突いてくる天才だ。
「じゃあ探しに行ってくるよ。飲み物買いに行くって言ってたよな。」
「私もついて行こうか?アリスちゃん心配だし。」
「長名ちゃんまで行ったら、今度は俺が一人になって寂しいじゃん。只男、男を見せて一人で行ってこい。」
長名は栄一を無下にもできず、結局一人で迎えに行くことになった。これまでも大体こういう役は引き受けてきたから別にいいけど。
とりあえず自動販売機まで探しに来ると、全く予想に反せずアリスはそこにいた。ベンチに座ってあらぬ方向を見て固まっている。一応買った飲み物は手に持っているが、口をつけた跡はない。ずっとこうして呆然としたまま座っていたのだろうか。
「アリス…アリス!みんな待ってるぞ。」
「あれ、只男?なんでここにいるの?」
「アリスがなかなか帰ってこないから、みんなで心配してたんだよ。」
「あら、そんな経っちゃってた?ホントだ、ちょっと暗くなってる…ごめんごめん。」
「ほら、行こう。」
差し出した手にアリスは反応せず、座ったまま動こうとしない。
「私さ、足引っ張っちゃうから、ムカデ競争抜けさせてもらおうかなって。だから練習とか、もういいよ。ごめんね、無理言って付き合ってもらったのに。」
練習が上手くいかなかったのが余程堪えたのか、力なくそう言って立ち去ろうとする。
まさかここまでショックを受けていたとは。しかし、せっかく楽しくなり始めているのに、言い出しっぺが一人で抜けるなんて許されるわけがない。
「…そんなこと言うなよ。俺も、ちょっと言い過ぎた。ごめん。ただ、アリスがやろうって言い出したんだし、周りを巻き込んでまでやりたかったんだろ?やり始めたことを途中で投げ出すのは後悔しないか?」
逃げられないようにアリスの進行方向に割入って何とか足止めする。アリスは唸り声を上げながら、少し顔を上げて様子をうかがっているようだ。
「初めから上手くいくことなんて面白くないだろ。こう…失敗したり上手くいかなかったりで、でも、みんなで一緒に頑張ってできるようになってワーみたいな…なんかそういうのの方が嬉しいじゃん。それで、なんか絆だーみたいになったりして…」
普段の軽口ならすらすら出てくるのに、ちゃんと話そうとするとなぜだか上手く口が回らなくなる。名言集にあるような言葉が出てくるはずもなく、訳の分からない言葉になってしまう。
「そうかな?上手くいかなくてもいいのかな?」
言いたいことは聞き取れたのか、アリスが反応を返してきた。真面目に話していることに少し気恥ずかしくなってきたが、ここまで来たらいききってしまおう!
「まぁ…最初は上手くなくてもいいって。一緒に上手くなることが大事だよ…みんなで。だからアリス、戻ろう。俺達はアリスを入れて4人でチームなんだから。」
――まずい。調子に乗って少しクサいことを言ってしまったか……これは、後々にいじられるやつだ。
「ふふっ、只男って意外に熱いこと言うんだね。聞いてるこっちが恥ずかしいよ。」
「そういうこと言うなよ!話し始めからずっとグダグダで恥ずかしいのは分かってるんだから。」
ようやくアリスにも笑顔が生まれた。多少恥ずかしいのを我慢した甲斐もあって、言いたいことは何とか伝わったみたいだ。
「只男がこんなに頑張るほど必要とされてるみたいだし、ウジウジなんかしてらんないね!ほら、なにぼーっとしてるの!練習に戻るよ!」
いつもの元気を取り戻した様子で、いきなり小走りでグラウンドに戻るアリスを急いで追いかける。
「…ありがと…こんな……なっちゃうよ。」
「うん?何か言った?」
「別に!」
アリスが小声で何か言ったようだったが、聞き返しても結局教えてもらえなかった。やる気に戻ったアリスは息を弾ませ、顔を上気させながら走り去っていった。
その日は残りの2人と合流後、日が沈むまで練習に明け暮れた。そして、さらに何日か放課後に練習し何とか形になってきたところで本番の日を迎えることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます