第7話 引き止めるために腕を掴むと…
文化部の展示を見て回ろうと廊下を歩いていると、突然強い光を当てられて目の前が真っ白になった。恐る恐る目を開けてみると、カメラを構えた栄一の姿があった。
「いい画が撮れましたなぁ、おふたりさん。文化祭を楽しんでるみたいで何より。」
「遂に盗撮にまで手を出すようになったか。自分から自首しに行った方が罪が軽いらしいから、近くまで付いていこうか?わが校から犯罪者が生まれるのは教頭が悲しむだろうけど、仕方ないよな。」
「たしかに…教頭が悲しむならこのまま犯罪者として出頭するのも悪くないな。って違う違う。当然のように親友を犯罪者扱いするのやめて。今部活中だから。これを見てごらん。」
栄一が見せてきた左腕には写真部の腕章が付いている。
「一応これでも写真部なのでね。文化祭中もコンテストとかいろいろあってそのための写真を撮ってるのだよ。」
そういえば、推しのアイドルを上手く撮るために写真部に入るとか話してたような、そうでないような。あんまり興味がなかったから流してたけど、ちゃんと活動に参加していたとは意外だ。
――美少女と一緒に撮られてしまった写真とコンテストがあるという不穏な発言…これは、勝手に写真を文化祭のコンテストに使われるやつだ。今すぐ栄一を止めないと。
「なぁ、今撮った写真は消し…」
「あ!長名ちゃんじゃん!おーい!」
こちらの話の途中にも関わらず、長名を見つけた栄一はさっさと走り去っていってしまった。アリスといい栄一といい人の話を最後まで聞かない奴ばっかりだ。長名がこちらに気づいて小走りで駆け寄ってくる。
「只男君、今年はアリスちゃんと回ってたんだね。私と休憩時間が重なってたから、どこにいるのかなって思って探してたんだけど…一緒に回る人がいたなら良かった。」
こんな変態女装野郎でも気遣ってくれる長名はやっぱり天使だ。誰かさん達と違って人の話を遮ったりしないし。
「それは心配かけて悪かったな。去年も面倒見てもらったもんな。」
去年も見事にぼっちで過ごしていたのを、幼馴染というだけで一緒に回ってくれたのだった。
「いや、面倒見たというか…私が一緒に回りたかっただけだよ…」
「ふーーーーん、ほぅほぅ。清香ちゃんが只男と回るなら、私は先にクラスに戻っとこーっと。」
ここまで黙っていたアリスが、急に何かに納得したように頷きながら一人で戻ろうとする。
「いや、待てって。ここまで来たんだし、どうせなら最後まで一緒に回ろう。」
アリスがよく分からない反応をしながら突然いなくなろうするので、思わず腕を掴んで引き止めてしまった。
――教室に戻ろうとしてこちらを向いていないアリス。そんなアリスをいきなり引き寄せてしまう手…これは、アリスがバランスを崩して一緒に転んでしまうやつだ。
思ったより軽い手ごたえだったせいで、アリスを思い切り引き寄せてしまう。突然のことにアリスはバランスを崩してしまう。しかし、ここまでは想定内。二人とも転んでしまわないように思いっきり踏ん張って耐える準備をする。すると、バランスを崩したアリスは寄りかかってくる形となり、転ばない代わりに抱きかかえるような格好になってしまう。これはこれでフラグ回収な展開になってしまった。
「あっ…ごめ…」
アリスの耳元だったので大きな声を出さないようにささやき声で謝ると、飛び跳ねるように離れて行ってしまった。
「べ…別に!わざとってわけでもないんだろうし!何ともないけど!」
口では許してくれているようだが、飛び跳ねて離れられて顔も合わせてくれない。多分機嫌を損ねてしまった気がする。それかめっちゃ臭かったか。
「おぅおぅ、アリスちゃんにご執心な奴は放っといて、俺達はあっちの出店にでも行こうか。長名ちゃんが飲みたがってた電球ソーダが売り切れ間近って言ってたよ。さぁさぁレッツゴー…おっと、そういえば、さっきの写真なら上手いこと使っとくから安心してくれ。そいじゃ。」
長名はまだ何か言いたそうにしていたが、半ば連れ去られるように栄一と出店の方に歩いていった。
「あー…写真は消してくれって言おうとしたのに。」
「園田君のことだから悪用したりはしないでしょ。ほら、いいから行くよ!」
やっぱり栄一に写真を消してもらうことはできなかったが、アリスも特に気にしていないみたいだから別にいいか。そのアリスはというと、その後も引き寄せた時のことを特に責めてくるわけでもなく、何事もなかったように話しかけて普通に笑っている。時折ちらちらとこちらを見ている気はするけど、敵意があるようには感じない。機嫌を損ねたと思ったのは勘違いだったみたいだ。
結局そのまま続きを回ることになり、アリスと文化部の展示を見て回って休憩時間の終わりまで一緒に過ごしたのだった。
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