まずは女の子同士でデートしてみない?

@kminato11

第1話 デート

「ほら、朱莉。あーん」

「あーん」

 ニコニコしながら真希が差し出してきたスプーンを私は勢いよく食べる。

 ぶっちゃけ恥ずかしさで味がわからない。

 私はすぐさま自分のスプーンですくったパフェを真希に差し出す。

「じゃあ、お返し。真希、あーん」

「いや、私は」

「あーん」

 逃がさないと、睨みつけると真希は渋々口を開く。

「あっあーん」

 私とは対照的に控え目に口を開くので、スプーンをねじ込む。

「ん……!」

 ちょっと咳き込んじゃったから、悪いとは思うけど……でもちゃんと口開けないのが悪い。私だって恥ずかしいんだからおあいこだろう。

 ただ、これは仕返しなんだから。もっともっと意地悪してやる。

「どう? あーんされておいしい?」

「……おいしいです」

 湯気が出るんじゃないかってぐらい赤くなりながら真希は俯いた。

 勝った……何に勝ったのかはわかなんけど、とりあえず心の中で呟く。私のほうが優位に立たないと、恥ずかしさで精神的にどうにかなってしまいそうだから。私は顔が熱くならないよう、フラペチーノのストローに口づけながら彼女を睨む。


 ……まあ、これぐらいじゃすまさないけどな?

 今日という地獄を設定した真希を絶対許さないと決意しながら私は昨日のことを思い出す。


 ***


「ねえ、朱莉。明日、新しくできたショッピングモール行かない?」

「あそこ? いいよー」

 いつものように真希とお昼ご飯を食べていると、そんな提案をされたのがきっかけだった。

 そこは新しくできた大型ショッピングモールで水族館もあるしで、私も近いうちに見に行きたかった。

 それも誘おうと思ってた真希だったら大歓迎だ。

 そんな風に思っているとにやにやとむかつく顔しながら真希が言ってくる。なにこいつ。

「……そうそう。ここのカップル用パフェがおいしいらしいからさ。一緒に食べない?」

「……カップル用?」

 私は途端にいや感じがする。

 だいたいこうやって挑発してくるときの真希は性格が悪い。

「そう、カップル。二つのスプーンであーんしながら一つを食べるパフェ。ちなみに写真撮られるんだって」

「いやだわ。普通に」

 思わず低い声で言ってしまう。

 てか、なんでそんなものを友達のお前とやんないといけないんだ。普通に悲しいやつじゃん。

 私はゴミみたいな目で見るけど、真希は挑発的な笑みを崩さない。

「へー。朱莉は私とそんなこともできないんだ~?」

 ピキッ。

「女同士なのに意識しっちゃてるんだー。私のことそういう目で見ちゃってるんだー。ふ~ん」

 ピキピキ。

 私の額に血管が浮かぶのが自分でもわかる。

「じゃあ、そんなこと意識しちゃう人とは私行きたくないかな。誰か違う人誘うね。女同士でも意識しちゃう恥ずかしがり屋さん」

 カッーチン。

 いいじゃん。やってやろうじゃん。

「いいよ? あーんでもなんでもやってやろうじゃん」

「お、乗るの? じゃあさ」

 真希が顔を近づけて耳打ちする。

「普通にやったら、つまんなからさ。じゃあ、お試しでカップルみたいに明日は過ごそうよ?」

 は?

「なんで?」

 思わず素に戻る。何言ってだこいつ。

「だって、それぐらいじゃないと朱莉照れたりしないでしょ? それに両方彼氏いないじゃん」

「ん?」

 なんかダメージが入る。

 通り魔に切り付けられた気分だ。普通に効く。

「だからお試しってことで。それとも私を楽しませることもできないか」

 私の頭をポンポンと叩いてくる真希に、ついに私の怒りメーターが上限突破する。

「いいよ。乗ってやるよ! 明日覚えていろよ!? 絶対辱めてやるからな!」

「ちょっ、朱莉うるさいって。てかけっこうやばいこと言ってるって」

「うるさい! 明日のデートマジ見てなよ? マジのマジで後悔させてやるから!!」

「わかったから。ほんとマジ悪かったから! ホント黙って! なんなら挑発したの、今すっごい後悔しるから!!」

 涙目の真希に、絶対明日公開させてやると私は決意した。


 そして決戦の今日。

 まず入ったのが真希が言っていたカップル用パフェがあるカフェだ。

 まあまあ、いい滑り出しができたのではないだろうか。

「はあー。あーんってめっちゃ恥ずかしい」

 真希も頼んだアイスコーヒーを飲みながら顔の赤さをとっている。

「いい顔だったよ。マジで」

「意地悪だなー」

 真希が口を尖がらせながら、私を恨みがましく見てくる。いい気味だ。

 ……ただ、ちょっとかわいいのがむかつく。

「私だってやったんだから、痛み分けでしょ」

「そうだけど……てかこの後もこんなことやるの?」

「そりゃそうでしょ? だって真希が誘ってきたんだから。私に付き合ってくれるんよねー、ダーリン?」

 地獄にしたのは真希のほうだからな? と圧をかけながらにっこりと微笑みながらめちゃくちゃ甘ったるい声でねだる。

 もし地獄に行くことになったら、だれかは必ず道連れにする女だぞ? 私は。

 気軽に挑発したことを後悔しろよ。

「うわー」

 そんな私のオーラを察したのか、真希の顔がげんなりとしている。

「まあ、でもショッピングは楽しみたいから、ちゃんと切り替えるよ」

 私は明るい口調に変えて、言う。

 実際新しいところだから楽しんで回りたいし、真希と遊んでいるんだから一緒になって楽しみたい。

 だけどあの挑発は忘れてやらないけど。

「だから少しは意地悪するけど、ちゃんと真希も楽しんでほしいとは思っているよ」

「……少し?」

「私一途だからさー。後悔させてやるって言ったことはちゃんとやんないとね。ダーリンはもちろん逃げないよね?」

「甘ったるい声のくせに、さっきから目が笑ってないんだよ」

 真希が自分の両肩を抑えているけど、無視する。

 私は言ったことを守る女。

 楽しませながら、辱めてやるからな。覚悟しておけよ。


 私は切り替えて言う。

「じゃあ、二人の行きたいとこ決めよっか? 真希はどこ行きたい?」

 真希に問いかける。

 私たちが遊ぶときはこのプロセスを絶対に挟む。だって私だけが行きたいところだけ行っても真希が面白くなかったら意味ないし。それなら二人が行きたいところを通るように行ったら楽しいっしょ、ってことでそうしている。

 そんな私の価値観を真希も共感してくれているため、まず行くところを決めてから遊ぶのが私たちの決まりになった。

「んー。まあ水族館は行きたいよねー。せっかくショーあるし」

「そうだね。私も絶対ショー見たい」

「イルカとかアシカとか出てきて結構名物らしいしね」

 このショッピングモールの広告にデカデカと書いているぐらいだしね。

 しかもショッピングモールがついでで、ショーを見たいがために来る人が結構いるぐらい人気らしい。

 そんなの絶対映えるし、普通に見たい。

 私が目をキラキラしているのを見てか、真希はあきれたように言う。

「まあ、私はほかのエリアとかも見たいけどね? 深海エリアとかだったら嫌なこととかも神秘さで薄れそうじゃん?」

「なんで嫌になること想定してるんだよ」

 思わずツッコむ。

「えー。普通に魚とか見てもきれいだと思うよ?」

「そうだけど、あくまでショーがメインでしょ」

 真希はやれやれと肩をすくめている。むかつく。「まあ、お子様の朱莉にはわからないか」って言う顔でこっちを見ているのが、わかる。バカにしやがって……!

 ふしゅーと睨んでいる私の態度が面白かったのか真希が笑いながら元の話に戻る。

「ふふ。まあとりあえずショーは16時だし、それまでは服見ようよ。ちょうど服ほしかったんだ」

「……わかった。じゃあ、とりあえずこの辺回ろっか」

 後で仕返すと決めながら頷く。

 方向性を決めたので、さっさと移動しようとフラペチーノを飲み干そうと手を伸ばす。けど、さっき顔を冷ますために飲んだからかもうなくなっていた。

 頼むのもあれだし、かといって話していたから喉乾いたな……。

 うーんと迷って真希のほうに目を向けると結構入ったアイスコーヒーが目についた。

「真希。ちょっとアイスコーヒーもらっていい?」

「うん? いいよ」

「ありがとっ」

 ストローに口づけながら真希のアイスコーヒーをもらう。

 やっぱり甘いものばっかりだったから、アイスコーヒーがおいしいわ。

 そんな満足気な私を見ていた真希の口がぽかんと開いている。

「どした?」

「……間接キス」

 ……え? は?

 途端に真希の顔が赤くなる。

 いやいやいやいや。

 私の心の中で永遠といやいやとつぶやく。

 真希のあきらかな動揺に私までなんか恥ずかしくなってくる。

 多分顔も赤い。

「いや真希、こんなので意識しないでよ!」

「ごめんごめん。いや、なんかそういえばそうだなって」

「これぐらい普通でしょ」

「……うん」

 なにこの男子中学生みたいな会話は……。

 というか私が狙ってないのに照れないでよ? 誤爆食らって私まで巻き込まれたじゃん。

 そんな微妙な空気の中、真希とのお試しデートが始まった。

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