第2話 参上!
見渡す限り、荒れた大地……荒野ってトコロか?
なんだか岩山のてっぺんに降ろされてしまったせいで、360°ぐるりと周囲が見渡せる。
それにしたって、ここが何処なのかも分からないし、そもそも人が住んでる気配すらないのだが……。
さてどうしようか。
有無をも言わさず送り込まれてしまった異世界だが、俺は本当に死神とやらになってしまったのだろうか。
というか、あの神様。逆ギレすんなよな。もう「神様」って言ってやらない「ラダリンスさん」でいいや。
さて俺の姿は……っと。
パッと見は、現世とはちょっと違うけど、あまり違和感のない黒いスーツ。そして存在感アリアリの黒いマント。確かに死神というよりも“最凶”の悪魔っぽい恰好かも。
それに、気のせいか少し体が軽い。なんか学生時代に若返った気分だ。
まさか頭に角が生えてるとか無いよな……と、頭を触ってみるが大丈夫そうだ。
体を動かしてみたり、あちらこちらを触って自分が「存在している」と確認してみたり……としていたのも束の間、遠くに土煙が立っていて、その土煙がこちらに向かって動いているのが見える。
「人か?」
目を凝らしてみると、サァっと視界の一部が拡大されて、その光景がハッキリと見えた。
「うわっ、何だこれ。もしかしてコレが悪魔の能力?」
裸眼なのに、まるで望遠鏡を覗いてるように見える違和感。
1頭の馬に引かれている幌馬車。その御者台に人が一人。そして荷台の幌からも顔を出してる人影が見える。
「御者台にいるのは……若い女か。うん? あの頭にあるのって、動物の耳? あれが獣人ってやつか! マジかぁ、獣人って本当にいるんだぁ」
ちょっと……否、かなり驚きだ。パッと見は人間だけど、頭にあるのは間違いなく猫か犬の耳っぽいし、なにより頭髪は人間のソレじゃない。あれは毛皮の毛だ。何言ってるかワカランけど。
「という事は、後ろから追ってるみたいな集団って、あれは人間だよなぁ」
前方の幌馬車を追うように走っている5つの影。それは鈍い銀色の甲冑を身に着けた人間の男たちだった。
ラダリンスさんの言葉が事実であれば、状況的に獣人が人間に追われているって事だと思うが、本当にそうなのだろうか。
甲冑の男たちが獣人の馬車に近づく。見れば見るほど獣人が焦っている様子がひしひしと感じられ、その顔は追い詰められ苦しいとも悲しいとも見て取れた。
その時、獣人の幌馬車が大きく跳ね上がったと思うと、激しく転倒し土煙を立ち上げた。
「……ヤバイな」
これはもう危機一髪。獣人を助けなきゃいけない状況のはずだ。
……あの場所に……
そう思った瞬間、俺は土煙舞う転倒した幌馬車のすぐ近くに立っていた。
「貴様、何者だ!」
「待て、人間のようだ」
「獣人どもの仲間じゃないのか?」
「……⁉」
「あ、俺は……」
一様に警戒し臨戦態勢に入る甲冑の男たち。
投げ出されつつも言葉も無く驚きの目を向ける獣人の女の子。
そして焦る俺。
「ちょっ、待って。俺は……」
「貴様は人間だろう!なぜ獣人共と一緒にいる!」
「いや、一緒ってわけじゃなくて。まずは話を――」
「獣人を庇うという事は、不穏分子か!」
聞く耳を持たないってのはこういう状況を言うのだろう。
言うが早いか腰に差した剣を抜き、乗馬したまま突っ込んで来やがった。
「おい、嘘だろッ⁉」
接近する馬に思わず右手を前に出し、掌を広げて「待った」のポーズで制しようとしたが、甲冑男が振り下ろした剣が「ガチンッ」と硬い何かにぶつかる音と共に目前で止まっていた。
「あれは……防御魔法だと⁉」
「魔法を使えるとは、やはり魔族か!」
他の甲冑男たちが退きつつ騒めいている。
バリア的なモノを出せると思ったワケではないが、一瞬だけ、目の前に幕を張るようなイメージが思い浮かんだ。
さっきも「助けないとヤバそう」と思った瞬間、この場所に移動したのだし、どうやらラダリンスさんが与えてくれた能力ってのは本物っぱい。
そうか、なるほどね、そういう事なら……。
俺はちょっと面白くなって、思わずニヤリと口角を上げてしまった。
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