救世主は死神でした ~死神にしたのも悪魔の力を授けたのも神様です~

真幌羽

第1話 死神ですか?

 眩しい……天井が……違う? 部屋全体が……?

 此処は俺の部屋じゃないなぁ。

 

 確か風呂から上がって、冷蔵庫を覗いたら……意識を失ったんだよな。

 ――ああ、やっぱり死んだか――

 

 理不尽だよなぁ、こんな死に方。

 神様なんて、やっぱりいないんだよな。まぁ、信じてないけど。


 それにしても今日はツイてない日だった。

 会社で理不尽に叱責されてた外国人研修生。そう、彼は工場長から指示された事をきちんとこなしていたのに、工場長の指示が間違っていた為に機械がストップしちまった。しかも工場長のヤツは自分が間違った指示を出したのを棚に上げ、研修生のせいにして罵倒しやがった。

 何も言えない研修生の代わりに俺が指示が違っていた事を指摘したら――。

 あのクソヤロウは逆ギレして俺の胸倉を掴んで「お前なんかクビにしてもいいんだぞ」と脅してきたんだ。

 アイツにそんな権限は無いし、そもそもそんな簡単にクビには出来ないのは分かってるけど、何とも胸糞悪い。


 そして仕事終わりの帰宅途中、コンビニの駐車場で一匹の猫を取り囲んでるDQNらしき連中を見かけた。

 よくよく見てみれば、猫の足を紐で結んで動けなくし、串か割り箸のような物で突っつきまわしたり、ライターの火を近づけたり、挙句の果てに火のついた煙草を猫の顔に押し付けやがる。

 思わず駆けつけて止めさせようとしたが、あっさり返り討ちにあってボコボコにされちゃったんだよなぁ。30過ぎてこのザマだ、情けない。


 正義感が強いってわけじゃないんだけど、傍若無人な奴とか理不尽な事とかルールもマナーも無視するヤツとか大っ嫌いだから、つい首を突っ込んで注意しちゃったりするんだけど、喧嘩は弱いからね。


 少し騒ぎになったので連中は去ってしまったが、可哀想に残された猫は死んでしまっていた。助けられなくてゴメンな。


 で、ボロボロになって帰宅して―― 汚れを落とそうと風呂に入って―― 冷蔵庫開けて覗き込んだら―― 真っ暗に。


 ――で、目の前にいるのは神様ってやつかな?

 ひょっとしてコレは……異世界転生とかってやつだったり……する?


「私はこの世界の創造神、ラダリンスです」


 おわっ、考えてる事が筒抜け? なんか後光が凄まじいのだけど。


「大門耕平さん。貴方は生前から、様々な理不尽事に憤っていました。そして、それを覆したいとも……。それが貴方を選んだ理由です」


「選んだ? 理由?」


 なんか知らんけど選ばれたらしい。でも、なんだろうか、あまり嬉しいと思えないのだが。


「貴方には、とある世界に行って頂きます」


「もしかして、異世界……ってやつですか?」


「貴方にとっては異世界ですね。そこでは一部の人間によって『人間中心主義』が謳われ、人間以外の種族が迫害され、捕らわれた者は奴隷として虐げられているのです」


「なんか嫌な予感がするけど……あれかな『勇者になって世界を救え』とか?」


「いいえ。貴方には死神として、あの世界の人間たちと対峙して頂きたいのです」


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」


 思わず素っ頓狂な声をあげてしまったじゃないか!

 なんだよ「死神として」って!


「人間たちの中には、既に勇者と呼ばれる者がいます。しかし、勇者には『人間を中心とする世界を成す為の実働部隊タスクフォース』という使命が与えられているのです。人間以外の亜人種族…… 獣人族、精霊人族、そして魔族も、人間にとっては“人間の為に働くべき卑しきモノ”とされています。従わないものは殺害する。人間中心主義「全ては人間に利用され支配される為にある」との理念を掲げ、それを神の名の下に遂行するのが勇者と呼ばれる者なのです」


「なんだか随分と胸糞悪くなるような話ですが、神の名の下にって事は、神様がそれを許しているというか、命じているのとは違うのですか?」


「それを許し、命じた神がいるのです。この世界にも幾多の神があり、信仰があります。その中の一柱に人間中心主義を信念とさせる神がいるのです。また、その神は己を唯一神であると驕り、他の神々を認めず排除しようとさえしているのです」


 ああ、分かるわぁ。宗教によって考え方違うもんなぁ。「隣の人を愛しなさい」って神様が言ってても、隣の人が違う神様を信仰していれば戦争になっちゃうんだもんなぁ。


「貴方には、人間中心主義によって迫害されている種族の者たちを救って欲しいのです」


「けど、俺にはそんな力は……」


 俺が死んだのだって、力も無いのにDQNの蛮行に我慢できず首を突っ込んだ挙句……なんだから。


「その力を授けます」


「え?」


「貴方には、想像した力を具現化する能力『最強種の悪魔――ディアボロス』を授けます」


「いや、神様が悪魔の力を授けるって、それはいくら何でもおかしくないでしょうか?」


「あくまでも『最強種の悪魔ディアボロス』とは能力の名前。愚行を犯している人間にとっては“まるで悪魔のようだ”という能力です。そして私はこの世界の創造神の一柱であり、『悪魔の能力』もまた創造神である私が創り出したものです。そして貴方は「死神」です。よろしいですか? 「悪魔のような力をもって人間に死の恐怖を与える死神」です。死神もまた神でありますから問題ありません。『最強種の悪魔』は能力の名前です。いいですね?」


 いやちょっと、屁理屈が過ぎないか⁉

 とは言え、なんかこれ以上質問したら逆ギレされそうな感じなんですけど?


「貴方にターナスという名を与えます。『死神ターナス』虐げられている者を救い、『人間中心主義』を覆して下さい」


「いや、ちょっ……えっ……?」


 否応なし、問答無用? 何で『ターナス』?

 しかも『死神ターナス』って厨二かよっ!

 めちゃめちゃ不安しかないんだけど……

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