傀儡ークグツー
@asabee
第1話 傀儡
太平洋上海の人工島。
これからここで、"あるスポーツ"の決勝が行われようとしていた。
それとは対を成すように、光だけで構成されたコンソール画面を弄る男がいた。
「システム、問題なし。」
それに続くように次々とマイクから声が聞こえてきた。
《駆動箇所の点検が完了。》
《有機接続デバイス、問題なし。》
それを制するように、気の強そうな女性の声が聞こえた。
《了解、発進準備完了。智慧、出せる?》
「俺はいつでも出せます。」
《心強いわ。頑張って。》
それだけ言葉を交わすと、女性との通話はプツリと切れてしまった。
次々とコンソール画面が消えていき、智慧は一人、暗く狭い空間に残されたように座っていた。
何も緊張することはない。
操縦レバーを握り直す。
ただ、いつも通りするだけだ。
自分にそう言い聞かせて、智慧は呟いた。
「【
その声に答えるようにして智慧の乗る巨大ロボット、【雙眼】の目にあたる部分に光が宿った。
それに続いて、目の前のシャッターが上がり始めた。
周囲からどっと歓声があがる。
気分の昂りを感じつつも、落ち着いてにレバーを握り直した。
一方、対戦相手のパイロットは、雙眼の特異なデザインを思い出していた。
段々とシャッターが上がり、雙眼の身体があらわになりつつある。
両者のシャッターが降りきり、ついには互いの顔を見つめ合うような立ち位置となった。
パイロットは、その異様なフォルムを目の前で見れたことに感激を覚えた。しかし、同時に大きな不安を覚えていたのも否定できない。
ここまで来れたのだから……そういったプライドもあり、その不安は押しつぶした。
ーーー
《全国傀儡格闘大会、最終戦!!》
ハイテンションな実況が2つの機体の名を叫ぶ。
《【雙眼】対【
気持ち良い解説の中、二体の拘束具が解除された。
少し浮いた状態で固定されていた二体の傀儡は、接地の衝撃で少し揺れた。
【幕開】はそのしっかりとしたフォルムのおかげか、ほとんど影響はなさそうに見える。
対する【雙眼】は、衝撃でぐったりとうなだれていた。
無駄な装飾のついていない身体に、細い腕。
気味の悪いビジュアルをしているのに加え、【雙眼】にはもう一つ特徴があった。
その翼にも見える副腕が立ち上がるにつれ、パイロットの不安は恐怖へと変貌を遂げ始めた。
「あれが………」
無意識のうちに口が開いた。
「『四つ腕の悪魔…!!!』」
しかし、無情にも試合開始を告げるベルは鳴った。
《最終戦!!!開始ーっ!!》
・・・
試合後、コンテナに戻ってきた【雙眼】。
【雙眼】にロックがかかると、脊椎にあたる部分から長髪の少年が出てきた。
薄く茶がかった髪は、小柄な身体との対比で余計に長く見える。
「おつかれさま。どうだった?」
後ろから試合前にも聞いた声が聞こえた。
「露さん…えぇ、もちろん強かったです。」
智慧が言葉を返すと、暗がりからスーツを着込んだ長身の女性…。
「流石ね。これで日本一の名を手に入れたわけだけど、どんな気持ち?」
試合前とは打って変わり、智慧を褒める露の声には親しみがあった。
「俺が強いわけじゃ…」
「?」
溢した言葉に困惑を隠せない露。
「あ!いえ、なんでもないです。それで、これから俺は何をすれば良いんですか?」
智慧はあからさまに誤魔化したが、露は普通に返した。
「これからは少しインタビューだったりを受けてもらうわ。インタビューまでも時間があるし、少し休んだら?」
「わかりました。」
それだけ返すと、智慧は背を向けて歩きだしてしまった。
「良いんですか?」
後ろから作業員の一人が話しかけてきた。
「何が?」
「結局達成できてるのは『あなたの目標』じゃないですか、智慧さんの目標はまだ……。」
彼女は智慧と露の間にある"契約"について、まだ疑問が拭えていないようだ。
「良いんだよ。そういう契約だし、それに近いうち、『別の大会』があるの。智慧にはそれに出てもらう。」
「別の…?」
「そう。そこなら、『彼の願い』も叶う。」
不穏な雰囲気を漂わせつつ、露は決意を新たにした。
ーーー
「―……ち………え……」
女の子の声が頭の中で反響する。
聞き馴染みがあるその声に智慧は思わず目を覚ました。
「智慧!!」
満面の笑みで覗き込む顔は、本来ここにはあるはずのないもので驚きを隠せない。
「れ…零!?なんで俺の家いるの!?」
「起きて!!見せたいものがあるの!!!」
零は智慧の質問にも答えず、無理やり智慧の手を引っ掴むと、ベッドから引きずり下ろした。
そして廊下へ玄関へと、止まること無く手を引き続けた。
外に出たときは朝日が目に刺さり、目を瞑ってしまった。
田に植えられたばかりの苗や、草原の草が風によって揺れている。
「さっき、お父さんの山の洞窟に遊びに行ったの。」
道中、零が喋りだした。
「そしたら、よくわかんないけどすっごい大きいロボットがあって!!」
「ロボット…?」
ロボット…?こんなドのつく田舎にロボットなど存在しえるのだろうか。
一度神奈川かどこかで何かのロボットを見たが、あんなもの山に放置するだろうか?
というか、していたとしても神奈川で見たロボットも、後ろのアームが前後することで色のついた鉄の塊を動かしていたに過ぎず、ロボットアニメで見るような物ではなかった。
都会でもそのレベルが限界だ、そう考えると、こんなところに放置されたロボットがまともに動くとは思えなかった。
「そう、とは言ってもロボットって言えるかちょっと怪しいんだけどね。」
「どういうこと?」
「ロボットと言っても、なんか鉄とかで出来てるわけじゃないっぽいんだよね。」
鉄じゃない…?とか、ということは金属にも見えないということだろうか。
「なんかこう、『木』?みたいな質感で、ところどころ導線が張ってあるんだよね。」
うまく言葉に表せず、子供ながらに言い表そうとする零の言葉を、智慧はじっと聞き続けた。
「ついた!これがそのでっかい…」
「『傀儡』だ…。」
零が言い切る前に、智慧がその正体を呟いた。
その声には目に見えて興奮の色があった。
「え?傀儡?」
「知らない!?今、世界の色んな所から見つかっていて、動くんだよ!!これ!」
「へ、へぇー……」
寝起きだったはずの智慧はどこへやら。
興奮した様子で語り始めてしまった。
「主に木や植物といった有機物で構成された装甲板とフレーム、それに加えてところどころに接続された制御用のケーブル!!発見されたのが約280年前の地層だから、多分色んな人が作ろうとして諦めたのが放置されてるんだよ!!!」
「待って待って待って…。」
もはや聞いてもいない歴史を話しだしたので、当然のように流していた情報を復唱した。
「動くの、、、?これ。」
ーーー
「……」
そこまで見て、目が覚めた。
どうやら幼少期の夢を見ていたらしい。
「夢か…。」
わかりきっていることだが、それの上で少し期待してしまった自分は馬鹿だと感じた。
・・・もう彼女は戻って来ないのに。
「そう、夢を見てたの。」
横から露の声が聞こえた。
「露さん…なんでここいるんですか?ここ、俺の家ですけど。」
「まぁまぁ、いいじゃないの。それに、これから君にとって、私がここにいることはどうでも良いことになる。」
「どういうことですか?」
まだ内容が掴めない。
だが、彼女がここにいるということはろくなことではなさそうだ。
ニヤリと笑い、智慧に問う。
「君は、『裏・決闘大会』を知っているかい?」
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