なんでも屋 三億円

桜咲 枕

なんでも屋 三億円

若い会社員の男、米田は部長の黒宮とともに一風変わった店に来ていた。

店の品揃えは実に雑多であり、テディベアのぬいぐるみから年季の入った急須までなんでもござれといった様子だった。

「黒宮さん、なんでも屋っていうのは本当にここにある全部が商品ってことなんですか?」

「そうよ、米田くん。たとえばほら、あの本棚をみなさい」 

本棚には、人を容易に撲殺できそうな辞典や幼心を思い出させる絵本。小難しい文庫本が並ぶ。

「品揃えが豊富なんですねぇ。いやしかし、このくらいの中古ショップなら僕の地元にも何件かありましたよ」

「バカね、よくみなさい」

「んーーっ?」

よぉく見てみると、本棚から値札がぴろり、ぶら下がっていた。

値札には、「本棚 三千円」と印刷されていた。

「へぇー、これはつまり、商品棚を含めて売り物ってわけなんですね…ん、つまり……?」

米田は辺りを見回した。さっきまで気づかなかったが、時計にもレジにも値札はついていた。

「おもしろいでしょう?米田くん」

「えぇ、えぇ。これはいいなぁ。ユーモアがある」

店の中ではアルバイトと思われる若い女性があくせく働いていた。ポニーテールがよく似合う女性だったため、米田はつい目で追ってしまった。

「米田くん、何考えているのかしら」

「あいや、すいません。なんとなく、美人だなぁっと」

「ふふっ、冗談よ。そうだ、気に入ったなら買ってみれば?」

「えっ、それはどういう……」

世話しなく動く女。揺れるポニーテールと、あれ、なんかくっついているぞ。値札か?なんの値札だ…。あっ、わかった。服の値段だな。どれどれ…

「成人女 五百万円」

「ええっ!人が売り物にっ……」

おもわず、口をあんぐりとあけた。

「そう、初めは私も衝撃だったわ。この店、従業員も買えてしまうの」

「ジョークですよねぇ。さすがに、だ、だって人身売買じゃないですか」

「それが、ここではそんな無茶苦茶がまかり通ってしまうのよねぇ」

黒宮は何が面白いのか、ニヤリと笑みを浮かべた。

「それで、今日は私の買い物に付き合ってもらうわよ」

「あぁ、そういえばそんな用でしたね」

黒宮はメルヘンを醸し出すオルゴールを手にとって会計に向かった。なぜか、米田の手を引いて。

米田はドキリ、とした。

「な、なんですかぁ?手なんかつないで。てれちゃうなぁ」

レジ打ちの店員は山籠りの仙人かと思わせる初老のヒゲもじゃだった。

「黒宮さん、毎度ありがとうございます。お会計七万円になります」

「へぇ、そのオルゴール結構するんですねぇ」

米田のジーンズから値札がピロリ。「成人男 五万円」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なんでも屋 三億円 桜咲 枕 @saga2023

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る