94話、今までとは一味違う都市伝説
「私、メリーさん。今、シンプルな野菜炒めを作ろうとしているの」
お昼の十二時前に電話をしたせいか。ハルは出てくれなかったので、いつもの留守電サービスセンターに託してっと。
ハルと会話をしたいのであれば、やっぱり十二時を過ぎてからの方がいいわね。いつも思うけど、これってただの独り言になっている気がするわ。
「さてと。今日は各食材の値段を考慮しつつ、作ってみようかしらね」
今日作るのは、合計金額をなるべく抑えた野菜炒め。目標は、そうね。百五十円以下を目指そう。
「えっと? もやしを一袋でしょ? 余ってた半分のニンジン。キャベツの葉を数枚。タマネギを半分、ピーマンを一個。お肉はいれないとして、ニンニクはどうしようかしら?」
もやし一袋は、二百g入りで二十円。ニンジンは一本、約六十八円だったから、三十四円として。キャベツ一玉は百四十円なので、葉を三枚使うから十円ぐらいでいいわね。
半分にしたタマネギは、四十円前後。ピーマンは一つで三十円。なので、現在おおよそ百三十四円。ニンニクは、確か国産の物を買っていたはず。一粒が大きいし間違いない。
ニンニクって、意外と高いのよね。スーパーで買った国産のニンニクは、三百円しないぐらいだったかしら? 八個付いているから、一欠けら辺り約三十七円。
こう比べてみると、明らかに高い。半分にしたタマネギやニンジンと張っているだなんて。よし、決めた。ニンニクは、ニンニクパウダーを代用しよう。
「それで野菜を炒める前に、調味料を掛け合わせてっと」
使用する調味料は、料理酒を大さじ一。味付けをちょっと濃いめにしたいので、醤油も大さじ一。ソースを大さじ二分の一にして。
鶏ガラスープの素を、小さじ一杯分、小皿に移し。全体を馴染ませつつ、鶏ガラスープの素がダマにならないよう混ぜていく。
残りの調味料は、塩コショウとニンニクパウダーだけれども。この二つは、野菜を炒めている最中に、調節しながら入れていけばいいわね。
「ふふっ。こうやって事前に調味料を作ると、なんだか料理人になった気分ね。私もついに、ここまで来たって感じがするわ」
以前作った、インスタントラーメンと月見うどん。この二つに関しては、野菜を切ったり煮込んだりしたけど、調味料は一切用意していない。
なので今回、とうとう初めて各調味料を用意して、料理を作る前に掛け合わせた事になる。
レシピは、インターネットにあった物を参考にしたけど、なんだかとても感動するわ。
「さあ、野菜を切っていくわよ!」
まずは、半分になった皮付きのニンジンの先っぽを、包丁で少しだけ切り、周りの皮をピーラーで剥いていく。
このピーラーっていうの、皮がスルスル剥けていくわね。私もいつか、ピーラーを使わずに、包丁のみで剥けるようになりたいわ。
「ニンジンは、短冊切りでいいわね」
皮を剥き終えたニンジンを立てて、一cm前後を目安に切っていく。次の工程で薄く切らないといけないけど、食感を残したいので、やや厚めに切ってしまおう。
「で、綺麗に並べて、五mm間隔に切ればいいわね」
本来ここでは、一、二mmを目指して切っていくのよね。奇しくも、小口切りと同じ厚さだ。まあ、多少意識して切っていこっと。
「ニンジンは、これでよし。次はピーマンをっと」
ピーマンは、ヘタの部分を切り落とし、中にある大量の種を取り除かなければならない。動画で何回も観た事があるけど、本当に量が多いのよ。
「うわっ、ビッシリ入ってる」
ピーマンのヘタを切り落として、中を覗いてみれば。これでもかってぐらいに、小さな種が所狭しと詰まっていた。
これだけあると、なんだか捨てるのが勿体ないわね。どうにかして食べられないのかしら? 後で、インターネットで調べてみよう。
「それで、全体を綺麗に水洗いしてっと。ピーマンは、ざく切りでいいわね」
切った部分を下に置き、上から半分に切る。そのまま二等分にしたピーマンを並べ、一cm幅に切っていく。うん、すごく簡単だ。こういうのでいいのよ。
「タマネギも、ざく切りにしちゃおっと」
それも、素早くね。タマネギを切ると、どうやら目が染みて涙が出てくるらしい。切っている最中に泣くのは嫌だし、ピーマンのようにパパっと切らないと。
「……あ、ダメだ。目が染みて……、うう~っ……!」
半分ぐらい切ったら、急に目がシパシパしてきた。タマネギを切っている手を止めて、目を強く瞑ってもシパシパが取れない!
この感覚が、染みるってやつなのね。鼻水も出てくるし、かなり強烈だ! ハルは、いつもこんな感覚を味わいながら切っているんだ。感謝しておかないと……。
「……ふう、やっと取れた。最後は、キャベツね」
「と、とりあえず、ざく切りにしてみようかしら」
キャベツも食感を残したいので、まずは三cm幅を意識して切っていく。切り終えると縦長になってしまったから、そこから真ん中部分を切ってっと。
「よし! 材料を切る作業は、これで終わりね。さあ、炒めていくわよ!」
今回、最も大事な工程に当たる、炒め。野菜は水分が多く含まれているので、それをなるべく飛ばしたいから、火の強さは強火寄りの中火しておけばいいわね。
「まずは、温めたフライパンに油を敷いてっと」
大さじ一杯分の油をフライパンに敷くと、四方に広がっていき、今度は一ヶ所に纏まっていった。よしよし、フライパンが十分熱されている証拠だ。
「最初は、火が通り辛いニンジンとタマネギね」
両手でニンジンとタマネギをすくい、熱くなった油が跳ねないよう、低い場所からフライパンへ落としていく。すると、『ジュワー』という景気のいい音が鳴り出した。
「うん、いい音」
野菜の水分が油と混ざり、『パチパチ』という弾けるような音もしている。
これよ、これ! 私が聞きたかった音は。ああ、ちゃんと料理をしている気分になってきたわ。
「で、全体に油が馴染むよう、木のしゃもじで野菜を動かしてっと」
タマネギは半透明になれば、火が通ってきた証になるけれども。ニンジンって、見た目で判断するのが難しいわね。
まあ、そこは細かく気にしなくてもいいか。まだ他の野菜が残っているし、そのうち火は通ってくれるでしょう。
「あ、なんだか甘い匂いがしてきたかも」
油っぽい煙の中に、食欲をそそる甘い匂いが含まれてきた。二つの異なる甘い匂いがするけど、タマネギの甘さが優勢かもしれない。
そのタマネギも、少しずつ透明度が高くなってきた事だし。そろそろ、他の野菜を入れる頃合いね。入れる順番は、キャベツ、ピーマン。
そして、フライパンを二、三回大きく振り。全体が上手く混ざった所を見計らい、最後のもやしを投入した。
「うわぁ~、量が一気に増えたわね」
量がかさ増しした一番の要因は、絶対にキャベツだ。でも、炒めていく内に、だんだん量が減ってきたかも? たぶん、水分が抜けて小さくなったのかしら?
それにしても、なんだか減り過ぎじゃない? さっきの量に目が慣れてしまったから、余計に少なく見えてしまう。
「おっと、味付けをしないと」
掛け合わせた調味料は、完成する前に入れるとして。まずは、塩コショウをパッパッと大きく二振り。次に、香りが立つよう、ニンニクパウダーを少し多めに入れた。
「わあっ、香りも一気に強くなった」
特に目立つのが、ニンニクパウダーの香り。やはり、味の主張も強ければ、匂いもガツンとくる。
流石はニンニクと言った所ね。パウダー状になろうとも、その特性はまったく失われていない。
食欲を直接殴り付けてくる、ニンニクの誘惑を振り払いつつ、更に炒めていく。数分すると、固くて白かったもやしも、だんだん透明になってきて、柔らかくなってきた。
「さ~て、仕上げの味付けをするわよ!」
ここは、フライパンの鍋肌から回し入れたい所だけども。焦げるのが怖いので、火を弱火寄りの中火まで調節して、真ん中へ入れてしまおう。
「さあ、ここからは時間との勝負よ。よいしょ、よいしょ!」
やはり焦げるのが怖いから、野菜全体に調味料を馴染ませる事を意識しながら、フライパンを何度も大きく振り、しゃもじで野菜を混ぜていく。
フライパンを振る度に、ソースのフルーティーでコク深い匂いが辺りに広がっていく。ああ、とても良い匂い。ご飯と合う匂いをしているわ。
それに意外と、上手くフライパンを振れているじゃない、私。この要領で、チャーハンだって作れるんじゃないの? 今度、余ったご飯を使って作ってみようかしらね。
「よし、そろそろいいわね」
掛け合わせた調味料の色が、炒めた野菜に満遍なく移っている事を確認し、零れ落ちないようお皿に盛り付ける。
最終的に、ちょうどいい量に収まったわね。大盛りのご飯をよそっても、ペロリと完食出来てしまいそうだ。
「うん、見た目は完璧じゃない! さてと、タブレットで写真を撮って、早速食べるわよ!」
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