90話、ふわふわあまあま四件目
「メニュー表で見た物と、形が全然違うけど。これまた、すごいボリュームね」
「こうやって包まれた感じが、クレープ本来の形だからね。いやぁ~、めっちゃ美味そうじゃん」
『ゲンカツギーフライドチキン』で、『ジェライプ』というクレープ屋のメニュー表を眺め。二十分ぐらい掛けて食べたいクレープを決めて、お店に来て注文してみたけれども。
インターネットに載っていた絵は、平べったい生地を敷き、その上にクリームやフルーツが乗っていたのに対し。実物は、手で持ちやすいよう、綺麗に包まれている。
私が選んだのは、ボリューム満点な『いちごクリームチョコ』。上から覗いてみれば、真っ白でふわふわなクリームの上に、チョコソースと一口大にカットされたイチゴが見える。
ハルが選んだのは、確か『バナナクリームチョコ』だったわよね。対面に座ったハルのクレープから、バナナの甘い匂いが漂ってくるわ。
「それにしても。まさか、この店もタピオカドリンクを扱ってたとはね。思わず買っちゃったや」
「そうね。初めて飲むから、ちょっと楽しみだわ」
インターネットで見ていたのは、クレープの欄だけだったので。お店に来てから初めて、タピオカドリンクの存在に気付いたのよね。
私は『ミルクティー』で、ハルは『抹茶ミルクティー』なる物をチョイスした。私のミルクティーは、なんだかカフェオレみたいな色をしている。
ハルの抹茶ミルクティーは、全体的に薄っすらと緑色っぽい。抹茶の味が気になるから、後で一口貰おっと。
「ねえ、ハル。クレープって、どこから食べればいいの?」
「普通は、斜め上から横に食べてく感じかな? 真上からど真ん中を噛りついたら、両頬にクリームがべったりくっ付いちゃうよ」
「そう。じゃあ、そうやって食べようかしらね」
よかった、先に聞いておいて。もし両頬にクリームを付けた状態で、ハルに顔を合わせたら、間違いなく笑われていたわ。
「そうした方がいいね。そんじゃ、食べますか。いただきまーす」
「いただきます」
食事の挨拶を交わし、クレープを両手でそっと持つ。持ってみた感じ、包み紙から伝わってくる感触は、ぷにぷにとしていて柔らかい。
でも、中身がしっかり詰まっているのか。それなりに重さを感じる。これは、食べ応えもありそうね。さあ、初めてのクレープ。味わって食べるわよ!
「う~ん! あっまぁ~い~」
まず初めに感じたのは、黄色い生地のもちもちとした食感。この生地、思っていたよりも甘味とコクが強いから、結構な量の卵を使用していそうだ。
それにしても、ふわふわとしたクリームの濃密な甘さもさる事ながら。後から湧いてくるチョコの風味も、なかなかどうして負けていない。
チョコって、すごく甘いとばかり想像していたのに。やや苦みを含んだビターな甘さなのね。だからこそ、全体の重い甘さを調節してくれて、口当たりを軽くしてくれていっている。
そして、更にバランスを整えてくれるのが、みずみずしさを兼ね揃えたイチゴの爽やかな甘さと、その甘さをキュッと引き締める程よい酸味!
イチゴの存在と、出てくる風味の順番が絶妙ね。クレープのコク深い甘み。クリームの濃密な甘さ。怒涛の甘さを控えめに落としてくれる、チョコのビターな甘さ。
クレープ、クリーム、チョコの甘さを綺麗に纏めてくれる、イチゴの爽やかな甘味と酸味。最後にイチゴが出てきてくれるからこそ、このおいしさに辿り着くのよ。
「おいひい~っ」
「クリームの量が多いから、つい頬張りたくなっちゃうんだよね。ああ~、うんまっ」
にんまりとしたハルの両頬が、まるでリスのようにぷっくらと膨らんでいる。
いくらなんでも、頬張り過ぎじゃない? 持っているクレープが、もう半分以上減っているわ。
「さてと、タピオカを飲んでみようかしらね」
容器の底に沈んでいる、黒い粒々よ。一つ一つが、まあまあ大きい。一体、どんな食感がするんだろう? とりあえず、喉の奥まで行かないように、ゆっくり飲んでみよう。
「あら、ぷにぷにとした弾力があるじゃない。へぇ~、楽しい食感ね」
太いストローを咥えて、タピオカを一つだけ口に含んでみた。そのまま、上顎と舌でやんわり挟んでみたけれども。柔らかいながらも、しなやかな弾力があるわね。
何度押しても、形はちゃんと戻っていく。でも、噛んだら意外とすんなり崩れてしまった。タピオカ自体の味は、ほぼ無味かしら?
ミルクティーを先に飲んで、味をしっかり確かめてみたけど、やはり味は分からない。たぶん、味付けがされていないのかも?
ミルクティーの方は、これまた紅茶感が強いわね。甘さは控えめでミルクのコクを感じ、紅茶独特の上品な渋みも後から出てくる。
ミルクと紅茶って、ここまで合うんだ。クレープの多種多様な甘さとも合っているし、意外だわ。でも、飲みやすくて好きかもしれない。
「タピオカドリンクって、小腹がすいてる時にいいかもしれないわね。おいしい」
「そうだね。ガッツリとはまでいかないけど、なんか食べたいなーって時に、オススメかな。味も美味しいでしょ?」
「そうね。クレープの甘さと合う紅茶感があって、私は好きだわ」
「紅茶感ねえ~。そうだっ」
何かを思い付いたであろうハルが、口角を緩く上げる。
「ケーキを買ってくついでに、紅茶も買ってく?」
「あら、いいわね。じゃあ、ダージリンを飲んでみたいわ」
「ダージリンね、オッケー。それなら、牛乳も買い足しておこっかな」
『ミスドーナツ』で初めて飲み、とても気に入ったダージリン。しかし、アールグレイとジャスミンティーも捨て難い。
どうしよう。味を思い出したら、また飲みたくなってきちゃった。ケーキは、一体どんな紅茶と合うんだろう? ハルの家に帰ったら、タブレットで調べてみよっと。
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