89話、お土産として

「はぁ~っ、おいしかったぁ~」


「ふうっ。これ以上は、もう厳しいかなぁ。いやぁ~、食った食ったぁ」


 私とハル、おかわりを二回ずつして、合計十個以上のチキンを食べたかしら。ちゃんと『サイ』も何回か食べられたし、とても満足したわ。

 本当においしかったなぁ。がっしりとした食べ応えがあり、ジューシーな脂身が病みつきになる『サイ』。プリプリとしていながらも、濃厚な味を堪能出来た『ウイング』。

 小骨が多かったけど、そこに深いコクが待ち構えていた『リブ』。さっぱりとした味わいで、後半からかなりお世話になった『キール』。

 そして、いつまでもおいしく食べられて、まったく飽きが来なかった『ドラム』。五種類の部位全てに異なった個性があり、どれもすごくおいしかった。


「流石に、口が疲れてきたかな。メリーさん。次のお店を決めるがてらに、少し休憩しない?」


「そうね。ちなみに、今は何時なの?」


「えっとね~。一時ちょい過ぎぐらいだね」


「あら、もうそんなに経ってるのね」


 『ゲンカツギーフライドチキン』に着いたのは、十一時四十分ぐらいだったはず。だから、一時間以上もここで滞在していた事になる。

 体感的に、時間はそんな経っていないと思っていたのに。夢中になって食べていたせいかしら? それにしても、時が経つのが早く感じるわ。


「三十分ぐらいしか経ってないと思ってたけど、意外と進んでたや。マジか~。これだと、あと行けて一、二件ぐらいかな?」


「お腹の具合的に、もう主食級は厳しいわね」


「そうだね。なら、次行くとしたら、アイスやクレープといったデザート系かな」


 デザート系。ハルが置いてきたスマホに載っているお店を、ザッと見た感じ、十件ぐらいありそうだ。『ミスドーナツ』は先ほど行ったので、除外するとして。洋食とパフェが食べられるお店でしょ?

 カフェや喫茶店といったお店が三件。クレープとタピオカを取り扱ったお店が二件。有名なケーキ屋があれば、アイスクリーム店、和菓子専門店などもある。

 さて、どうしよう。店名や商品名を見れば、頭に絵が浮かぶぐらいの知識はあるものの。デザート系って、ほとんど食べた事がないから、味の想像がつかないのよね。


「デザートを取り扱った店も、これまたいっぱいあるね」


「ハル。私はアイスとゼリー以外食べた事がないから、決められそうにないわ。だから、あんたが決めてちょうだい」


「マジで? 責任重大じゃん。ええ~、どうしよっかな~? こう眺めてるとさ、全部食べたくなってくるんだよね」


「そうなのよねぇ」


 ふわふわしていそうな生クリームが、何段も積み重なったパフェ。柔らかそうな黄色い生地に包まれて、これまた生クリームがたっぷり乗ったクレープ。

 食感が楽しいとよく聞く、黒い粒々のタピオカ。大きくて赤いイチゴが食欲をそそる、イチゴのショートケーキ。色とりどりで鮮やかな見た目が美しい、アイスクリーム。

 粒あん、すりおろした黒ゴマ、きなこがこれでもかってぐらいにまぶされた、おはぎなどなど。味は分からないけど、画像を見ていると全部食べたくなってくるわね。


「和菓子専門店は、商店街にあるから省くとして。ケーキは、持ち帰って家で食べたいな」


「じゃあ、帰りに買うの?」


「んっ、メリーさん。ケーキ食べたい感じ?」


「えと。食べられるなら、食べてみたいわ」


「オッケー。じゃあ、帰りに寄っていきますか」


「そう、ありがとう」


 やった! これで、ケーキをハルの部屋で食べられるようなったわ! これは思わぬ収穫だ。さり気なく言ってみるものね。


「だとしたら、アイスかクレープの二択かな?」


「あら、タピオカは省くのね」


「うん。料理学校の近くに、タピオカドリンクを扱ってる店があってね。帰りとかに寄って飲んでるんだ」


「へえ、そうなのね」


 これは、ハルも意外と食べ歩きをしていそうね。一体ハルは、何を食べているんだろう? ちょっと気になってきたかも。


「ちなみに、それ以外にも飲み食いをしてるの?」


「ああ、してるよ。駅の構内に、美味しいシュークリーム屋があるんだ。それもよく食べてるし、コンビニなんかでアイスを買ったりしてるかな」


「へぇ~、いいなぁ」


 意外とじゃなくて、かなりしているじゃない。コンビニ自体は、商店街を少し行った先にあるけども。シュークリーム屋は、駅前や周辺にも無いわね。


「なら今度、お土産に買ってきてあげよっか?」


「え? いいの?」


「うん、全然いいよ。週に一、二回ぐらいの頻度で買ってくるから、楽しみに待っててね」


「……あら、そう。なら、楽しみにしてるわね」


 催促するつもりで、言った訳じゃないのに。どうしよう、すごく楽しみになってきちゃった。

 私も、その内ハルが食べているシュークリームを、食べられるようになるんだ。なんだか嬉しいなぁ。


「そうだ。ねえ、ハル。それだったら、アイスも省けるんじゃない?」


「あ、言われてみればそうだ。なら、次はクレープにする?」


「私は構わないけど。クレープ屋は、料理学校の近くにないの?」


「駅から逆の方向に歩いていけば、あるっちゃあるんだけどさ。まあまあ遠い場所にあるから、どうしてもクレープが食べたいって時にしか、行かないかなー」


 そう言ったハルが、ストローを咥え、ペプッシコーラを飲み出した。一応、クレープ屋もあるんだ。料理学校の周辺には、色んなお店がありそうね。


「そう。じゃあとりあえず、次のお店はクレープ屋で決まりね」


「オッケー。一応、ネットで調べればメニューが見れるけど、先に見とく?」


「あ、ネットでも見れるんだ。だったら、今の内に食べる物を決めておきましょ」


「りょーかい。さあさあ、どんなクレープがあるかなーっと」


 ほんと、インターネットってすごいわね。『ゲンカツギーフライドチキン』に居るというのに、別のお店にあるメニュー表まで見れてしまうんだから。

 店内の席は、あまり混んでいないみたいだし。周りの混み具合を考慮しつつ、次に食べる予定のクレープを、ゆっくり決めていこっと。

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