私、メリーさん。今、あなたと色んな物を食べているの

５９話、旬物はそれぞれの季節に食べていく

「はい、メリーさん。おかわりのご飯だよー」

「ありがとう」

　私の前にお茶碗を置いてくれたハルが、対面に座った。気持ち多めのご飯が来た事だし、次は何を食べようかしら。

　まだ食べていないのは、エビフライ、アジフライ、イカフライ、オニオンリング、ハムカツの五種類。エビフライは最後に食べるとして。

　ハムカツを食べてしまうと、先のウィンナーフライで肉と肉が被るので、比較的サッパリしていそうなイカフライ、オニオンリングを攻めてみよう。

「それじゃあ、オニオンリングの方から」

　箸で持った感じ、重さはあまり無い。オニオンリングだけ衣が天ぷらっぽく、ふわふわな見た目をしている。この衣、妙においしそうね。

「んっ、甘い！」

　ふわふわでサクサクの軽めな食感の衣とは相反し。中にあったリング状の玉ねぎは、肉厚でシャキッとした確かな歯応えを感じる。

　そして、衣に閉じ込められていた玉ネギ。火が通っているのでエグみや辛味が無く、果物のような濃い甘さがじゅわりと溢れ出てきた。

　それに、衣。事前に塩でもまぶしてあるのか、塩味が利いているわね。だからこそ、玉ネギの甘さがより際立ち、重みを感じさせないサッパリとした風味に変わっていく。

「うん。一つが軽いから、何個でも食べられそうだわ」

「おおっ、我ながら美味しく作れたじゃないの。塩加減もバッチリだし、ご飯が進むや」

　ニコニコしながらご飯をかき込んでいたハルが、急に立ち上がり、台所へ歩いていった。どうやら、ハルもご飯のおかわりをしに行ったようね。

「私も負けてられないわね。次は、イカフライをっと」

　縦長な長方形だけども、厚い衣が覆っているので、箸で持ってもしならない。もちろん一口目は、ソースを付けない食べるわよ。

「うわっ、すごい弾力」

　決して食べられるもんかと歯を押し返してくる、しなやかな弾力よ。力を込めて噛み切ったけれども、中は案外柔らかいのね。

　イカ自体の味は、衣の油っこさが分かるほど淡泊。しかし、噛み進めていく内に、絶妙な塩味を含んだ旨味がじわじわと滲み出してきた。

　この塩味と旨味、ご飯よりも油っこい衣と合うわね。ソースを付けても、やはりイカフライ単体で楽しみたい風味のままだ。

　今までは、おかずを食べたらご飯に行くのが当たり前の流れだったから、なんだか新鮮な気持ちになってくるわ。

「メリーさん、無心でイカフライを噛んでるね」

「味が薄れるのを待ってるんだけど、ずっとおいしいから飲み込めないのよ」

「ああ、なるほど。気持ちは分かるけど、噛み過ぎてアゴを痛めないようにしなよ？」

「むっ……」

　確かに、私は一度スルメイカでやらかしている。まだ味が出てきているけど、次が食べられないから飲み込まないと。ああ、勿体ない……。

「次は、ハムカツにしようかしらね」

　途端に物寂しくなった口を盛り上げるべく、ずっしりと重いハムカツをチョイス。

　厚さは、ハルが作った揚げ物の中で断トツだ。インパクトもあり、見るからに食べ応えがありそう。

「んん～っ、ジューシー……！」

　食感は言わずもがな！　分厚いハムを噛み切れば、飾り気の無いハムの肉肉しい味が、衣の油を跳ね除けてダイレクトに伝わってくる！

　とにかく厚いから、一口に対する満足感もすごい。この肉厚ゆえに生まれるであろう、ブリンブリンな弾力感がたまらないわぁ。

　ハムカツも、イカフライみたいにずっと噛んでいたいかも。けれども、ハムカツは衣の油が絡んでも決して屈しず、噛む度にジューシーさが増していくので、ご飯がやたらと欲しくなってしまう。

「ああ、ご飯と合っておいひい……」

「極厚にしてみたんだけど、これヤバいなぁ。めっちゃ美味いじゃん」

「あんたが作った料理なのよ？　おいしいに決まってるじゃない」

「マジで？　もはや決定事項なの？　……そう言われると、なんだか嬉しいなぁ」

　頬を若干赤らめたハルが、照れ笑いしながら鼻の舌を指で擦った。今私がサラリと言ったのは、噓なんかじゃない。心の奥底から出した本音だ。

　ハルの料理には、絶対の信頼を寄せている。どの料理も、必ず私の舌を唸らせてくれるとね。

　もう、料理が出てきただけで分かるわ。今日も安心して『おいしい』と言えて、ハルに負けるんだと。

「そうね、決定事項みたいなものだわ。このアジフライだって……、んん～っ、身がふわっふわ」

　固くてザクザクとした荒々しい衣を、一気に噛んでしまえば。肉厚なのにとても柔らかく、ふっくらとした身が待っていた。

　クセと生臭さが皆無で、衣の油とは異なった甘い脂が程よく乗っている。骨らしい骨も無く、気にせずガツガツと食べ進められるわ。

　それにアジフライって、ソースもよく合うけど、口当たりを更に軽くしてくれる、酸味が利いたタルタルソースも合うわね。

　このタルタルソースの中に、コリコリとした楽しい食感の物があるけども。これがピクルスってやつかしら？　初めて食べたけど、箸休めとして食べるのも悪くない。

　こってりしたマヨネーズの風味を、酸っぱいと感じない程度の酸味が和らげてくれるから、タルタルソース単体でも十分おいしい。

　よし。口の中が油まみれになってきたら、お味噌汁と併用して口を休めていこう。

「……そういえば、アジも初めて食べたわね」

「旬は、もうちょい先だけど。今でも美味しいでしょ？」

「そうね。脂が乗ってておいしいわ」

　魚の生臭さも平気だったし。この調子なら、なんでも食べられそうね。だったら、食べた事のない料理や食材を纏めて、後でハルにリクエストしておこっと。

「そっか、よかった。これだったら、魚介類は全部食べられそうだね」

「たぶんね。貝類は全て除外してあるから、海の幸は大体食べられると思うわよ」

「そういや、そうだった。だとすれば、後は山の幸ぐらいかな？」

　山の幸。確かに、キノコ類とか山芋は、まだ一度も食べた事が無い。だからこそ、味の想像がまったく出来ないのよ。

　キノコ類って、おいしいのかしら？　見た目からでは、味の想像がまったくつかないし……。なんだか、夕食に食べるが怖いわね。

「ねえ、ハル？　キノコって、どんな味がするの？」

「キノコかぁ。種類によって味が全然違うから、一概とは言えないなぁ。質問してきたって事は、興味がある感じ？」

「いえ、今は無いわ。どんな味なのか気になっただけだから、忘れてちょうだい」

「ああ、そうなんだ。じゃあ、夕食にはまだ出さなくていいね」

「そうしてちょうだい」

　そうだ。魚も種類によって味が違うように、キノコだって味が違ってくる。どうしよう、イマイチ興味が湧いてこないわ。

　初めて聞いた料理とか食材は、決まって興味が湧いてきたというのに。もしかしたら、私に合っていない可能性がある。

　キノコの旬は、秋頃だったっけ？　一番おいしく食べられる季節に食べてみたいし、当分の間は避けておきましょう。

「それじゃあ、最後にエビフライをっと」

　まだ衣が油を吸い切っておらず、カリカリ感が健在なエビフライを箸で持つ。合計で八本あるので、最初は何も付けないで。次にソース、締めでタルタルソースの順番で食べよう。

「ほわっ……。プリプリなのに、とろけていくぅ～……」

　軽く噛むと、歯を押し返す弾力があるというのに。噛み砕いていくと、まるで雪のようにとろけていき、衣を残してスッと消えていった。

　けれども、溶けるように消えた身は、全て濃い塩味を含んだ旨味に変わり、早くご飯を寄こせと口がせがんでくる。このしょっぱく感じる塩味が、また曲者だ。

　だって、まだソースを付けていない状態だというのに、ご飯がバクバク進むのよ？　油断すると、エビフライ二本で、お茶碗一杯分を完食してしまいそうだわ。

「はぁ～っ……。エビフライもおいひい～」

「おお、このエビ当たりじゃん。めっちゃうまっ」

　エビフライを作った本人も、目を丸くしながら絶賛し、タルタルソースを付けて食べていく。……どうしよう。何も付けずに食べたいっていうのに、残り二本しかない。

　こうなると、ソースとタルタルソースで一本ずつ食べざるを得ないわね。よし、決めた。エビフライの味を忘れた頃にでも、ハルにリクエストしておこう。

　それも、十本や二十本と大量にね。そうすれば、色んな味でエビフライを楽しめる。なので今日は、何も付けずに堪能していくわよ！