26歳の夏

jacobs

第1話淡井さん

たばこにジッと灯をつける。そのまま低反発枕に仰向けに転がって反り返った頭のまま目を閉じた。2週間前のソロキャンプ。楽しかった森林浴。夜中8時頃、割りと好きだけど普段聴かないアーティストがパーソナリティのラジオ。渾身のラグジュアリソングを流している。好みもないから聴きはじめてすぐちょろいもので胸をじんわりさせる。メタ情報も悪くないよな。タイムフリーでもう一度聴く。理由は蛍だった。

寝袋に横になりながら音を聴いて赤点滅する飛行機を見ていた。黄色い光が横切る。もう彼岸も過ぎたのに。気温の低い高地にはまだいたんだ。瞬間脳裏に川いっぱいのホタルの群れがフラッシュバックした。小2の夏、家の前のほたるの里と呼ばれる川。黄緑の光たちがゆりかもめの夜景のようにそこにあった。こんな場所に、ホタル、いるんだ。私のホタルは西表島の天の川銀河と同じ感受をするのだということが、わかった。

頭が冴え渡った。氷で冷えた辛口のレモンサワーが体に染み込む。

この点々とした家屋の光の中で人は営みを行っている。今私はしんでいるんだ。その心地よさに目を瞑る。

夕日の沈んだディープグレーの部屋の中で淡井さんのことを考えていた。

「あなたは特別ではない。守るべき人だから。僕は素敵だと思うんですよ。」

淡井さんはこの町でうちと東西正反対の場所にある。

息子さんは名田高校へ通う秀才だった。

この鳳凰の守るこの町で。東西を私達は守って生きてきた。

言葉にも表すことはできない。

石碑に野花を供えた。

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26歳の夏 jacobs @jacobs

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