第6話 敏明 ~さよなら人生~5

「――――!ガッ、カハッ!!」


 尋常ではない息苦しさに、目が覚める。

 同時に知覚する、喉への圧迫感と腹部への重み。


 俺の上に人が乗っていて、首を絞めていることを理解したのはすぐだった。そして、それをやっているのが親父だということも。


「敏明、すまんなあ。こんな方法しか私には選べなかった。お前が世間や人様を食い物にする『人でなし』になる前に、親として止めてやらねばならん」


「ガ、グッ!…ンンッ!!」

 息が吸えない。跳ねのけようにも、俺の手は布団ごと親父の両ひざの間に胴と一緒に締め上げられ、動かすことができない。


 親父は高齢者とは思えない、万力のような力で俺を締め続ける。

(ダメだ、このままじゃ死ぬ……。お袋、お袋に知らせて!)

 首をよじって、何とか声を出す余地を作ろうともがく。すると、視界の端でお袋と目が合った。


(お袋?横に居るじゃねえか!何で止めない!?)

 お袋は枕元に正座して、俺を静かに見つめていた。何も喋らない。ただ、静かに。悲しげな表情の中の、優しい眼で俺を見ていた。


 ――――ポタッ。

 俺の頬に水滴が落ちる。

 親父は、涙を流しながら、俺の首を絞めていた。


 涙の有無はあれど、小さいころ、俺を叱ったときの、厳しくも優しい、あの顔だった。遠い昔、何度も見た、俺が親父やお袋の、愛情を…素直に、受けていたころ、……見た。


 俺の意識に、両親との思い出が次々と現れ、消えてゆく。


「心配するな、私らもすぐにいく」


 首に感じる、ゴツゴツとした親父の手。

 現場で鍛えられて、節くれだって皮も厚くて、爪も分厚い、

 綺れいじゃないけど、恰好、いい おとこ の て。


 ぼく が  だいすき、だった  おとうさ   の、…………―――――――

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