―21― 企み

 それからしばらくして、モンスターの軍勢が現れた。

 見たことがないモンスターだが、鑑定結果によると、どのモンスターも最弱のFランクらしい。

 CランクやDランクの探索者たちの敵ではないようで、彼らはあっさりとモンスターを撃破していく。

 さすがだ。


「あの、モンスターの肉は回収しないんですか?」


 ふと、床に転がっているモンスターの肉を見て、オレは疑問を感じた。

 彼らは魔石だけ回収して、それ以外の肉を放っておいたのだ。


「あん? こいつらの素材って魔石以外も価値あるんだっけ?」


「いや、換金しても金にならねぇぜ」


 武田さんと山田さんが相談を始めた。


「まぁ、でもFランクだとオレたちに価値がないやつでもほしいのかもな。いいぜ、好きに持って行けよ。その代わり、他の報酬はなしでいいか?」


 武田さんがオレに提案してくる。


「オレはそれでかまいません」


 どうせ、ここはFランクダンジョンだし、魔石は大した額にならない。だったら、腹を満たせる肉を手に入れるほうがオレとしてはありがたい。


「それで、決まりな!」


 武田さんはそう言うと、山田さんと軽くハイタッチしていた。


 許可をもらったことだし、早速モンスターの肉を袋につめていく。

 たくさん持って帰らないとな。


「どうしてこんなにおいしいのに、オレに全部わけてくれるんだろう」


 もしかして、彼らはめちゃくちゃいい人たちなのかも。


『それは、一般的にモンスターのお肉はまずいとされているからですよ』


 ふと、鑑定スキルが答えてくれた。


「えっ? でも、探索者ってモンスターをお肉をよく食べるって以前言っていただろ」


『それは、食料が不足する何日間にも渡るダンジョン攻略の際の話です。今回のダンジョン攻略は半日もかからない日程です。なので、わさわざおいしくないモンスターのお肉を食べる必要はありません。ご主人様はモンスターのお肉の食べ過ぎにより、味覚に異常が発生したようですが』


「マジか……、そういうことかよ」


 確かに、はじめの頃はモンスターの肉を食べるたびに吐いていたもんな。探索者がいくらすごい人たちの集まりだからといって、わざわざ進んで苦行はしないか。

 それに、モンスターの肉食べれば、スキルも手に入るし、いいことしかないと思ってたけど、彼らはCかDランク探索者のようだし、すでに有用なスキルをたくさん持っているだろうし、わざわざスキルを求めないか。


「オレおかしな病気とかになっていないよな」


 ちょっとだけ自分の体が心配だ。

 とか思いつつ、お肉を見ていると喉の奥からよだれがでてきたので、パクリと一口だけ生でいただく。生だとちっょと硬いけど、これはこれでうまい。


「あの、なにをやっているんですか?」


 ふと、見上げると、女子高生らしき女の子に話しかけられた。

 黒髪ロングストレートで、清楚そうな見た目をしている女の子だ。

 思い出す。山田さんが言っていたオレと同じ数合わせの一人。


「そろそろ行かないと、追いてかれてしまいますよ」


 見ると、オレがモンスターの肉を集めている間に、武田さんたちがモンスターを倒し終えたようで、先に進もうとしていた。


「あぁ、悪い」


 慌てて彼らに追いつこうとする。

 まだ回収しきれてないモンスターのお肉があるけど、流石に歩調をあわせないまずいよな。うぅ、本当は回収したいけど。


「さっきちらりと聞いたんですけど、Fランクなんですよね」


「そうだが」


「こういうこと聞くのは失礼かもしれませんが、その、なんでFランクなのに探索者をやっているんですか」


 物珍しそうなものを見るような目を彼女はしていた。やはり、Fランクで探索者をしているのは珍しいんだな。


「えっと……」


 そんなこと聞かれても答えに窮する。だって、好き好んでやっているというよりかは、今夜の食材を確保するために仕方なく参加しているだけだし。


「その、モンスターが好きだから」


 そう、モンスターの肉ってたまらなくうまいんだよなぁ。


「そうなんですね……」


 納得してないのか彼女は眉をひそめていた。


「あ、そうだ、まだ自己紹介をしていませんでした。わたし、彩雲堂さいうんどう由紀ゆきと言います」


「オレは雨奏カナタ」


「はい、よろしくおねがいします」


「あぁ、よろしく」


 オレが返事をすると、彼女は前を向いてオレよりも早く歩いて先に行こうとする。会話を切り上げてモンスターの討伐に集中するつもりらしい。


「あぁ、そうでした。一つ言い忘れてました」


 ふと、なにか思い出したとばかりにオレのほうに振り向いた。


「雨奏さん、もっと警戒したほうがいいと思います。今の雨奏さん、少し目立っているので、下手したら良からぬ考えを持っている人たちに襲われちゃうかもです。その、この界隈は思っているよりもきな臭いので」


 オレが目立っている? なんでだ?


「えっと、ちなみに彩雲堂さんはランクいくつなんだ?」


「わたしはCランクですよ」


 めっちゃ格上じゃん。

 よしっ、よくわからんけど、彼女の言うことは聞いたほうがよさそうだ。がんばって警戒するぞ。


「おい、見ろよ。あそこにボスがいるぜ」


 誰かがそう言って指さした先に、雷をまとった鷲に似た大きな鳥がいた。


「鑑定してくれ」


『鑑定結果、モンスター名〈ライトニングバード〉。Fランクです』


 ボスといってもFランクか。大したことないな。

 まぁ、このダンジョンもFランクだし、妥当といったところか。

 ライトニングバードは遠くにいて、まだこちらの存在には気がついていない様子。


「それじゃあ、オレたちで討伐するから、あんたら二人はそこで待っていてくれ」


 リーダーの武田さんがオレと彩雲堂さんにそう指示を出す。


「わかりました」


 オレと彩雲堂さんがうなずくと、武田さんたち四人はライトニングバードへと向かった。


「どうやらわたしたちに手柄を横取りされたくないみたいですね」


 彩雲堂さんが苦笑していた。

 なるほど、数合わせで参加するとこういうこともあるのか。オレとしてはモンスターに肉を手に入れられる約束をしたので、特に文句はないのだけど。



「おい、あのFランクのガキが持っている剣を見たか?」


 武田龍一たち四人がライトニングバードへ向かっている道中、山田浩二が口を開いた。


「あぁ、見たぜ。あの剣、どう見ても価値がありそうだけど、なんでFランクのガキがあんな剣を持ってるんだよ」


「あぁ、そう思って剣を鑑定してみたらよ、鑑定阻害されたわ」


「鑑定阻害だと?」


 一人が驚いた様子で口を開く。


「鑑定阻害されるってことは最低でもBランク、いや、Aランクはあってもおかしくないか」


「いや、さっき調べてたみたけど、検索には出てこなかった。下手したらSランクはあるかもしれん」


「へー、じゃあ最低でも市場価値は1000万はあるってわけか」


「いや、Sランクなら一億とかするって聞いたことあるぜ」


「マジか。それは流石に、見逃すのはもったいないな」


 淡々と彼らの中で話が進んでいく。


「てか、なんでFランクのガキがそんないいの持ってんだ?」


「そりゃあ、親が金持ちで買ってもらったんだろ。いるんだよなぁ、たまにそういうボンボンみたいなやつが」


「あぁ、だから、Fランクのくせして探索者なんてやっているのか。金の力でランクの差を埋めるってか、うけるな」


「よし、じゃあ奪うか。Fランクの探索者だし、余裕だろ」


 武田龍一が唐突にそう決めた。

 ダンジョン内での犯罪が世間に露呈されることは少ない。そのため、こういった犯罪行為は頻繁に起きる。


「でも、隣の女はどうします? Cランクみたいだし抵抗されたら面倒では」


「Cランクって言ってもあの見た目じゃ経験は浅いだろうし、オレたちでかかれば余裕だろ」


「いや、もっといい考えがあるぜ」


 武田龍一がニタリと笑う。


「ボスにあいつらを殺してもらおうぜ」



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