―18― 帰宅

 ハイオーガを倒した途端、なにもなかったはずの壁に扉が現れた。

 どう見ても出口に繋がる扉だ。

 一刻も早く出口に行きたい気持ちはあるが、その前にやることがある。

 まずはハイオーガの魔石の回収。

 地面に転がっていた魔石にポケットに入れる。

 それから、ハイオーガの肉はどうしようか。外に出たら、モンスターの肉で腹を満たす必要はないんだよな。

 でも、もったいないし持って帰るか。

 そんなわけでハイオーガに肉をかき集めて袋につめる。

 それから、出口へと向かった。


「おっ、宝箱がある」


 宝箱を見るとテンションがあがるな。きっとダンジョンの攻略報酬だろうから、それなりにいい物が入っているに違いない。

 こんなとこにある宝箱がトラップとは考えづらいので、早速開けてみる。


「おっ、剣が入っている」


 しかも、刀身が黒くずっしりと重い。派手な装飾こそないが、この手に馴染む感じ、きっとこの剣にはなにか特別な力が宿っているに違いない。


「この剣、きっと強い剣だよな!」


『鑑定結果、アイテム名〈貧弱な剣〉。ランクF。市場価格は600円です』


 くそっ、どうせこういうオチなのはわかっていたよ!

 どうせここはFランクダンジョンだし、アイテムだってFランクなのは当たり前だった。



 部屋には、地面に魔法陣のような模様が光っていた。

 きっと外に出ることができる転移陣だろう思って踏んでみる。すると転移陣からより強い光が放たれて、気がつけば外にいた。


「うぉおおおおおおお! オレは帰ってきたぞおおおおおおお!!」


 思わず叫ぶ。

 時刻は深夜だったらしく、空は暗く三日月が昇っていた。


「久々の家だぁー」


 どうしてもテンションがあがってしまうな。

 オレは駆け足で庭と繋がっているバルコニーを開けて、中に入る。よしよし、家の中は前となにも変わっていない。

 とりあえず風呂に入りたいな。

 ダンジョンにいる間は風呂に入れなかったからな。

 多分今のオレはとんでもなく臭いに違いない。

 一応、ダンジョン内にあったため池とかで顔を洗ったりはしていたんだけど。

 そんなわけで欲望赴くままに風呂場に入ってシャワーを浴びた。


「ふぅー、スッキリしたー!」


 とか言いつつ、ガシガシとタオルで頭を拭いて、パジャマに着替える。

 ダンジョンで着ていた一張羅は砂埃で色がくすんでいて汚かったので、ゴミ箱に捨てた。


「さて、パソコンでもつけるか」


 ダンジョンの中にいる間ずっと外界と遮断されていたので、世間ではなにがあったのか一切知らないままだ。

 ついでに、充電切れのまま持ち歩いていたスマホに充電ケーブルに指しつつ、パソコンの電源をつける。


「ふーん、ユニークモンスターが討伐されたんかー」


 ちょうど視界に入ったニュースがダンジョンに関するものだった。

 そもそもユニークモンスターってなんだ? 知ったかぶりでうなずいてみたけど、なにも知らないな。

 まぁ、世の中にはすごい探索者がいるんだろう。

 オレとは住んでいる世界が違いすぎる。


「そういえば、オレってどれだけダンジョンに潜っていたんだ?」


 時計とか持ち歩いていなかったから、どれだけの時間をダンジョンの中で過ごしたかオレは把握できていない。

 体感としては一年以上はダンジョンの中にいた気がする。

 そう考えると、けっこう長いことダンジョンにいたよなー。


「てか、行方不明届けとか出されていたら面倒だな」


 オレの家族はオレが失踪していても気が付かないから大丈夫だろうけど、数少ない友人とか在籍している大学とかは一年以上連絡がとれなければ流石に不審に思うだろう。

 大学とか退学になっていたらどうしよう。

 そう考えると色々とやらなきゃいけないことが多すぎるな。


「えっと……」


 現在の日付を見るが正直ピンとこない。

 オレがダンジョンに潜った日っていつだっけ? 確か……アイドルの華山ハナが婚約発表した日だ。

 うっ、嫌なことを思い出してしまった。

 婚約発表した日はニュースをたどればわかるので、えっと……


「あれ? ダンジョン潜ってから二週間しか経ってないぞ」


 ダンジョンで過ごした時間がたったの二週間のわけがない。

 ということは――ダンジョン内の時間と現実の時間にズレが生じているということだ。そんなことを以前、鑑定スキルも言ってたような気がするし珍しいことではないのだろう。


「結果的に、夏休み中にダンジョンから出ることができたんだな」


 諦めていただけになんだか得した気分だ。

 大学が始まるまでにもうちょっとだけ休みがあるし、それまではぐーたらして過ごすか。



 翌朝、なんとなしに気になって庭に出てみるもダンジョンの穴は消失していた。

 思い出がひとつ消えてしまったみたいで、ちょっとだけセンチメンタルな気分になってしまった。


 Fランク探索者のオレが再びダンジョンに潜ることはもうないんだろうな。









――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

第一章はこれにて終了です。

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