(ちょこっと短い話)同窓会な、ミステリー。家に帰ってからもまた、ミステリー。

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 「同窓会を、開きます!」それ聞いたら、いろんな空気が、舞うんだろうなあ。ミステリーにならないように、願います。もう、遅いか。

 同窓会が、おこなわれることになった。

 小学生のときの馴染みの連中が、25年、いや30年ぶりくらいに集まり、顔を合わせる。

 集まる場所は、小学校の、プレハブ教室。

 皆が小学生だったころは、身体測定やらをするときに使われていた場所だ。

 「…座高、いくつだった?」

 「座高って、何センチくらいが標準?」

 「つか、座高っている?」

 なつかしい会話が、思い出される。

 今では、「座高を測った経験があったのかどうか」が、世代を分けるラインにも、なってしまった。

 いろんな思いが渦巻くイベント、同窓会。

 「出席したくない奴も、いるだろうに」

 「だろうな」

 「やっと、小学生のころのいじめとかから解放されて、ホッとできていた奴もいるはずだ」

 「だよな」

 「なのに、同窓会」

 「また、あのいやな集団の中に送り込まれるのかって?」

 「そう感じる奴も、いるさ」

 彼だって、出席する気が進まなかった1人だ。

 彼の事情が、これ。

 「小学生時代のクラスメイトの顔と名前が一致する奴が、ほぼほぼ、いない。気まずくて、出席できない」

 ピンチ。

 大人になって、ようやく飲めるようになった酒のコミュニケーションも、困る。

 「どう、一杯?」

 「あ、どうも」

 「えーっと…」

 「えーっと…」

 相手の名前を言いあって酒を飲み交わしたいのに、その肝心の名前が、出てこない。

 「運動会の、おにぎり殺人ハプニングを、覚えているかい?」

 「ああ、あったねえ。だれかの親が作った毒薬おにぎりを食べた先生が、死んだんだよな?」

 「あいつ、となりのクラスの担任だったっけ?」

 「口から、泡吹いてた」

 「おもらししてた」

 「楽しかったなあ」

 しかし、会話の相手の名前が、思い出せないままだったら?

 同窓会の、恐怖。

 が、負けてはいられない。

 「もう、俺は、変わらなければならないんだ!」

 結局彼は、なつかしき小学校に、出向くことになる。

 そうしたら、案の定!

 「…やば、こいつ、誰だっけ?」

 覚えのないようなおじさんおばさんたちの群れに、出会ってしまう。

 ピンチばかり!

 …と、思ったら、そうでもなかった。

 「皆、名前や顔を覚えていないはず」

 だろうね。

 「オンセンマツリ、です」

 「ああ…オンセンマツリ君ね」

 会場の受付で名乗ると、ネームプレート付きの帽子が、手渡された。

 「それじゃあ、オンセンマツリ君?」

 「はい」

 「出席者それぞれが、そのネームプレートに名前を書く決まりに、なっているから。書けたら、帽子に付け直して、その帽子をかぶる決まりに、なっているから。よろしくね」

 なるほど。

 このネームプレートを見れば、互いの名前がすぐにわかるということか。

 顔は、それぞれの記憶の中で思い出せ、と…。

 そうか。

 そういう記憶の手探りが、同窓会には、大切かもしれない。

 「…にしても。今の、受付のおばさんは、誰だったのかな?」

 受付にいたおばさんは、目の下が、色っぽかった。ニコッとした口元も、良い感じだった。

 そういう顔は、きらいじゃなかった。

 「でも、だれだっけ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る