第2話ネコさんたちとゆりの木

今日は週に1回のネコ集会の日です。いつものメンバー4匹が集まりました。ネコさんも参加しました。気持ちのいい初秋の夕方です。


「相談したいことがあるニャ」トラさんがみんなに話しかけました。全猫毛づくろいをやめて顔を上げました。


「この木が今度切り倒されることになったそうニャ」

「えー!」残りの3匹たちのしっぽがピンと伸びました

「先週の台風で古くなった木が倒れて人がケガをしただろう。それで枯れてしまった木は危ないから、全部切ってしまおうということになったニャ」

「ふーん」

全員が集会場に立つユリの木を見上げました。


「この木には色々とお世話になったニャー」

「そう、そう、イライラしたときにツメを研がせてもらったニャ」

「そんなことをしていたのかニャ」

「悪いことをしたニャ」

「夏は大きな日陰が出来るし、風通しがいいから涼しくて昼寝に最適だったニャー」


「そこでだニャ」

トラさんが話をまとめました。「お別れの会を開こうと思うのニャ」

全員が首をかしげました。「お別れの会?」

「そう、これまでお世話になったお礼においしいものを食べながら、歌を歌ったりするのニャ」

「木がご飯を食べるのかニャ?」「木には歌はわからないのではないかニャ?」

全員が首をかしげたまま聞きました

「いやいや、おいしいものを食べて、歌を歌ってこの木のことを忘れないようにするということニャ」

「そういうことなら大賛成ニャ」


一週間後の夜、4匹のネコたちはお別れの会でユリの木の下に集まりました。この日のために用意したキャットフードとか、飼い主さんにねだってあけてもらったサバの缶詰とか、バナナとかが並びました。

全猫が食事を楽しんでいると「ここで一曲歌おうニャ!」とトラさんが声をかけ、ネコさんたちは合唱を始めました。ネコさんたちの大声が夜空に広がりだしたところで、「これこれ」と後ろから声がしてきました。


ネコさんたちが気づかずにに合唱を続けているともっと大きな声で「これこれ!」と大声がとんできました。大声にびっくりしてネコさんたちは一斉に振り向きました。

「誰ニャ!」全猫がかたまりながら叫ぶと、白い髭を長々と伸ばしたおじいさんが話しかけてきました。


「ワシはこの木の神さまじゃ」

「神さま?」

「そう、この木の命そのものだな」

「???????」

ネコさんたちはしっぽを上にピョンと伸ばしながら身構えました。

「怪しいものではない。まあこの木が人間みたいなかっこをして出てきたと思ってくれれば良いよ」

「・・・・・・・・」

「お別れの会をしてくれるという話は聞いていたし、みんなの気持ちはとてもうれしかったのでこうして人間のかっこうをして出てきたわけじゃな」

「・・・・」

「びっくりさせてしまったかな。すまぬ、すまぬ。まあわしなりに感謝の気持ちを表したくて出てきたわけじゃ」

「・・・」

ネコさんたちはびっくりして声は出てきませんでしたが、うなずくことはできました。

「それでな。別に永遠のおわかれではないことを知らせたくてな」

「?????」

「この木は倒されてしまうのだけど、私はまた生まれ変わる・・・というのかな。また生まれてくる木の主になる予定なのじゃ]

「???・・・」

「その木は生まれたばかりだから、わしがこうして人間の格好をしてみんなの前にでてくるのは無理なのだが・・・そうだな・・・芽が出て葉っぱが付くようになったら5枚きれいな葉っぱをつけるから、それを目印にしてその木を大切にかわいがってやってくれんか」

「・・・」

「それじゃあ、またな」

おじいさんはそう言い残すとぱっと消えてしまいました。ネコさんたちは目を丸くしたまま腰を抜かし、しばらくは動けませんでした。



それから数か月。春の陽光がまぶしい中でトラさんとネコさんは並んで散歩をしていました。

「たまに思い出すのだけどあのおじいさん、元気かなぁ」

「いまだに信じられないニャ。じつはたぬきにでもばかされていたか」

「それだったらくやしいニャ」

2匹が歩いているのは近所の大きな公園の端っこ。遊歩道から離れていて人が来ない、ネコさんたちの秘密の遊び場です。


2匹は突然歩くのを止めて目を大きく見開きました。2匹の目と鼻の先に新しいユリの木が土から顔をだしていたのです。つやつやに光った新しい葉っぱを5枚つけて。2匹はもっと大きく目を丸くして顔を見合わせました。



【ねこ伝言板のお知らせ】

今週のネコ集会は日曜日の夕方です。今回から場所がかわります。大きな公園のネコさん広場です。最初にトラさんからのお話があります。みんな来てね。


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