Life Correcter ~死の神様と魂を裁くお時間です~

未子みくろ

プロローグ

 今、世界には「死にたい」が溢れている。


 ネットでは毎日誰かが死を望んでいて、ニュースではそれを深刻だと問題視しながら同じ口で少子化だ、経済苦だ、未来に希望はないと言う。

 生きていても辛いだけなのだから、必死で生きようとする方が愚かなのだと、自死ですら美化される。


 そんな今の世の中を柚香ゆずかはとても悲しいと思っていた。


 別に「死にたい」が全て駄目だとは思っていない。誰にだって心が折れそうな瞬間はある。

 ただそれをファッション感覚のような、死を救済のように扱う昨今の風潮にどうしても心を痛めずにいられないのだった。


 ホームに電車が到着する。

 朝のラッシュで混み合う人々の顔はどこか絶望的で、だけど手元のスマホに向ける視線だけはギラついていた。


 そんな見慣れた光景を横目に電車に乗り込もうとした柚香は、人混みの中で自分をじっと見つめる女性に気付いた。

 多くの人が行き交う中で、彼女だけが立ち止まってこちらを見ている。不思議とその女性を避けるように人が流れ、自分と彼女の空間だけがぽっかり空いたような気になった。


 これから仕事なのだろうか、女性はパンツスーツ姿で、黒く長い髪は後ろで一つに結ばれている。

 柚香と目が合うと、少しだけ微笑んだように感じた。


「誰か、知っている人かな…?」


 ちらちらと彼女の前を人が行き交い、よく顔が見えない。

 早く電車に乗らなければいけないのに、なぜだかその女性が気になって仕方がない。


 何だか頭がうまく回らなくなってきた。彼女と視線を合わせたまま、体も動かない。

 学校に行かないと。でも顔が見たい。行かないと。近付かないと顔が見えない。行かないと。どこへ?電車が動き出した。どこへ?顔が見たい。


「ほう!お前、アレが視えていて耐えられるか」


 突然後ろから声がしてハッとする。

 次の瞬間、慌ただしい朝の喧騒が耳に戻った。いつの間にか次の電車を待つ人々でホームはいっぱいで、呆然と立ちすくむ柚香を邪魔そうに避けていく。


 後ろを振り向くが声の主は見つからず、その目を離した隙に先ほどの女性もいなくなっていた。


「今の、何…?」


 初夏だというのに背筋がぞくりとし、何だか嫌なものを感じて、柚香は急いで次の電車に乗り込んだ。

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