第5話姫野リリーⅠ 2
明らかな冤罪の痴漢騒ぎを治めた後、俺はイケと別れ公園に来ていた。
――電車で俺を見つめていた少女と一緒に。
そう、あの少女が俺を痴漢犯だと叫んでいた張本人なのである。
駅員さんに謝罪した後、俺に用があるのは明らかだったので巻き込まないようにイケだけ帰し、少女を人目の少ない公園に誘った。
公園に着いて数分、少女は黙ったままである。
「・・・えっと、それで?」
少女がビクッと体を震わせる。
「俺に何か用があるんじゃないの? ・・・別に怒ってないから怖がらなくていいって」
実際そこまで怒っちゃいない。
イケとのラーメンは今度行くって約束取り付けられたし。
フヘヘ。
「えっと」
少女がおそるおそる口を開いた。
「・・・お、お礼を言いたくて」
またこのパターン?
「いやーでも俺、まったく覚えがないんで人違いだと思うよ?」
「ひ、人違いじゃないよ! 私ちゃんと覚えているもの!」
必死な様子で訴えてくる。
「というと?」
少女は少しトーンダウンして語り始めた。
「あの・・・私少し前に、その、ストーカーに遭って」
俺も現在進行形で遭ってる。
「それで・・・学校の帰り道でいきなり襲われて」
俺も俺も。俺もストーカーとかドMに日常的に襲われてる。
「そこであなたがストーカーをボコボコにして助けてくれたの」
あ、もしかしてあれか。
俺の推しの男性アイドルに悪質なアンチがいて、SNSを調べ上げて特定してフルボッコにした。
なんか女の子襲ってたからついでに助けたっていう。
文庫本にしたら1冊分くらいの特定劇があったんだけどまぁ今はいいか。
その後男性アイドル引退宣言してたけど(泣)。
「私・・・ずっとお礼言いたくて」
「あー・・・名前を聞いてもいいか?」
「あ、ごめんなさい。私、姫野リリーって言うの」
「リリー?」
「あ、私、アメリカ人とのハーフなの」
「あーなるほど」
だから金髪なのか。
「えっと、リリー? ちょっときつい言い方だけど、別にリリーを助けようと思って取った行動じゃないんだよ。だから――」
「ま、待って! お願いこれだけは受け取ってほしいの!」
拒否の雰囲気を感じたのかリリーは捲し立てる。
そして学校のカバンから紙袋を取り出した。
「私、色んな人から話聞いて、攻一が同性愛者って事知ってる。でも、こういうのが良いだろうってアドバイスもらって!」
嫌な予感しかしない。
俺は紙袋を受け取りながらリリーに聞いた。
「ちなみに中身は?」
「私が履いてたパンツ」
「きったね!」
スパーン!
俺は紙袋ごと地面に叩きつけた。
「ちょっとー! 何てことするのー!」
いやこっちのセリフだわ。
どうとち狂ったら使用済みパンツプレゼントしようって気になるんだ。
ん? 色んな人に聞いて、俺が同性愛者だって事を知ったって言ったな・・・。
「おいリリー、色んな人って誰に聞いたんだ?」
「鏡花さんって人に聞いたわ!」
――プルルルルル
『はいあなたの親愛なる隣人』
「鏡花の収集している俺の私物全部焼却する絶対」
『え?! そんな! 待ってくださ――』
――ブツッ
「朔夜さんって人も教えてくれた」
――プルルルルル
『はい雌豚』
「しばらく俺に接近するの禁止絶対」
『んんっ♡ ほ、放置プレ――』
――ブツッ
イカレてんのかどいつもこいつも。
リリーは紙袋を胸に抱いて涙ぐんでいる。
ん? 待てよ? 履いてたパンツって言ったな。
「おいリリー、お前いまパンツは・・・」
「ノーパンだけど?」
「あと一歩でも近づいたら叫び声上げるからな」
「ち、違うのっ! お願い話を聞いて!」
「何?」
「ただパンツ履いてないと興奮するだけなの!」
「おまわりさーん!」
即座に国家権力に助けを求めた。
「やめてー! ――あ! そうよ攻一も一回脱いでみて!」
「は?」
「脱げば気持ちがわかるわ! そうよ!」
ナイスアイデアとばかりに、にじり寄ってくるリリー。
瞬間、背を向け脇目も振らずに逃げた。
「ああ、待ってー!」
追ってくる気配があるがしばらく走っている内にその気配も消えた。
※ ※ ※
後日。
「攻一さん。新しい住人が増えました。リリーさんです」
「攻一よろしく!」
どうあっても逃げられませんでした。
変態がまた一人増えました。
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