『夕暮れの情景』

やましん(テンパー)

『夕暮れの情景』 ~春の日の夕暮れ~、に寄する


 やましんちの、裏屋根のトタン板が言うのである。


 『せんべいくいたい。』


 ぼくは、屋根に上がっていた。


 屋根からは、下界が良く見えるからである。


 ぼくは、おせんべは、大好物だから、つねに、いっしょにもって上がっていた。


 トタンは、波板になっているから、せんべいを食べる口があるのである。


 また、良く、しゃべるし。


 とたんと話していると、いささか気が楽になるのだ。


 『やましん、手術だってなあ。』


 『だれから、聴いた?』


 『カージンゴさ。やつも、せんべいのうわまえをはねるんだ。ま、それも、楽しみの内だがなあ。』


 『おしゃべり、カージンゴか。』


 しかし、今日は、カージンゴもはとさぶろも、見当たらない。


 忙しく通勤帰りの自動車が駆け抜ける。


 ぼくは、波の間に、おせんべいを挟んだ。


 『まあ、だれしも、未来は分からないものだ。自分がある歴史だってわからないんだ。あまり、気にやむな。そら、手術で死ぬこともないとは言えないが、退院した日に核爆弾がくるかもしれないだろ。地震が来るかもな。そう、変わらないさ。』


 『そうか?』


 『うんだ。哲学の問題だ。』


 トタン板の屋根は、ばりばり、とせんべいを食べた。


 『やましん、足元、危ないぜ。』


 『うん。歳だからなあ。しかし、それでも前進するしかない。また、入院したら、静脈注射とかしなくては。うまくいったら、また、せんべ。もってくるさ。』


 『ああ。まってるさ。いつもな。』


 トタン屋根は静かに言った。



        🌇

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『夕暮れの情景』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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