記憶小話ー龍王と女神
@Artficial380
第1話
あるところに、賊が定住した国の、龍の王様がいました。
艶のある長い黒髪に大きく立派な分かれ角をもった、我道を貫き通し一直線に一番乗りで敵陣に攻め込む勇ましいその王の名を、「仁」とその国の民は愛をこめて呼んでいました。
なぜその名前かと言いますと、その王は代々に見ない変わり者で、暇さえあれば、医学本を読みふけり、民と手合わせをするのを日々の楽しみとしていました。嫌な勉強の時間になれば民の村に抜け出して、王族の服のまま同年代の子供たちと泥だらけになって遊んでいたのでございます。この国の武器の主流は刀で、通常は右手に鞘を構え、左手で抜刀するのですが、王は幼いころから、誰とも真逆の左に鞘を構え、右手でいつも抜刀していました。
その理由はとても、とっても簡単です。
「どっちで抜こうが、関係ないだろう。俺は右利きだから、右手で抜刀するんだ。」
えぇ、ただそれだけなので御座います。子供の頃からこんな感じでしたから、この我儘を抑え込める家臣など居るはずもなく、時が経ち、自分の信じた道を走り抜ける力強い男に成長していきました。
…記憶世界の前半は全て今の国に収まるための戦争が起きていました。これはまた異変の一部であるのですが、そのお話はまた違う機会に…。
仁王の国、後の和国も例外ではありませんでした。
和国の状況は厳しいものでした。周りはあの魔族から派生した夜の一族と、一切の正体が謎の王が統べる人間族の国。どちらも古くからある由緒正しい国で、それに比べれば、まだ生まれたばかりの赤ん坊のような和国は、それらに真正面では太刀打ちできないほど小さかったのでございます。
それでも、戦の日は必ず来る定めでした。小さいからと言って、どれだけイソイソと隠れていても、どうしても目を付けられてしまうもの。小さいうちに将来の芽を摘むのは悪いことではありませんから。
仁王はこの上なく焦っていました。ついにあの謎の王から、宣戦布告を叩きつけられてしまったのです。
この時期、下界の国はほぼまとまりつつありました。人間族と一言で言っても、まだ小さい村ほどの集団がいくつもあり、龍人族も、夜の獣族も同じでした。
仁王は出来る限り手当たり次第、自国の周辺で屯していた龍人を国に吸収し、小さな戦を繰り返して少しずつ力を伸ばしていました。しかし塵も積もれば山となるように、兵の疲労も抜けず少しずつ溜まっていきます。
謎の王はその疲労のピークを付け狙い、戦を仕掛けてきたのです…。
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