夜遅くまで君と会話できたら
それにしても、女子が年上に憧れるのは当然どころか、最初から神に定められているのではとさえ考えてしまう。
スマホがない、まだ少しだけ世界が狭かった頃の話。その時私は高校一年だった。
のだけど、周りの男子ときたら。
「〇〇カードの話」
「ゲームの話」
「漫画の話」
今の感覚なら、別に不思議なことじゃないと思う。でも、まだオタクであることは恥だった時代だ。自由に遊ぶYouTuberなんてのもいなかったし、とにかく男子の遊びは幼稚に見えて仕方なかった。
でも——
「おい、部活いくぞ」
「あ、うん」
こくん、と素直そうな瞳が前髪に隠れた男の子。
そう、君だけは少しだけ違って見えた。小柄で華奢な体躯、姿勢のいい背中に私は声をかけられず、ただいつも見送るだけ。
偶然通りかかったふりをして、卓球部の練習を覗いてみる。
「まーじでじれったい……次の休憩で声かけなよ」
「ちょ、絶対やめてよね」
余りに私が煮え切らないせいで、毎日こんな会話を体育館入り口付近でしていた気がする。
でもそれでいいと——それがいいのだと思い込むようにしていた。自分の奥手さを振り払う勇気も、彼の友達に向けられる好奇の視線、或いは冷やかしを真に受けない図太さもなかったから。
そうこうして、まもなく進級を迎えた頃。
『吹部にライバルがいるっぽい』
寝る前は大抵誰かとメールをしていたが、その夜は一睡もできなかったことを覚えている。
感情が二つ、ぐちゃぐちゃに混ざり合った。誰と話しても気分は晴れない。ジャスコのゲームコーナーの騒音が憎たらしい。
手を繋ぐカップルが全員、自分を馬鹿にしているようにすら感じる中、
どうしよう。先を越されちゃう。
今日こそ何か話さなきゃ。いや、それだけじゃ足りない?
いっそのこと、帰り道で待ち伏せして、友達を居づらい空気にしてやろうか——
授業中も、帰り道でもそんなことばかり考えては一日、また一日と過ぎていく。気がつくと、外は雪が降り始めていた。
残り時間、少なくなっているのを忘れずにね。
白い空がそう言っている気がした。
「まさかポエムに手を出してしまうとは」
その白い空を背景とし、打ち込んだ文章など寒すぎて今でも思い出したくない。懐かしきガラケーポエム、まさに黒歴史。
皮肉にも、その時名案を思いついた。
「お母さん、夜だけ携帯借りてもいい? 一時間くらいでいいから」
さて、履歴とかは消しておかなくちゃね。
問題はいつ渡すかだ、と私は考える。体育の時間なんかよりよっぽど、脈拍を早めながら。
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