聖女となって世界を救え? いやいや自分『男』ですけど!?
蒼色ノ狐
第1話 召喚された俺とダメ王子とメイドさん
「よぉし!召喚に成功したぞ!流石、俺!」
「…うるさいなぁ。」
せっかくの日曜だというのに人様の部屋で騒ぐ輩を見ようと目を開けるとそこには。
「…は?」
自分がいた。
より正確に言えば、何やら昔話に出てくるような王子様の恰好をした自分が小躍りしている。
「…んん!?」
よく見れば自分が今いる場所も可笑しい。
昨日は確かに自室で寝たはずである。
バカでかいがただ白いだけの不気味な大部屋の真ん中で寝た覚えはない。
「…どうなってんだ、一体。」
「アントニー様、どうやら変わり身の方がお気づきになられたようですが?」
「ん?あ、はいはい。相変わらず気が利かねぇなシンシア。説明ぐらいそっちでしとけよ。」
「申し訳ございません。」
「ま、お前のその暗さとも今日でお別れだがな。さぁて。」
アントニーと呼ばれた人物は漣に近づき目線を合わせると、両手をポンと漣の両肩に置くと。
「じゃあ聖女のお役目、頑張ってな。」
そう言って興味が無くなった如く連から離れていく。
「は、はあ?聖女?…俺、男だけど?」
そんな漣の問いかけにも答えず、アントニーは何やら大きな荷物を背負っている。
「じゃあなシンシア。あとは上手くやっといてくれ。」
「分かりました。息災で、アントニー様。」
そう言ってアントニーはこの白一色の部屋から漣を
「え?…あの…?」
状況が分からず固まる漣であったが、シンシアと呼ばれた女性が漣の側に近づいてくる。
恰好からしてメイドである事は何となく漣にも察する事は出来たが、にわかには信じられずにいた。
それほど美人でありモデルのようにスラッとしているのに出るべきところは出ているという反則的な美貌をしていた。
彼女は漣のすぐそばまで寄り、掛けている眼鏡の位置を直すと漣に対してスカートの裾をわずかに持ち上げ頭を下げた。
「今、この場を持ちましてあなた様の従者となりましたシンシアと申します。以後よろしくお願いいたします。」
「は、はあ。白金漣っていいます。よろしく。」
頭が追い付いていないのか漣は自己紹介すると握手をしようと手を差し出す。
だが一向にシンシアから手が差し伸べられる事が無かった。
「あの…握手を。」
「お気になさらず。すでに白金様と私の関係は対等ではありません。握手は無用です。」
そう淡々と言うシンシアであったが漣はまだ食い下がる。
「いや、でも。よく状況は分からないけど、お世話になるんだから握手ぐらいしておきたいな、って。」
「…それで白金様が満足されるのであれば。」
ようやくシンシアから手を差し伸べられ握手をする二人であったが、握ったまま時間がどんどん経過していく。
たまらず漣はとりあえず話題を振る事に。
「き、綺麗な手ですね。…なんて。」
「!?」
そう言われた途端、シンシアは素早く手を放し漣から距離を取る。
「す、すみません!気持ち悪かったですか!?」
急いで平謝りする漣にシンシアは先ほどまでと同じく淡々と答える。
「いえ。こちらこそ申し訳ありません。突然の言葉につい…お怪我はありませんか白金様。」
「け、怪我は無いですけど。その白金様と呼ぶのはどうにかなりませんか?」
「では漣さま。と呼ばせてもらいます。」
「で、出来れば呼び捨てがいいなー。なんて。」
「申し訳ありませんが仕える主人に対して呼び捨てなど出来ません。」
「そ、そうですか。」
一つ一つ淡々とされど美しい所作で答えるシンシアに感心しながらも、漣はとにかく本題に入る。
「それでその…ここは、どこですか?」
「お答えします。まず事前に言っておくと、この世界の名は『スレイブニル』。漣さまからの視点で見れば異世界に当たります。」
「…はい?」
その後、長きに渡るシンシアの説明を漣は自分なりに解釈していった。
「…つまりこのスレイブニルには偶発的に穢れと呼ばれる怪物が現れて、それを戦って払うのが聖女と呼ばれる女性の仕事。」
「合っています。」
「だけどさっきまで居たこの国、『シルビアン』の王子であるアントニーに聖女としての力が流れている事が判明する。」
「補足させてもらいますと、歴史上を見れば僅かではありますが男性でも聖女の力を持った方がいらっしゃったようです。」
シンシアの補足に頷きながら漣は、ある意味一番大切な部分をまとめる。
「だけれども。アントニーは聖女として戦うのを嫌がった。」
「ご本人曰く、自由を愛してる。だ、そうですが。」
「そこでアントニーは禁じられた魔法?である召喚を使って異世界の自分とよく似た存在を呼び寄せて自分の代わりをやらせようとした。」
「はい。」
「そして呼び出されたのが?」
「漣さまです。」
「そしてアントニーは?」
「王子である事を隠して他国で豪遊の予定とか。まずはカジノのご予定だそうで。」
「…。」
「…。」
しばらくの間、沈黙がこの真っ白な部屋を包む。
だが、やがて漣の口から言葉が漏れ出す。
「フ。フフフフフフフフフフフフフフフフ!!!」
「…笑ってらっしゃるので?」
「ふっ!ざけんな!戻ってこいクソ王子!!」
漣の怒りの咆哮は真っ白な部屋によく響いたが、シンシアは涼しい顔で忠告する。
「それは難しいかと。すでにアントニー様は魔法を使い他国に渡った頃でしょう。戻る事も、またこちらが追いかける事も至難かと。」
「分かってますよそんな事は!けどこんな目に合わされて怒りをぶつけない方がどうかしてるでしょ!」
「…そうですか。ならば私で怒りを発散してください。」
再びシンシアは眼鏡を外しつつズイと漣に近づく。
「何でそうなるんですか!?」
「私がアントニー様に協力した者だからです。どのようになるか分かっていながら私は主人の命には逆らいませんでした。」
「…。」
「ですから漣さま。あなたには私で怒りを発散する権利があります。」
「…そうか。なら一つ命令する。」
「はい。何なりと。」
「二度とそんな事を言うな、自分の身を大切にしろ。…それが命令だ。」
そう言うと漣は頭を掻きながらシンシアから離れる。
「…よろしいのですか?」
「シンシアさんは命令に従っただけだろ?まあ思うところが無い訳じゃないけど。それでも八つ当たりで怒りを発散したくないから。」
「…そうですか。」
「ただ!万が一あのバカ王子が俺の前に現れた時には鉄拳制裁を手伝ってもらうからな!」
「承知しました。その時が来れば漣さまをサポートさせて頂きます。」
(あれ?少し笑った?)
もう一度シンシアの顔を見る漣であったが表情は平常そのものであった。
(気のせいかな?)
「漣さま。一つ進言してもよろしいでしょうか?」
「ん!?あ、ああ。何?」
「城の兵士たちが異変に気付きここに迫って来ています。」
「……はい?」
漣が耳を澄ませば確かに金属音と人の怒号のような声が聞こえて来る。
「…シンシアさん。この場合どうすれば?」
顔面蒼白になりつつ縋るようにシンシアに問いかける漣であったが、帰って来た答えは相変わらず淡々としたものであった。
「抵抗しない方がよろしいかと。」
「…はい。」
近づいてくる金属音を聞きながら、漣はどこまでも白い部屋の天井を見上げ寝巻きのまま誓うのであった。
(アントニー、マジで、ボコる。)
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