第54話:王侯貴族の蠢動
僕は毎日海草のスープを飲むようになった。
茸のスープも美味しかったけど、海草のスープの方が美味しかった。
行商隊の人たちは肉を加えるから、僕は自分だけのスープを作る。
海の商品を自由に買えるようになった行商隊は、直ぐに村を出た。
50人50頭の行商隊が、8歳になって神与のスキルもらった子と新牛を加えて、54人54頭になった。
まだ子供だし、神与スキルも行商向きではなかったそうだけれど、村にいると学べることが限られるので、行商隊に加わって世界を見るそうだ。
僕は一応行商隊に加わっているけれど、あまり一緒にいない。
昼の移動中は、海を始めとした色んな所に飛んでいく。
ロック鶏が何所にでも連れて行ってくれるから、毎日幸せだ。
行商隊と信用を築いている村や街だと、取引の場に参加できる事もある。
特にウィロウと一緒に入れる村や街は、ジョセフ代表に頼んで参加する。
でも、行商隊を警戒する村が多いので、その機会は少ない。
家にはほぼ毎日帰っている。
行商隊が野営をして出発するまでだから、暗い間だけだけど、晩御飯は家族一緒に仲良く食べている。
何故そんな生活を6カ月も続けられたのか?
海からとんでもなく遠い場所で生の海魚を売り続けるのだ。
便利で役に立ち、お金になる神与スキルを持つ人間がいるのは明らかだった。
普通なら、僕の開拓村がある国の王侯貴族だけでなく、周囲の国の王侯貴族まで、僕とウィロウを手に入れようと動き出すのが当然だが、今のところ何もない。
理由はとても簡単だ、僕が眷属スキルを隠さず派手に見せつけているからだ。
どんな小さな村に行商に行く時も、ロック鶏を一緒に行かせる。
僕が日帰旅行でいない時も、言い聞かせたロック鶏に行商隊を守らせた。
行商隊が海の産物を手に入られるのはロック鶏を調教したからだと思わせた。
堂々と商売できるのは強力なロック鶏の守りが有るからだと思わせた。
何よりもウィロウに王侯貴族の目が向かないようにした。
それで全て上手く行くかと思っていたのだが、想定外の事が起きた。
開拓村の有る国から2カ国間に挟んだ国、エリクサー薬草で伝説の魔法薬を作れるようになった貴族のいる国で、謀叛が起こって王家が変わった。
伝説の薬草を作れるようになった貴族が、お金儲けだけでは欲が満たせず、伝説の薬草を使って無敵の軍隊を作り、王家を攻め滅ぼして王に戴冠してしまったのだ。
当然だが、更に力を手に入れようとエリクサー薬草を買い集めた。
行商隊のジョセフ代表はこれまでの慎重な態度を忘れたように売れるだけ売った。
今さら売り惜しんでも意味はないと考えたのだろう。
だが、売り方は慎重だった。
欲深い新王がいる国には行かず、常に間に1カ国挟んだ場所の薬種商人か冒険者ギルドに売るようにした。
ジョセフ代表の考えでは、これで全て上手くいくはずだった。
中には少し馬鹿な者もいるが、普通の王侯貴族当主は、最低限の知恵がある。
そうでなければ、近隣領主に滅ぼされて領地を奪われるか、一族に殺されて領主の座を奪われるのだそうだ。
だから王侯貴族はロック鶏を恐れて手を出さず、安全に行商を続けられると思っていたそうだが、愚かな貴族が開拓村と行商村を襲ったのだ。
行商隊が村から離れている間に襲い、家族を人質に取れば大丈夫と思ったようだ。
後に聞いたのだが、これにはフィンリー神官もとても驚いたそうだ。
領主がお金や人を出して開拓した村ではないのだ。
教会がお金と人を出して開拓した村なのだ、後で教会から激烈な報復をうける。
だから、普通なら、手を出すにしても、貴族がやらせたのがバレないように、盗賊団に偽装するのが普通なのに、堂々と領主軍を使って襲ってきた。
領地が接しているとは言っても、誰が見ても明らかに教会領だと分かる村に手を出すなど、教会だけでなく信心深い人間全てを敵に回す愚かな行為だ。
そんな愚かな領主ではないから、教会は開拓地に選んだのだが、その当時に領主は先年亡くなり、欲深くて凶暴で愚かな次男が長男を殺して跡を継いでいたのだ。
愚かな後継者は、行商隊が戻る前、ロック鶏が戻る前に開拓村と行商村を襲い、家族を人質にすれば、莫大な富だけでなく、ロック鶏も手に入ると思ったのかな?
僕たちに連絡が入る前に占領しようと、戦力が限られてしまう盗賊団に偽装した者たちではなく、持てる全ての戦力、領主軍を投入したのかな?
どちらにしても最悪の手段だった。
今生では親孝行をすると決めていたのに、お母さんの心配を押しのけて世界中を旅する親不孝をしている僕が、家族の守りをおろそかにするはずがない。
表に出ているのは1羽だが、行商隊を、ウィロウを守るロック鶏は3羽いる。
常に僕を守ってくれているロック鶏が4羽だ。
開拓村と行商人村を守るロック鶏が3羽残っているのだ。
僕が人間を襲ってはいけないと言っているので、普通は絶対に人間を襲わない。
ただ、開拓村と行商人村を守る里山蔦壁を超えようとする者は、殺さない程度の力で追い払って欲しいと言っている。
愚かな領主の命じられた軍が、開拓村と行商人村を襲いに来たが、彼らは想像もしていなかった、鋭い棘を持つ蔦壁に守られた村を見る事になった。
ここで諦めて逃げかえればよかったのに、城壁を破壊しては入ろうとしたのが、彼らの運命を最悪のモノにした。
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